優しい気持ちが涙を寄せる…亜耶
遥さんに肩を抱かれ、廊下を歩いていく。他の生徒に会わない道のりで辿り着いた場所は、保健室。
部屋には、三つのベッドとカーテンで空間を仕切られるようになっている。
今は、誰も使ってないようで、全てのカーテンは開け放れていた。
その中の一つに遥さんに促され、ベッドに座る。
遥さんは、カーテンを引くと傍にあった椅子を引っ張りだし。
「亜耶、ここなら大丈夫だ。思いっきり泣け」
遥さんの言葉に、ポロポロと涙が溢れ出す。
「遥さん……、私……」
そう口にしたら。
「亜耶?」
困ったような顔をして、優しく背中をさすってくれる遥さん。
「ごめんなさい…」
ポツリ呟いた言葉。
何に対して言ってるのか、自分でもわかってない。ただ、感情が溢れだして、止められない。
気付けば、遥さんの腕の中に収まっていて。
「ここならいくら泣いても大丈夫だから、思いっきり泣きな」
優しい言葉に私は声を出して、遥さんにすがって泣いた。
何年振りだろうか?
遥さんの前で泣いたのは。
唯一、私が泣ける場所が遥さんの前だった。
この人になら、泣き言を言っても大丈夫だって、幼い頃からわかってた。
何時も肩肘を張っていても、最終的には、彼に泣きつき甘えていたと思う。
彼が、甘えさせてくれる存在だった。
そう考えれば、私は遥さんしか頼っていなかったんだなって思える(お兄ちゃんは、何時も忙しくしていて、それに対して遥さんは、暇そうにしていた。今思えば、そんな筈ないのに)。
傍にいてくれた彼には、感謝しかない。
一頻り泣き、落ち着きを取り戻しモゾモゾと遥さんの腕の中で身体を捩る。
「…ごめんなさい。みっともない所を見せて…」
そう口から漏れた言葉。
「何謝ってるのかなぁ。亜耶が、俺にしか甘えられないの知ってるんだから、こんな時は存分に甘えていいんだぞ。それに、みっともないってなんだ?俺にとって、頼ってくれて嬉しいんだがな。可愛い奥さんが、自分しか心を許してないってわかって、愛しさが増すだけだ。なぁ、落ち着いたところで、聞いていいか?」
遥さんの真顔で問いてくる。
私は、首を縦に振り肯定する。
「何をそんなに溜め込んでいたんだ?俺の事か?」
不安気な声で問いてくる言葉に、私は首を横に振って答える。
そして。
「ち…違うの……。嬉しかったの。皆が、私の事を…心配…してくれたことが…。傍にいてくれたことが…。とても、嬉しくて…。そしたら…想いが溢れてきちゃって……」
恥ずかしくて、顔を俯かせてそう答えた。
今の私の顔は、赤くなっているだろう。何せ、熱いのだから……。
「そうだな。あいつらは、ちゃんと亜耶の本質を見てくれてるんだな。後ろ楯がなくても、亜耶は亜耶なんだって、線を引く奴等じゃないよ。俺との結婚だって、白い目で見る奴等の方が多い中、あいつらは変わらず接してくれただろ。そんな友達がいるなんて、心強いな」
遥さんが、私の頭を撫でながら言う。
私は、されるがまま大人しく頷く。
「そういう友達は、大切にしなよ。何時でも味方になってくれるからな。まぁ、俺には雅斗しか居なかったがな。だけど、こんな大切な奥さんが居るんだ。今は、雅斗に感謝しないとな」
遥さんに寂しげな声の後の弾んだ声。
そんなに嬉しかったのかな?
私と出逢えたことが……。
でもこの出逢いは、お兄ちゃんが居なかったら出来なかったことだろうなぁ、何て思いながら、遥さんの背に腕を回して抱きついた。




