固まる亜耶…遥
職員室を出て、保健室に辿り着けば、見慣れた男子生徒が三人、廊下で話してる。
俺は、そいつらに声を掛けた。
「お前ら、三人揃ってどうした?」
用もないのに保健室の前を陣取ってるのが、不思議だったんだ。
こっちに気がついた龍哉が。
「遥さん。今、亜耶ちゃん寝てるみたいで、うちの御姫さんに入るなと言われてしまって…」
困った顔をして言う。
そりゃそうだ。
俺だって、自分の嫁の寝顔を他の男に見て欲しくはない。ナイス選択だ、相沢。
「そっか…。それは、悪いことしたな」
俺の言葉に。
「悪いなんて思ってないでしょうが…」
龍哉が口を尖らせて言う。
まぁ、そうだが。
こいつ、長いこと傍に居ただけ、俺の感情を見事に読み取りやがる。
感心してると、戸が開いた。
「あっ、先生。ちょうど今、亜耶が起きたところです」
相沢が、俺を視界に捉えてそう言葉を出す。
「そうか…。ありがとうな。お前ら、気をつけて帰れよ」
俺は、六人にそう言葉を投げ掛けて、中に入った。
中に入れば、カーテンを開ける音がして、その方に目を向ければ亜耶が満面の笑顔で迎えてくれた。
「お疲れさま、遥さん。仕事は、終わらせてきたんでしょうね」
って、笑ってるようで笑ってない顔って、こんなにも怖いものなんですね。
俺自身、よくやる顔だけに怖さが増す。
「えっとですね。伯父に、今日は帰れと命令されまして…迎えに来たのですが……」
タジタジになりながら、そう答えたのだが亜耶は信じてくれず鋭い視線を向けてくる。
「"亜耶ちゃんのフォローしろ"と言われたので、今日は、ゆっくり亜耶と話ができるようにしてくれたわけですよ…」
伯父の真似をして言葉を発すれば、半信半疑ながらも頷いてくれ。
「うん。じゃあ、帰ろう」
苦笑混じりの顔を見ながら、傍らに置かれている鞄を手にし、空いてる手で亜耶の手を握る。
「遥くん。気を付けて帰りなさいよ」
伯母が、心配そうに声を掛けてきた。
「はい。あ、ありがとうございました。伯父にも言っておいてください」
思い出したようにお礼を言い、亜耶の手を引きながら保健室を出ようとした。
「ありがとうございました」
亜耶が慌てて口にする。
そんな亜耶を微笑ましいと思いながら見ていた。
「ううん。そんなの気にしなくてもいいよ。何かに悩んでるなら、何時でも相談に乗るから何時でも来ていいんだよ」
って、伯母が笑顔で亜耶に告げる。
その言葉に亜耶が固まってしまった。
あーあ、余計な一言を言ってくれたものだ。
どうするんだよ。
当分、正気に戻らないよなぁ。
「伯母さん。気持ちだけもらっておくよ」
俺はそれだけ言って、亜耶の腰に手をやり歩を促す。
それに答えるかのようにゆっくりと足を動かす亜耶を保健室から出した。
保健室から出たものの、未だにボーゼンとしている亜耶。
これは、今何を言っても頭に入らないだろう。
この状態の亜耶では、何も出来ないだろうなぁ。
今日の夕飯は、どうしたものか?
冷蔵庫の中を見てから決めるか。
亜耶の腰を押しながら、職員の下駄箱に向かった。




