完敗…奈津
本日、二話目です。
全ページよりお読みください。
緊急集会の後その場で解散となった。
結局、二人のノロケ話を聞かされただけだった。
ハァー。
何で、私じゃないんだろう?
あんな人、滅多に居ないのに……。
職員室に戻れば。
「遥くんのあんな顔、始めてみましたなぁ」
古株の先生達が話していた。
「そうですね。あんなに愛しそうな顔で彼女を見る姿を見れるとは思いませんでした」
「デレデレでしたね。十年前と大違いですね」
って、聞いても居ないのに耳に入ってくる。
「あっ、先生方はご存じありませんでしたっけ?遥くん、亜耶ちゃんと出逢ってからずっとあんな感じですよ。まぁ、彼女がいる時だけっていう限定ではありましたけど……」
養護教諭の芹沢先生が言う。
ん?何で、芹沢先生は"くん"呼びなんだ。
疑問に思いながら。
「もも先生。それは……」
またしても謎の言葉。
「先生、その言い方やめてもらえません。いくら私が理事長の嫁で言いづらいからって、昔の呼び方で呼ばなくても…。まぁ、いいんですけどね。遥くんね、亜耶ちゃんを目にしてから、"彼女の事を自分が幸せにするんだ。"って、目をトロンとさせて言うんですよ。それからです。他の人に対して刺を隠すようになったのは。そこに自分の信念を見出だしたのもその時だったんじゃないかな」
懐かしそうに話す芹沢先生を見ていて、胸の中が、ムカムカしだす。
何だ、この感情は。
今まで、感じたこともない、訳がわからない。
「あぁ。あの二年の夏休み前でしょ。彼の雰囲気が突然変わったの」
「そうでした。それまでは、何を言っても聞く耳を持ってくれなくて、テストもいい加減でしたな。その後の態度っといったら、変なものを食べたんじゃないかって、騒いでましたな」
先生達の思出話を聞いても仕方がない、明日の準備もほとんど終わってる。残ってても仕方がない、帰るか…。
私は、机の物を片付けて、机の下に置いていた鞄を手にし。
「お先に失礼します」
笑顔を張り付けて挨拶すると、職員室を出た。
そこには、彼女が壁に凭れて誰かを待ってるようだった。
まぁ、彼だろうけど……。
そこに。
「何で、貴女が、高橋先生の嫁なんだろう?私の方がお似合いだと思うんだけどなぁ」
恨み言のように彼女に言う。
仕方ないでしょ、彼の事が好きだからこれぐらいの意地悪いいよね。
私の言葉に何の返答もなくて、苛立って。
「今からでも遅くないから、離婚してくれない?したら、今度は私が高橋先生の奥さんになるから、ね。こんなお子さまなんかよりも、美男美女でしょ?私と高橋先生が並べば」
皮肉を詰め込みながら、ポーズをとってみる。
だって、こんなお子さまに自分が負けるなんて、あり得ないでしょ。
気付けば、彼女の目に憐れみが込められていた。
「何、その憐れんだ目は。何か言いたいことがあるなら聞くわよ」
私は、声をあらげていた。
「奈津先生じゃ、遥さんを癒すことはできませんよ。それに、家との釣り合いもとれてない。遥さんの実家の事、ご存じなんですよね。遥さん、末子だけど、会社における貢献度、高いですよ。それに、元々、女性嫌いですから、先生が言い寄っても絶対に受け入れられる事は、無いと思います」
堂々と語る彼女。
何で、彼女から彼が拒絶すると言われないといけないんだ。
無償に腹が立ち。
「女嫌いなんて、そんなのわからないじゃない。今は、克服できてるかもしれないわよ」
彼女を睨み付けてそう告げた。
前はそうだったかもしれないが、今は平気かもしれないでしょ。
少しの望みを兼ねていたんだけど。
「亜耶の言う通りですよ、奈津先生。俺はね、昔から女性に追いかけられてたから、怖くてね、女性を信じる事が出来ないんですよ。唯一俺をホッとさせて癒してくれる存在が、亜耶なんです。亜耶は、俺の容姿や肩書き一切関係なく、自然体で接してくれる。俺自体が、自然体で居られる場所なんです。貴女が、俺の隣に立つことは出来ないでしょう。貴女は、野心家で俺の容姿、スペックだけが欲しい人ですからね」
彼の声が聞こえてきて、そちらに目を向ければ、口許をあげて私の方を見てくる。
何で、そんな能面の顔で見てくるの?
怖いよ。
それに彼が言う、見てくれや肩書きだって、大事なことだと思う。
性格は、二の次だと思うんだけど……。
「それでも、私は…」
「"愛してる"ですか?」
私の言葉尻を彼が遮る。
「そんなの信じられません。俺が、信じられる女性は、ここに居る妻の高橋亜耶です。他人など眼中に無いんです!」
はっきりと拒絶の言葉を彼が吐く。
信じられないって、何で私の想いを勝手に決めつけるの?
私は、貴方に会ったときからこんなに憧れているのに……。
何で、拒絶するの?
何で、そんな愛しそうな目で彼女を見るの?
その優しい瞳に私も写して……。
私の想いとは裏腹に彼は、睨んでくる。
「俺は、妻と出会ってなければ、今の自分は居ないと断言できます。もっと尖ってる人間でしたからね」
その言葉は、今の彼を見ていたら、信じられない言葉だ。
彼女よりも早く出会っていたら、私が彼女の位置に……。
過去に戻って、やり直したいって思った。
その時。
「大丈夫?」
と優しい声音が耳に届いた。
誰に対しての大丈夫なのか、私にはわからなかったのだが。
「遥さん、どうしたの?何で、泣きそうな顔になってるの?もし、泣きたいのなら、車で思う存分泣いていいよ。でも、ここで泣くのは止めてね。他人には見せたくないでしょ?」
場違いな言葉が、彼女から聞こえてくる。
泣きそうなの?
私は、彼の顔を見るがそうは見えない。
いたって普通に笑顔だと思うんだけど……。
「ありがとう、亜耶。大丈夫だから……。あ~あ、俺、カッコ悪いなぁ」
彼から、そんな言葉が発せられていた。
「どんなにカッコ悪くったって、遥さんは遥さんです。他の誰でもないんです。私には、何時も頼りになる旦那様なんです」
彼女の堂々とした発言。
彼女は、どんな彼でも受け入れてるんだと言ってる気がする。
あーあ、私の完敗だ。
認めるしかないでしょ。
「亜耶、嬉しい。って事なので、奈津先生が何を言っても俺は、亜耶一筋なんで、諦めてください。亜耶、行くぞ」
彼は、そう言って彼女と踵を返して歩き出す。
もう、手に入れること出来ないんだなって思ったら、頬に一筋の涙が伝う。
一つだけ、聞きたいことがある。
「ちょ…と、待って、高橋先生にとって、鞠山さんって?」
差って行く二人の背中に問いただせば。
「さっきも言いましたけど、唯一無二の存在で、俺の片想いがやっと実ったんです。もう、俺たちの事はほっといてください」
顔だけをこちらに向けて、言い切った。
あーあ。
私には、二人の間に入ることなんてできない、堅い絆がそこにあった。
二人が、信じあってるのがわかる。
早く新しい恋を見つけないと……。




