憐れな人…亜耶
本日二話目です。
宜しくお願いします。
職員室に着くと。
「ここで待ってて」
遥さんが、そう言い残して、中に入って行った。
私は、入り口の前の壁に背中を預けて、遥さんが来るのを待っていた。
「何で、貴女が高橋先生の嫁なんだろう?私の方がお似合いだと思うんだけどなぁ」
声のした方に目を向ければ、奈津先生が私を睨んで立っていた。
「今からでも遅くないから、離婚してくれない?したら、今度は、私が高橋先生の奥さんになるから、ね。こんなお子さまなんかよりも、美男美女でしょ。私と高橋先生が並べば」
口許を微かにあげて、いひたる笑みをを浮かべる奈津先生。
何でしょうね。
私からみれば負け犬の遠吠えみたいに見えてしまうのは、自分が有利だからなんでしょうか?
本人は、釣り合いがとれてるように言ってるけど、とれてないと思うんだよね。
だって、遥さんいかにもっていう人嫌いだし、人から見てとかいうのも嫌い。自分達の想いが通じてれば、それでいいって言う。
そういう人だから、奈津先生になんか靡くとも思えない。
返事もせずに考え込んで黙って彼女を見ていたから。
「何、その憐れんだ目は。何か言いたいことがあるのなら、聞くわよ」
余裕の笑みを向けてくる奈津先生。
まぁ、私からしたら、憐れとしか見えないんだけどもね。
まぁ、先生も聞きたいみたいだし、言うかな。
「奈津先生じゃ、遥さんを癒すことはできませんよ。それに、家との釣り合いもとれてない。遥さんに実家の事、ご存じなんですよね。遥さん、末子だけど、会社における貢献度、高いですよ。それに、元々、女性嫌いですから、先生が言い寄っても絶対に受け入れられる事は、無いと思います」
幼少期の頃から、女の人に付け狙われていたから、"女性に対して信頼なんかしていない"って、"見てくれや肩書きだけで近付いて来るのが多いから、信じきれない"と前に顔を強張らせながら言っていた。
余程嫌な目に遭ったんだなぁって、その時思ったんだよね。
「女嫌いなんて、そんなのわからないじゃない。今は、克服できてるかもしれないわよ」
目を吊り上げ、退くきないみたいだ。
そこに。
「亜耶の言う通りですよ、奈津先生。俺はね、昔から女性に追い駆けられてたから、怖くてね、女性を信じる事が出来ないんですよ。唯一俺をホッとさせて…癒してくれる存在が、亜耶なんです。亜耶は、俺の容姿や肩書き一切関係なく、自然体で接してくれる。俺自体が、自然体で居られる唯一の場所なんです。貴女が、俺の隣に立つことは出来ないでしょう。貴女は、野心家で俺の容姿、スペックだけが欲しい人ですからね」
遥さんが、職員室から出てきて、自身の事を告げる。
自分の事を話すなんて珍しいなぁ、何て思いながら、奈津先生を見れば、瞳に熱を込めて遥さんを見つめてる。
ああ、この人見た目だけの遥さんをご所望だね。中身を見ようとしてない。遥さんが言った通りだ。
「それでも、私は……」
その言葉尻を遮るように。
「"愛してる"ですか?そんなの信じられません。俺が、信じられる女性は、ここに居る妻の高橋亜耶です。他人など眼中に無いんです!」
遥さんが、私の肩を抱き締めてきた。その腕は、プルプルと震えている。
「俺は、妻と出会ってなければ、今の自分は居ないと断言できます。もっと尖ってる人間でしたからね」
遥さんを見やれば、昔の自分を思い出したのか辛そうな顔をしている。
私は、そんな遥さんを横から腕を回しいて抱きつき。
「大丈夫?」
って声をかけた。
遥さんが、一瞬魚籠ついてから、私の方に視線を向けてきた。
その目は、虚ろで、何だか困った顔をしてる。
「遥さん、どうしたの?何で、泣きそうな顔になってるの?もし、泣きたいのなら車で思う存分泣いていいよ。でも、ここで泣くのは止めてね。他人には見せたくないでしょ?」
そうは言ったが、本当は私自身が見せたくないんだ。
好きな人が弱ってるところを私以外の人に見せたくない。
私の言葉に、遥さんが私の手の甲にポンポンと軽く叩く。
落ち着いたのかな。
「ありがとう、亜耶。大丈夫だから…。あーあ、俺、カッコ悪いなぁ」
何て、バツの悪そうな顔をする。
「どんなにカッコ悪くったって、遥さんは遥さんです。他の誰でもないんです。私には、何時も頼りになる旦那様なんです!」
私の言葉に一瞬ポカンとした顔を見せた遥さんが、嬉しそうな顔をする一方で、奈津先生が開いた口が塞がらないみたいで、私たちを交互に見てくる。
「亜耶、嬉しい。って事で、奈津先生が何を言っても俺は、亜耶一筋なんで、諦めてください。亜耶行くぞ」
遥さんが私の肩を抱いたまま歩き出した。もちろん歩幅は、私に合わせてくれてる。
「ちょ…と、待って。高橋先生にとって、鞠山さんって」
奈津先生も言葉が背後からかかる。
「さっきも言いましたけど、唯一無二の存在で、俺の片想いがやっと実ったんです。もう、俺たちの事はほっといてください」
遥さんが、振り返り真顔で告げていた。




