初めてのピクニック
9話目です。
前の話に閑話を挟みました。
ドレッドくんが初めて家の外へでます。
俺の1歳の誕生日から、数ヶ月が経過した。
俺は、誕生日の1週間後ぐらいに、遂に歩けるようになったんだ。
最初は覚束ない足取りだったけど、歩きまくった結果、なんとか普通に歩けるようになった。この辺、ハイハイしまくったおかげだといいな。
コンコンと、小気味いいリズム音で扉がノックされる。
「失礼します、ドレッド様。」
そう言って、入ってきたのはパリキだ。
パリキは毎日俺を起こしに来る。今日はたまたま俺の方が早く起きたけど、ほとんど毎日俺が起こされている。
前世で働き詰めだったからかなぁ、その反動で最近朝が眠いのだ。
「ドレッド様、もう起きてたのですね。」
「ぱりき、はやくいこう。」
そう言って俺は歩きだす。
遂に俺は喋れるようになったのだ。
これまで暇な時間を見つけたら発声練習をしていた甲斐があった。
まだ若干舌足らずな感じが残っているが、それも時間の問題だろう。
パリキが開けている扉を出て、俺はリビングに向かう。
リビングは一階にあり、寝室は二階にあるので、どうしても難関の階段がある。
階段は一段一段がおれの身長の3分の2ぐらいあり、前まではパリキに抱っこしてもらって降りていたのだが、歩けるようになったことだし、今日は自分で降りてみようと思う。
幸い、パリキは俺を止めようとしていない。今パリキに止められたら、赤ん坊の力じゃ勝てないからな。
降り方としては、ジャンプという方法もあったが、これで足を骨折でもしたら大変なので、ゆっくり慎重に降りていこうと思う。
ふぅ、キツイな。まさか階段を降りるのがここまでキツイとは思わなかった。
そう思いながら階段を降りていく途中、体力が底をつき、カクン、と階段から落っこちそうになってしまった。
「ドレッド様!」
そう言いながら、パリキが抱き上げてくれる。
あっぶねぇ。危機一髪だったな。
そこからはパリキに抱っこしてもらった状態で、階段を降りた。
なんか途中でパリキから物凄い感謝されたな。
なんでだろうな?
そんなことを考えていると、いつの間にかリビングに着いていた。
リビングには、父さんと母さんが長机に座っていて、目の前に朝の料理が置かれた状態で待っていた。
「お、ドレッド起きたか。よし、飯を食うぞ。」
「ドレッド、早く座りなさい。」
そう言って、母さんは俺を手招きして椅子に座らせる。
全員が着席したことを確認した父さんが、胸の前で手を組み神に祈りを捧げるポーズをとった。
この世界ではいただきますとかそういう概念は無く、神様に祈りを捧げてからご飯を食べるのだそうだ。母さんもこのポーズをとっている。
俺も着席して、同じポーズをとる。
正直言って神様への信仰心とかそういうのは全然無いけど、一応ポーズだけはとっておかないとね。
カチャカチャと銀食器を打つ音だけが響く朝の食卓。ちなみに俺はナイフやフォークがまだ手が上手く動かなくて使えないので、スプーンで食べている。
「そういやアリス。お腹の子の調子はどうだ?」
「順調に大きくなっていってますよ。あなた。」
そう言って、母さんは自分の大きく膨らんだお腹をポンポン、と叩く。
そう、俺の誕生日パーティーが行われた数日後に母さんがまた子供を身篭ったのだ。
神様が次は双子が生まれてくるって言ってたから、生まれてくるのは知ってたけど、いつ生まれるのかは分からなかったからな。
ただ、問題はそこじゃない。神様に言われたが、次に生まれてくる双子は、『勇者』と『魔王』なのだ。
伝記や童話を読む限り、勇者と魔王は絶対に争う運命にある者なのだ。
その相反する勇者と魔王が、同じ親から、同じ時間に、血の繋がった双子として生まれてくる。はっきり言ってこれはこの世界からしたら異常も異常だろう。
今、この世界は魔族と争っている。
魔族は、今俺たちがいるこのバラキルド大陸の西にある『魔大陸』と呼ばれるところに住んでいる。
正確には魔大陸じゃないらしいのだが、それは魔族にしか伝わってないらしく、ここバラキルド大陸の人たちは、魔族がいる大陸という意味で魔大陸と呼んでいるらしい。
そして、その魔族の王である魔王が、このバラキルド大陸を魔族を引き連れて大軍で攻めてきた。
この危機に、全ての種族が初めて本当の意味での一致団結手をし、魔王軍と戦った。
しかし、魔族は身体能力が総じて高く、魔術も扱うのに長けているので、最初は人類は劣勢を強いられた。
だが、ここで、もう少しで魔王軍がバラキルド大陸を取る、というところで勇者が現れた。
その勇者と名乗る青年の力は、絶大なものだった。
あれほど劣勢を強いられたのが嘘のように巻き返し、遂には魔王を追い詰めた。
そして、その魔王にトドメを刺すと共に、勇者も倒れ、この戦争は終結した。
それから、不定期に魔王が生まれるようになったのだ。そして、魔王が生まれると勇者も生まれる。つまりどちらか片方が生まれたことが分かると、もう片方も生まれたことが分かる、ということだ。両者は惹かれ合い、そして殺し合う。そこにあるのは戦争だけたった。
魔王と勇者という存在は、ただ強い者がそう呼ばれたのではない。
勇者と魔王には、体に紋章がでるのだそうだ。
それは天使の翼のような紋章だとか、はたまた悪魔のような紋章だとか、その紋章のことについて様々な憶測が飛び交っているが、それは憶測の域を脱していない。
そして、今の人類と魔族は、人類は勇者を、魔族は魔王を待ちながら戦争をしているのだ。と、言っても今は小競り合いが少し起きるくらいで大きな戦争はおこっていないがな。
その魔族との戦争はもう500年以上続いているそうだ。
勇者と魔王は、言うなれば片方からは平和を齎す救世主、片方にとっては破滅を誘う悪魔のようなものだ。
そして、その勇者と魔王が血の繋がった兄弟として生まれてくるのだ。この異常性が分かるだろう。神様は本当に何を考えているのだろうか。
双子が生まれてくるまで後数ヶ月はある。その間に何か考えとかないとな。
俺がそんなことを思っていると、
「そうだ、今日ピクニックにでも行かないか?天気も良いし久しぶりに行きたいな。」
「いいですね。私も同じことを思っていました。ですがお腹の子のこともあるのであまり遠くへは行けませんよ。」
「分かっている。村を突っ切ったところにある草原でどうだ。あそこなら近いし、ピクニックをするにはもってこいの場所だろ?」
「はい、そこならいいですよ。ではパリキ、ピクニックの食事の準備お願いしますね。」
「承知致しました。ではピクニック用にサンドイッチでも作りましょう。」
パリキは、ピクニック用のサンドイッチを作るために厨房に向かっていった。
ピクニックかぁ。前世では子供の頃に行っただけであまり行ったことないな。
そういや、これが俺にとって初めての外になるわけか。ちょっと楽しみだな。今からワクワクしてきた。
それから、ちょっとした準備をして、俺らは、ピクニックに出かけた。
俺らが今から行く場所は、このカリソン村を突っ切ったところにある草原だ。
俺らの家と、村を挟んで直線上にある。
だから、自然俺らは村を突っ切って行かなければならない。
そして、今俺らは村を突っ切っているのだが、その村人が俺らに向ける視線は、まるで悪魔を見るかのような、恐怖に彩られた視線を向けていた。
理由は分かる。
俺の髪の色が黒いからだろう。
この世界のほとんどの人が、アルディアス神を信仰している。
そして、アルディアス教の総本山であるカーディン神聖国は、黒い髪の色は、神に見放された者であり、忌むべき存在である、と教えを説いている。
さらに、母さんの髪の色はブロンド、父さんの髪の色はプラチナブロンド。
二人の間に生まれた俺が、黒髪になるなんてことはありえない。そのことからも、村人たちの心はすっかり、あそこの家の息子は神に見放された忌むべき子供であると思っているらしい。
多分、この髪は、前世の影響を受けているのだろう。
前世バリバリの日本人だった俺は、黒髪黒目だったからな。
その影響を受けて、本来なら生まれるはずのない黒髮の俺が生まれたのだろう。
「••••••気にするな。ああいう輩は放っておくのが一番だ。」
父さんはそう言いながらも、手を血が滲むまで握り締めている。母さんも、悲痛そうな表情を浮かべている。パリキに至っては殺しそうな眼光を村人たちに放っていた。
父さんや母さん、パリキは、黒髮黒目の俺を、アルディアス教の教え通りなら忌むべき俺のことを、ちゃんと思っていてくれていて、認めてくれているのだ。
俺は、母さんや父さん、パリキのことが大好きだ。
その三人さえ俺のことを思っていてくれれば、それ以外のことなんかどうだっていい。
こうやって忌避や蔑視を受けても、そんなことでは怒らない。
ただ、俺がこんな見た目のせいで、三人にまで風評被害が及ぶのは申し訳ない。
さっきからも、あっちの村人が「やっぱあの家は呪われている」とか「恐ろしや••••••」とかひそひそ話しているのに、ブチ切れそうになる。俺のことを悪く言うのは100歩譲って許すとしても、家族のことを悪く言うのは我慢ならない。
だけど、父さんや母さんやパリキが我慢しているのに、俺が怒るのはお門違いだ。
そう思い、俺はおとなしく言われるままになっていた。
「早く行きましょ、あなた。」
「そうだな、アリス。」
そう言って、歩を進めると、
「この呪われた家族が!そんな忌子を産むんじゃねぇ!!!」
そう言って石を投げつけてくる男がいた。
俺は、それを見た瞬間理性が飛びそうになった。そうちのやったことにもう我慢の限界だった。
今すぐにそいつを殺すために飛び出そうとしていると、父さんがぎゅっと、俺の手を握って俺に優しく微笑みかけた後、飛んできた石を片手で掴んだ。
そして、投げてきた相手を、俺が見たことがない底冷えするほどの凍てついた瞳で睨みつけた。
「俺のことを侮辱するのはまだ構わん。だが、家族のことを馬鹿にするなら••••••」
手に持った石を握り潰しながら、父さんは宣言した。
「かかって来い、俺が相手になってやる。」
そう、言った。
その一言で、その男以外の人も全員が押し黙り、蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げていった。
「•••さて、時間をとったな。少し急ごう。」
そう言って、優しい笑みを浮かべたいつもの父さんが歩き出した。
その後ろを俺たちが付いていく。
こんなことが起こった後のピクニックだったが、さっきの奴のことも忘れて、何事もなく楽しいピクニックになった。
9話目もありがとうございました。
ドレッドくんが初めて外にでましたよ。
こう聞くとニートみたいになっちゃうけど、ドレッドくんまだ、1歳児ですからね。ちょっと早いくらいです。
次話もよろしくお願いします。