知らなくていいこと…亜耶
理事長室迄の道のりを手を繋いで、歩く。
私の鞄は、手を繋いでない方の手に遥さんが持っているため、手ぶらなんです。
「なぁ、亜耶。何かあったら、直ぐに俺に言えよ」
突然の言葉に、ちょっと戸惑う。
普段ならそんなこと言わないのに、今日に限って真顔で伝えてくるって、余程何かがあるのだと思わされる。
「わかった」
私は、そう頷くしかなかった。
理事長室の前に着くが、両手が塞がってる遥さんに代わって、私がドアをノックする。
「はい」
中からの返事を聞いてから、ドアを開けて中に入る。
「雅斗。遅くなって悪いな」
遥さんが陽気に声をかけるが、場の雰囲気は淀んでいる。
「何?どうした?」
遥さんが二人の顔を交互に見聞きしながら、ソファーに近付いていく。手を繋いだままなので、自然と私もそこに近付いて、座る事に……。
「あっ、うん。例のお嬢様に預かりものを返したんだがな……」
って、理事長先生が答えてる。
例のお嬢様?
私の頭には、疑問符が浮かび上がる。
「ああ、そう言うこと」
遥さんが、納得したように言う。
一体何よ!
「あれをどう使うは、お嬢さん次第だろうけど、家のためには使わないだろうなぁ…と」
お兄ちゃんが遠い目をしてそんなことを言うから、余計にわからなくなる。
何?
私は、蚊帳の外ですか?
あぁ、そうですか。
大人だけの話ってことですね。
「まぁ、そうだろうな。あのお嬢様だから、何か企んで使いそうだな」
遥さんもわかってるんですね。
私、帰ってもいいんじゃないですか、これ?
そう思っていたら。
「亜耶、そんなに怒るなよ。今の話は、亜耶には関係ないことだからな。それより、この後の買い物、真由に誕生日プレゼントをどうするかを考えていな」
遥さんが、私の頬を指で突っつきながら言う。
顔に出てたらしい。
アウ、恥ずかしい限りです。
聞かなくていいってことなら、早速考えよう。
何がいいかなぁ?
真由ちゃんって、何が好きだったっけ?
あっ、でも前とは多少変わってるだろうから、参考にならないかも……?
う~ん。可愛い系?違うな、大人っぽい方がいいのかなぁ?
それとも、湯川くんとペアー物?
否、真由ちゃんだけであげた方がいいのか?
うーーーーーん?
って、考えていたら。
「亜耶、煩いよ」
向かい側に座っていたお兄ちゃんが、顰めっ面で言ってきた。
へっ?
「もしかして、口にしてた?」
私の言葉に三人が苦笑を浮かべ頷く。
うっ………。
「ごめんなさい」
あーあ、やっちゃった。
考え事しだすと唸っちゃうんだよね。
仕方ないなって、顔をして遥さんが私の頭を撫でる。
「伯父さん。真由への誕プレ決まった?」
遥さんが、話を変えてくれた。
「まだだが。って、来週だろ。何かあるのか?」
理事長先生が、不思議そうな顔をして遥さんを見る。
「今週末、透にせがまれて、真由のとこと遊びに行くんだよ。だからさ、決まってるなら直接渡してやろうと思ってさ」
遥さんの言葉に理事長先生が驚いた顔をする。
「そうか。明日でもいいか?」
ちょっとだけ寂しそうな顔をして、そう告げた先生に。
「あぁ。俺達もこれから買いに行くんだけどな」
遥さんが、そう言って席を立とうとする。
私も慌てて立ち上がる。
「じゃあ、店閉まる前に行くわ」
遥さんがそう告げると、私の鞄を手にしてドアの方に歩き出した。
ちょっと、遥さん。待って。
私は、二人に頭を下げて、遥さんを追う。
「あっ、遥。明日から、夫婦同伴で登下校することを許す。亜耶ちゃんに何かあったら困るからな」
と、理事長先生が言うと。
「わかった。ほら、行くぞ亜耶」
遥さんが、ドアを開けて待っててくれる。
私はもう一度振り返って。
「理事長先生、お兄ちゃん。さようなら」
そう言って、頭を下げると遥さんと一緒に部屋を出た。
廊下に出ると自然と手を繋いでる。
私は、遥さんの一歩後ろを着くようにして歩く。
「亜耶。悪いけど、このまま職員室に荷物を取りに行くな」
遥さんの言葉に。
「うん」
と頷いた。
「で、さっきは何を悩んでいたんだ?」
振り返って、優しい声音で聞いてくる。
「えっ、あぁ。真由ちゃんと湯川くんが一緒に使えるのがいいのか、真由ちゃん一人で使えるのがいいのかって、悩んでたの」
そう言えば。
「なんだ。そんなことか」
って、何でもないように言うから。
「私には、大問題ですよ。お小遣いの中から出すんですから、どっちかしか買えないんですよ」
って、口を尖らせて言えば。
「亜耶さん。俺は、何のために居るんですか?俺は、亜耶にとってはお飾りですか?」
って、少しムスッて顔をして言ってくる。
エッ……。
「俺は、亜耶の夫だぞ。亜耶が望んでるなら、何だって叶えてやるぞ。出きる範囲でならな」
遥さんが、寂しそうな顔で言ってくる。
「遥さん……」
「亜耶はさぁ。俺に迷惑掛けないようにって考えてるんだろうけどさ、それ、間違いだからな。好きな娘には、頼ってもらいたいって思うんだからな。ましてや俺たちは夫婦だ。それとも、俺じゃあ頼りないのか?」
遥さんが、真っ直ぐ私の目を見てくる。
私は、首を横に何度も振り。
「ち…違うの。頼りないなんて思ってない。ただ、どうすればいいのかわからない」
何処まで頼っていいのかの線がわからない。
私がそう言えば。
「ハァー。そうか……。亜耶は、自分から頼ることなかったもんな。仕方ないか……」
って、呆れたような何処か納得した顔をする。
「なぁ、亜耶。約束して。俺をもっと頼って、亜耶一人で悩むのは、ダメだからな」
遥さんの優しい笑顔に思わず。
「はい」
流されるように返事をした。




