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日本共和国138・二〇六五  作者: 夏草かげろう
序章
1/5

革命前夜 ~La Révolution réfugiés~

 もともとは白色だったのだろうが、錆で茶色くなったビルの屋上の縁に、ひとりの青年が立っていた。青年はクセのかかった茶色い髪をしており、タートルネックセーターの上に茶色いコートを着ていた。顔は深刻な表情で、その若さには似つかわしくない雰囲気だった。


「同志、そろそろだ」


 後ろから歩いてきた赤いジャンパーの男が話しかけた。男は髭を蓄え、青年の倍ほどの年齢に見える。青年は縁から降りて振り向いた。


「…モーゼル」

「なんだ?」

「あなたには妻も子供もいましたね。今のうちですよ」


 モーゼルと呼ばれた赤いジャンパーの男は、あご髭をさすりながら上を見た。空は曇っていて、昼間だったが夕方のような薄暗さだった。


「なんだろうなあ、同志を見ていると、忘れていた気持ちを取り戻すようなんだ」

「忘れていた気持ち?」


 モーゼルは昔を思い出し、微笑みながら話した。


「学校やなんかがあった頃…いやもっと前かな。ヒーローを夢見てた子どもの頃か」


 それを聞くと、青年は少し顔を曇らせた。


「…先に言っておきますが、殉教など自己満足に過ぎませんよ」

「それは分かっている。だが同志、私からしたらあなたはまだ子どもだ」


 男は訴えかけるようにそう言った。しかし青年は意にも介していないようだった。


「我々は同志です。身分など意味をなさない」

「いいや、これは男の甲斐性ってやつで、大人の男は子どもの前に立つもんなんだ」

「モーゼル、あなた達がこれから世界を動かしていくんです」

「同志こそ、これからの世界に必要な人だ」


 青年は心底困った顔をした。腰に手を当ててしばらく考えた後、話しはじめた。


「もともと拾った命、せめて大義に使おうと思っていましたが…」

「思っていた…?」


 青年は緊張を解き、諦めたような笑顔を見せた。


「生きるというのは、ままならないものですね」

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