革命前夜 ~La Révolution réfugiés~
もともとは白色だったのだろうが、錆で茶色くなったビルの屋上の縁に、ひとりの青年が立っていた。青年はクセのかかった茶色い髪をしており、タートルネックセーターの上に茶色いコートを着ていた。顔は深刻な表情で、その若さには似つかわしくない雰囲気だった。
「同志、そろそろだ」
後ろから歩いてきた赤いジャンパーの男が話しかけた。男は髭を蓄え、青年の倍ほどの年齢に見える。青年は縁から降りて振り向いた。
「…モーゼル」
「なんだ?」
「あなたには妻も子供もいましたね。今のうちですよ」
モーゼルと呼ばれた赤いジャンパーの男は、あご髭をさすりながら上を見た。空は曇っていて、昼間だったが夕方のような薄暗さだった。
「なんだろうなあ、同志を見ていると、忘れていた気持ちを取り戻すようなんだ」
「忘れていた気持ち?」
モーゼルは昔を思い出し、微笑みながら話した。
「学校やなんかがあった頃…いやもっと前かな。ヒーローを夢見てた子どもの頃か」
それを聞くと、青年は少し顔を曇らせた。
「…先に言っておきますが、殉教など自己満足に過ぎませんよ」
「それは分かっている。だが同志、私からしたらあなたはまだ子どもだ」
男は訴えかけるようにそう言った。しかし青年は意にも介していないようだった。
「我々は同志です。身分など意味をなさない」
「いいや、これは男の甲斐性ってやつで、大人の男は子どもの前に立つもんなんだ」
「モーゼル、あなた達がこれから世界を動かしていくんです」
「同志こそ、これからの世界に必要な人だ」
青年は心底困った顔をした。腰に手を当ててしばらく考えた後、話しはじめた。
「もともと拾った命、せめて大義に使おうと思っていましたが…」
「思っていた…?」
青年は緊張を解き、諦めたような笑顔を見せた。
「生きるというのは、ままならないものですね」