心配性…遥
亜耶の気持ちも落ち着いたところで、目許を見れば、赤く腫らしている。目を開けるのも辛そうだ。
こののまま教室に帰せば、あらぬ噂をたてられることだろう。
だが、思うような手立てが、俺には浮かばないのだ。
どうしたものか……。
そんな時だった。
「遥くん、これ使って」
カーテン越しに遠慮がちな声が聞こえてきた。
えらく、タイミングがいいな何て思う。
腕の中の愛しい子は、その言葉でピクリと身体をこわばせたかと思うと、俺の腕から逃げようと身体を捩る。
そうはいかないと俺は腕に力を込めて、抱き締める。
亜耶の泣きっ面は、誰にも見せたくない喩え伯母だといえども……。
俺は、亜耶を抱き締めたままそっとカーテンを開ける。
そこには、タオルと保冷剤を持っている伯母がいる。
俺は、それらを受け取ると直ぐに亜耶の目許にあてがった。
暫くそうしていたのだが。
「遥くん。次の授業、行かなくてもいいの?」
伯母の声に腕時計に目をやる。
六限目が始まる直前だった。
どうするっかなぁ…。
このまま亜耶をほってはおけないし……。
「遥さん、行っていいよ。私は、大丈夫だから」
弱々しい声で言い、俺から保冷剤を奪っていく亜耶。
「だがなぁ…」
俺は、お前の事が心配でならないんだよ。
そう思うも、言葉にできず。
「ほら、遥くん。うちの人に"仕事で来てるんだから、公私の区別はつけろ!!"って、怒鳴り込まれる前に行った方がいいって」
伯母の言葉に渋々亜耶から離れる。
あの叔父の事だ、絶対に乗り込んでくるだろう。
「それに、私が着いてるから、仕事はキチンとこなしてくださいね」
何て言われれば、行かないわけにもいかず。
「亜耶。授業が終わったら、迎えに来るからここに居ろよ」
そう言葉をかければ。
「仕事を片付けてから来てくださいね」
って、言葉が返ってきた。
嘘だろ。
こんなに心配してるのにだな、仕事を全て片付けてこいとか……。
ほんと、君には叶わないよ。愛しい子にそんな風に言われたら、やるしかないでしょ。
「わかった。仕事を片付けてから迎えに来るから、大人しく待ってろよ」
俺は、その言葉を残して、保健室を出て、一度職員室に行って必要な物を手にして教室に向かった。
授業が終わり、自身が担当してる教室に行けば。
「亜耶。大丈夫なんですか?」
心配そうに相沢が聞いてきた。
「ああ、大丈夫だ。ありがとうな、相沢。鞄、保健室まで届けてやって」
俺は、そう言うと職員室に戻った。
職員室で残りの仕事を片付けていれば。
「こら、遥。仕事なんかしてないで、さっさと帰れ!」
と頭上から声がかかり、顔を上げれば伯父が怒った顔で立っていた。
「いや、亜耶が、仕事を終わらせてからじゃないと帰らないと言うから……」
俺が、そう反論すれば。
「だから、その亜耶ちゃんが心配だから、帰ってアフターフォローしろって言ってるんだ!」
呆れ顔の叔父。
「じゃあ…」
「あぁ。今日は帰ってもいいぞ。その分、存分に亜耶ちゃんを甘やかせてやれよ」
伯父は、気が付いていたのか?
「それとこれな。娘に宜しく言っといてくれ」
って、突然差し出された細長い包み。
娘に素っ気無いのは、変わらない。
「わかりました」
俺は、早々と机の物を片付け。
「お先に失礼します」
と鞄を手にして、職員室を後にしたのだった。




