小さな冒険
五話目です。ドレッドが家の中を冒険します。
楽しそうです。
俺が転生してから、8ヶ月がたった。
この前知ったことだが、この世界の暦は『神聖暦』といい、これは北の『カーディン神聖国』が創設された年を神聖暦の1年としたものらしい。
地球の1世紀とかと同じようなものだと考えてほしい。
そして、今は神聖暦763年だそうだ。
この世界には、1月とかの概念は無くその代わりに、『風の月』、『火の月』、『土の月』、『水の月』というものがある。
これは、魔術の基本四属性になぞらえて決められたそうだ。風の月が春、火の月が夏、土の月が秋、水の月が冬だ。
ちなみに、俺が生まれたのは風の月の20日、日本でいうと3月の15日くらいだ。
それから8ヶ月が経ち、今は大体、初冬に入ったところだ。
俺の部屋に設置されていた暖炉に火が灯り、その横でアリス母さんが糸を紡ぎ、布を編んでいる。俺はその膝の上に乗り、母さんのお腹に背を預けている。
そうそう、最近の大きな出来事と言えば、遂に俺はハイハイができるようになったのだ。
前まではズリバイも満足にできなかったんだが、今の俺はこの家の中ならハイハイで何処にでも行き来できる。
まぁ俺がどっか行こうとするといつもアリス母さんかパリキが付いてくるんだがな。
ガイル父さんは畑仕事や薪割りなんかで忙しいらしく、遊ぶ暇がない。
まだ8ヶ月の赤ん坊だから心配なのは分かるが、こうも付きまとわれると、常に見られてる気がして妙に落ち着かないんだよな。
そして、俺はこの家をハイハイし、階段があるところはアリス母さんやパリキに頼み、家の中を歩きまわり、俺はこの家の構造が大体理解できた。
この家は、西洋の屋敷といった感じの外見をしていて、大体の家が平屋建てなのに対してこの家は2階建てだ。
1階は、そこそこな広さのエントランスに、結構広いリビング、そして厨房がある。
2階は、アリス母さんが趣味で集めた本が置かれている書斎。アリス母さんとガイル父さんの寝室。パリキの部屋。そして俺の部屋。
俺の部屋とパリキの部屋は隣り合わせになっており、夜俺が泣いたらすぐにパリキが駆けつけれるろうになっている。
まぁ俺は夜泣きしたことは無いんだけどな。
というか冒険者ってこんなに儲かるの?アリス母さんとガイル父さんは二人で冒険者やってたみたいだけど、凄いな。
喋れるようになったら聞いてみようかな。
さて、この前家中を探索したから、今回は一番気になっていたアリス母さんの書斎に行ってみようと思う。
あの書斎は、前探索したときに見つけてから、ずっと気になっていたからな。
俺は母さんの膝の上から降ろしてもらい、部屋の前までハイハイで行き、扉の前に立っていたパリキが扉を開けてくれる。
そこから俺は廊下に出て、母さんの書斎目指してハイハイをした。パリキが俺を抱き抱えて行こうとするが、俺はそれを首を振ることで拒む。
たしかにパリキに抱きかかえてもらった方が早いかもしれないが、これは俺なりの筋トレなんだ。
まだ赤ん坊の体で腕立て伏せとかはできないから、こうやって少しは運動することで、多少は筋肉が付いてくれればいいなぁと思っている。
ハイハイにハイハイを重ね、やっとの思いで書斎に到着することができた。
目の前に聳える重厚感溢れる木材で作られた扉を、パリキに開けてもらい、俺はアリス母さんの書斎に入った。
アリス母さんの書斎には、ズラァッと本棚が並んでおり、その本棚の中はぎっしりと詰まっていた。
その本棚にはジャンル別で分けているようで、『童話』や『歴史』など、多数のジャンルが存在していた。
『魔術の心得〜初級編〜』とかいう、いかにもファンタジーな本があり、凄く読みたかったけど、生まれて8ヶ月の俺が教えてもないのに字が読めるとなったら、絶対騒がれるのでここは子供らしく『勇者と七人の英雄たち』という本にした。
結構高い位置にあったので、 パリキに取ってもらった。
そしてパリキが座って、その膝の上に俺が乗った状態で本を読んでもらった。
この本は子供は全員読むと言われるほど有名な話で、簡単に概要を話すと、勇者と七人の英雄たちが魔王を倒すという、ファンタジー物語らしい。日本で言うところの桃太郎と同じようなものだ。
そういや、神様が俺の次に生まれてくる双子が勇者と魔王って言っていたな。
あのときは訳が分からなかったが、生まれてくる双子の為にも、勇者と魔王について、詳しく知っといた方がなにかといいだろう。
そうして、俺はパリキに『勇者と七人の英雄たち』を読んでもらった。
その話は、よくある童話という感じだった。
魔王がこの大陸を攻めてきて、魔王の強大な力を前に攻めあぐねていた人類に、遂に勇者と呼ばれるものが生まれた。
その勇者と、エルフ、ドワーフ、獣人族から人狼族、獅子人族、精霊族、竜人族、そして、本来は敵だが、魔王のやることに不満を持つ魔族が力を合わせて、勇者と共に闘うといった物語だった。
良く言えば王道、悪く言えばありきたりな童話だった。
ん〜。この本からはあんまり勇者と魔王についての評細が書かれていなかったな。
なんかもうとにかく勇者強い、でも魔王も凄く強かった、魔王恐ろしや、ってな感じで凄くアバウトな表現が多く、そこまで深い内容とかは書かれていなかった。
それなのにこの本は結構分厚くて、もう昼を回った後だった。
いつもなら昼ご飯を食べて寝る時間だ。
そうして俺はおまり収穫がなかった『勇者と七人の英雄たち』を閉じてもらい、昼ご飯を食べてから、ぐっすりと昼寝をして、勇者と魔王について考えながら、一日を終えた。
五話目も読んでいただきありがとうございます。
ドレッドが遂にハイハイできるようになりました。
ていうか赤ちゃんって大体8ヶ月でハイハイできるようになるんですね。もうちょい遅いかと思いましたよ。
六話目も順次投下していきます。