寛ぎの時間…亜耶
本日二話目です。
全ページよりお読みくださいm(__)m
シャワーを浴び終えて、パジャマを着た。
制服を手にして部屋に戻り、それをハンガーにかけてからリビングに足を運んだ。
遥さんが、こちらを背にして何やらごそごそとして居る。
そこに。
「遥さん」
と声をかけるとピクリと肩が震えて、何か慌てて隠してるようだ。
今、何を隠したの?
気にはなったが、敢えて問わずにいたら。
「亜耶。眠気は?」
遥さんが驚いた顔で私を見てくる。
「ん?冷たい水を浴びたら覚めた」
そう答えて、遥さんの隣に座った。
じっとこっちを見ていた遥さんが。
「そっか…。俺もシャワー浴びてくるよ」
そう言って立ち上がると、リビングを出ていった。
さっき、何を隠したんだろう?
気になって、さっきまで遥さんが居たところを探ってみる。……が、何も出てこない。
おかしいなぁ。確かにこの辺に隠してたと思ったのに……。
私は、諦めてココアを淹れようと席を立つ。
何でココアかって、それは…コーヒー飲めないからです。
友達とかは、平気で飲んでる子居るけど、私には無理。あんな苦いのよく飲めるなって、思う。
ココアでも、ミルクココアが好きな私は、冷蔵庫から牛乳を取り出して、温めてから粉を入れる(時々、砂糖を淹れて甘くするときもある)。
できたものをマグカップに注ぎ入れて、それを手にしてソファーに座った。
フーフーと息を吹きかけて冷ましてるとガチャって、ドアが開いて視界に遥さんの姿を捉えた。
まだ、髪が乾ききってない状態で、タオルを首に巻き、パジャマ姿の遥さんは、私には目の毒で、直ぐに反らした。
「亜耶。まだ、起きてたんだな。珍しいこともあるんだな」
苦笑しながら、私の隣に座る。
壁に掛けてある時計を見れば、二十三時前。
何時もなら、とっくに寝てる時間だ。
「これを飲んだら寝るよ」
私はそう言って、手元のマグカップを少しだけ上げて言う。
「うん。その方がいい。俺も、コーヒー飲むか……」
そう言って、席を立つとキッチンに入って行く遥さん。
手際よく作り、こっちに戻ってきた。
そのまま隣に座るかと思ってんだけど、私と背凭れの間に座ってきた。
ヒェ~。
何、まさかだよね。
私も前の方に座ってたとはいえ、何もそんなところに座らなくても……。
かなりの動揺に、顔までほてり出す。
まぁ、今まで良くあったこととはいえさ、意識してからのこれは、流石に心臓がもたないよ。
マグカップをテーブルに置いて、そのまま私のお腹に両手を回してきた遥さん。
ギュッて、抱き締めてくるから当然背中に遥さんの厚い胸板が当たっていてどうしたらいいかわからなくなって、ただ下を向いていた。
そんな私の肩に顎を乗せ。
「はぁ~、疲れた」
って、掠れた声で言うから、余計動揺しちゃうよ。
だけどね、疲れたって言葉に私は、膠着しちゃった。
今まで、私に対して、言われたことない言葉だったから……。
あぁ、やっぱり私を相手にするのは疲れるのかなぁ。
何て思ってたら。
「何、泣きそうになってるんだ。もしかして、俺の言葉のせいか?なら、ごめん。疲れたから癒させて、奥さん」
って、訂正の言葉が耳元で囁かれる。
ウェッ。
気付いて、くれた。
だから、労いの言葉を兼ねて。
「色々と迷惑かけて、ごめんね。それとありがとう」
ポツリそう呟いた。
「ん。俺は、迷惑だなんて思ってない。亜耶が、かける迷惑って何だ?まぁ、俺がそういう風にしたんだしな」
って、私のお腹をポンポンと軽く叩く。
「亜耶が、俺にしか甘えられないように周りの大人達が仕向けてたんだし…」
その言葉を聞いて、自分の事を振り返った。
私が、あれやりたいこれやりたいって言った時何時も決まって"駄目"って言葉が返ってきてた。だけど、遥さんが一緒の時だけは、こぞって"いいよ"って、皆が笑顔で許可を出してた。お兄ちゃんに頼んでも何時も断られてた。
これって、そういう事だったの?
疑問に思ってると。
「それを仕向けたのは、実は御大…亜耶のお爺様。あの時、亜耶の相手を探してた。それも年上の男を。それに運良く白羽の矢が当たったのが俺」
遥さんが、ゆっくりと話し出した。
その話が、初耳で動揺するけど。
「亜耶には、頼れるのは俺しかないって認識させるのと、後は虫除けかなぁ。まぁ、俺的には好都合だったがな」
虫除けって、なんだろう?
「ただなぁ。あの絶口宣言には参った」
って、少し悲しげな声が耳を掠める。
「俺、あの後メチャクチャ落ち込んだ。何がいけなかったのかって、悩み込んだ。それから、海外研修の時も……。御大に言われた条件の一つに"亜耶と連絡を自分からとるな"って言われたときも心が沈んだ。事前に亜耶に言うことも禁止されたから、三ヶ月間亜耶からの連絡を待ってたけど、一度もくれなかった。その時、"俺なんか居なくても平気なんだ"ってヘコ垂れてた。まさか、亜耶自信が入院してるなんて思いも因らなかったし……」
チラリと横を見れば、口を尖らせて不貞腐れたように言う遥さんが、可愛いなんて思ってしまう。
確かに絶口宣言は、自分でもやり過ぎたかなって思った。
研修は、私は知らなかったし、あの時は、遥さんがどれだけ大切な存在なのか自覚して、恥ずかしさもあって連絡できなかったんだよね。
何て思っていたら、腕の力が強まって。
「亜耶。俺はお前を放してやれない。どうしても俺と居たくないと思ったら、正直に言って欲しい」
弱々しい口調で、突拍子もないことを言う遥さん。
そんなこと、あるわけないのに……。
私は、手にしていたマグカップをテーブルに置く。
「遥さん。そんなこと言わないで、私は、遥さんが好きだよ。この先も遥さんしか愛せない。ずっと傍にいさせて」
そう言って、遥さんの手の甲に自分の手を合わせ、片手を遥さんの頭に載せ撫でた。
「亜耶、ありがとう。亜耶にそう言ってもらえると嬉しい」
遥さんの顔をまともに見ることはできないけど、気持ちが落ち着いたのが何となくわかる。
「私こそ、ありがとうだよ」
そう口に出してた。
私にとって、一番は遥さんなんだなって、改めて思った。




