真相…遥
本日三話目です
あれから買い物を済まし、家に着いたのが二十二時。
助手席に目を向ければ、半分目を閉じかけている愛しい妻。
はぁ~、まだ治らないのか……。
何時になったら治るのやら。
何て思いながら、運転席から降りて、助手席のドアを開ける。
「亜耶、着いたぞ」
俺がそう言葉をかければ、モゾモゾと目を擦りゆっくりと動き出す。
その間に後部座席に置いていた、鞄と購入した紙袋を取りだした。
亜耶を見れば、何とか部屋まで自力で行けそうな感じだ。
亜耶の背に手を当てて支えるように歩き出す。
目がトロンとして、今にも寝てしまいそうだ。
「亜耶、部屋まで頑張って歩いてな」
そう声をかければ、力無く頷いた。
部屋に入れば、自らリビングの戸を開けて中に入って行く。
そんな後ろ姿を見送り、通学鞄を亜耶の部屋入り口に置き、自分の部屋に行き鞄と紙袋を机に置くと部屋を出て、リビングに足を向けた。
リビングのソファーに亜耶が横になっている。
疲れてるんだろうなぁ。
でも、そのまま寝たら制服がしわくちゃになるし、風邪引くだろうが……。
俺は。
「亜耶、亜耶」
亜耶の肩を揺さぶって起こした。
「シャワーだけでも浴びておいで」
そう言葉をかけたら、ノソノソとソファーから立ち上がり。
「ん…うん」
と返事をして自室に向かって歩き出した。
寝ぼけ眼の顔の亜耶は、ほんと可愛い。誰にも見せたくない姿だ。
そんな背中を見送ってから、俺はドレスのデザインを考える。
どうせ作るんだから、世界で一つしかない亜耶だけのドレスを贈りたいじゃんか。
ずーっと考えていたデザインを紙に興していく。
亜耶に似合う色、型、装飾などを事細かく余白に書き散らす。
それをスマホのカメラで撮って、採寸した店に送った。
あの店は、母親と姉が贔屓にしてる店だから、これで大丈夫だろう。何かあれば、連絡来るだろうし。
安心したところに。
「遥さん」
って、背後から声がして、慌ててデザイン画を胸ポケットに仕舞う。
振り返れば、髪の毛を下ろし、目を爛々と輝かせた亜耶が立っていた。
「亜耶。眠気は?」
俺はそう口にしていた。
「ん?冷たい水を浴びたら覚めた」
淡々とした答えが返ってくる。
冷たい水?
何で?
あぁ、寝ぼけてたから、間違えて水を出して頭から浴びたのか……。
「そっか…。俺もシャワー浴びてくるよ」
俺はそう言って立ち上がり、自分の部屋に行きさっきのデザイン画を机の引き出しに仕舞い込み、着替えを手にしてバスルームに向かう。
その時、リビングをチラリと見れば、亜耶がわたわたと何かを探していた。
それを見て、笑みを溢し。
「俺が何を隠したのか、探してるわけか」
ポツリ呟く。
まぁ、見つかる事はないと思うけどな。
俺は、脱衣所に入ると服を脱ぐ。
中に入ると亜耶が出たばかりだったので、少しばかり煙っていた。
シャワーのノズルを回して湯を出す。
今日みたいな日は、湯船にゆっくりと浸かりたかったが、珍しく亜耶が起きてるのだから、甘えてみるかな。
昼間、亜耶がして良いって言ってたしな。
何て思いながら、髪と身体を洗い泡を流してからでた。
水滴をバスタオルで拭うとパジャマを着て、髪を適当に乾かしてから廊下に出た。
その足でリビングに向かえば、ソファーに座って何か飲んでる亜耶の姿があった。
ほんと、珍しい。普段の亜耶ならベッドのなかだ。
「亜耶、まだ起きてたんだ。珍しいこともあるんだな」
声をかけながら、亜耶の隣に座る。
「これ飲んだら寝るよ」
って、手の中にあるカップを少しだけ持ち上げて言う。
中身は、ココアか。
まぁ、この時間だし紅茶は無理だろうな。
その時気付いたんだが、亜耶が俺の方を見てこない。
何で?
疑問に思いながら。
「うん。その方がいい。俺も、コーヒー飲むか……」
本当は、アルコールの方がいいんだけど、亜耶の手前コーヒーにした。
俺は席を立って、キッチンに行きインスタントコーヒーを淹れた。
コーヒーメーカーで作るのもいいんだけど、時間がかかる。それに亜耶に甘えられないと判断した結果だ。
ソファーに戻って座ろうとしたら、亜耶と背凭れの間が程よく開いていたので、そこに自ら身体を滑り込ませた。
亜耶が俺の足の間に座る状態だ。
以前からやってたことの筈なのに、亜耶の体が膠着してるのがわかった。
そんなに意識してもらえるとはな。
そう思いながら、自分の手元にあるカップをテーブルに置くと、亜耶の腹部に両手を回す。
さらに膠着する亜耶の肩に顎を載せて。
「はぁ~、疲れた」
そっと囁くように言う。
横目で亜耶の顔を伺えば、何か勘違いしたのかうっすらと大きな目に涙を浮かべ始めた。
ちょ、ちょっと待て。泣くな。
俺は、慌てて。
「何、泣きそうになってるんだ。もしかして、俺の言葉のせいならごめん。疲れたから癒させて、奥さん」
そう言えば、頬に紅が差し込んできた。
泣かれるよりもいいかな。
「色々と迷惑かけて、ごめんね。それとありがとう」
そう言いながら、亜耶の目線はカップから外れない。
何故、俺を見ない?
「ん。俺は、迷惑だなんて思ってない。亜耶が、かける迷惑って何だ?まぁ、俺がそういう風にしたんだしな」
俺は、亜耶の頭をポンポンと叩く。
その言葉で、やっと俺の方を向いてくれた。
「それを仕向けたのは、実は御大…亜耶のお祖父様。あの時、亜耶の相手を探してた。それも年上の男を。それに運良く白羽の矢が当たったのが俺」
あの当時、御大が亜耶の性格を見越して、年上でないと亜耶の本音を引き出せないと諭し、そこに雅斗の同級で何だかんだと一緒にいた俺に声がかかったのと御大との意気があったのもあると思う。
こんな事言ったら、亜耶が困ると思うけど。
「亜耶には、俺しかないって認識させるのと、後は虫除けかなぁ。まぁ、俺的には好都合だったがな」
他の男が婚約者になってたら、かっ拐っていただろうな。
出逢った時からの俺の唯一の癒しだったのだから。
「それにしても、あの絶口宣言には参った。俺、あの後メチャクチャ落ち込んだ。何がいけなかったのかって、悩み込んだ。それから、海外研修の時も……。御大に言われた条件の一つに"亜耶と連絡を自分からとるな"って、言われた時も心が沈んだ。事前に亜耶に言うことも禁止されたから、三ヶ月間亜耶からの連絡を待ってたけど、一度もくれなかった。俺なんか居なくても平気なんだってヘコ垂れてた。まさか、亜耶が入院してるなんて思いも因らなかったし…」
連絡が一度もなかったこと、淋しかったんだ。
入院してたことを隠されたときも、何で言ってくれなかったんだって…。
傍に居てやれないけど、お見舞いの花とかは送れただろう。
不貞腐れながら、俺は腕の力を強めた。
亜耶の存在が、自分の腕の中に在ることを確かめるために。
「亜耶、俺はお前を放してやれない。どうしても俺と居たくないと思ったら、正直に言って欲しい」
本当は、そうなって欲しくない。
だけど、人の心は移り変わっていく。
だから、不安なんだ。
確かなものが無いから……。
「遥さん。そんなこと言わないで、私は、遥さんが好きだよ。この先も遥さんしか愛せない。ずっと傍に居させて」
亜耶が、優しい声音で本日何回目の好きの言葉。
その言葉が、俺の胸をキュンと熱くさせる。
亜耶の手が、俺に手の甲と頭をさすってくる。
俺は、されるまま。
「亜耶、ありがとう。亜耶にそう言ってもらえると嬉しい」
そう口にしていた。
知らずと涙が頬を伝ってる。
亜耶からもらう言葉が、一番安心できる言葉で、気が緩んだみたいだ。
「私の方こそ、ありがとうだよ」
亜耶の優しい心遣いが、俺を満たしていく。
亜耶が、俺の傍を選んでくれた事、嬉しすぎてどうにかなりそうだ。
今日一日で、亜耶から何度も"好き"の言葉をもらった。
それだけで、歓喜する自分が居る。
俺は、これからも亜耶を護っていくから、俺の傍を離れないで……。
愛してる。




