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君の遣りたいことなら、応援するよ…遥

「もう、大丈夫だよ。教室に行こ」

亜耶が俺の腕から逃れるように顔を出しそう告げる。

でも、声は震えていた。

「ん、そうだな。雅斗も待ってるだろうしな」

俺は、腕をほどいて亜耶の頭をポンポンと叩いた。

顔を見れば、目許を赤くしてちょっとだけ強張った笑顔を見せてくれたが、そんな笑顔見せてくれるくらいなら、ちゃんとした笑顔を見せて欲しくて。

「奥様、お手をどうぞ」

何時もの調子で手を差し伸べて言えば、少し戸惑った顔をしたかと思うとプッと吹き出し。

「はい」

って、笑顔で俺の掌に小さな手を載せてくる。

相変わらずプニプニで可愛い亜耶の手。

離れないように指を絡ませて繋ぐ。俗に言う恋人繋ぎだ。

そのまま教室に足を進めて行くが、やけに静かになった亜耶の顔を覗き込み。

「どうしたんだ、亜耶。急に黙り込んで」

そういえば、真っ赤な顔をした亜耶が俺を見てくる。

どうしたんだ?

まさか、熱でも出たのか?

俺はそう思って手の繋いでないほうを亜耶の額に持っていこうとした。

「んッとね。遥さんとこうして歩いてるのって、不思議だなって思ったの」

恥ずかしそうにそう告げてくる亜耶。

「そうだな。俺もなこうして学校での亜耶を見れるとは思っていなかったよ。それこそ伯父に感謝しないとな」

こんな時になんだけど、教免取って良かったと思う。

年が離れてるから、一緒に学校なんて行けるわけないんだけどな。教師と生徒としてだが、学校内をこうして歩く事が出来るんだからな。

だが、1つ気がかりがあり、俺はそれを口にすることにした。

「亜耶は良かったのか?全校生徒に結婚してることを言っても」

十六歳(このとし)で結婚してるってことを伝えてしまっても良かったのだろうかと……。

だが、それは亜耶の言葉で大丈夫だと悟。

「うん。遥さんが私の旦那様だって、皆に知れ渡って良かったと思う。私の性格からして、影でコソコソ何て出来ないし、どっちにしても時間の問題だったと思う」

笑顔で答える亜耶。

「そうだな。隠し事が出来ない亜耶にしては、充分か……」

俺がそう口にすれば。

「どうせ、私は直ぐに顔に出ちゃって、隠し事出来ませんよーだ!」

そう言うと頬を膨らませて、そっぽを向く。

あ~あ。拗ねちゃったよ。

そんな亜耶も可愛いんだがな。

「何、拗ねてるんだよ。俺は、今のままの亜耶で充分だ。作った笑顔なんて、亜耶らしくないもんな」

そう口にして、手の繋いでいない方の手で亜耶の頭を撫でる。

不貞腐れた顔を俺に向け。

「私だって、解ってるんだよ。このままじゃいけないってこと。だけど、出来ないんだもん」

言葉尻が小さくなっていってる。

あ~あ、もう、こんな可愛いとこ久し振りに見る。

拗ねて、努力しても出来なくて、地団駄を踏んでる時の亜耶程、俺は甘やかしてやりたくなる。

「亜耶の清まし顔なんて、俺は見たくない。亜耶は、何も気にせずに自分が思うがままに動けばいいんだ。後のフォローは、俺や雅斗、沢口…由華がするからさ」

俺の思ってる事をそのまま口にすれば、顔を歪める亜耶。

この顔は、それじゃあ納得しませんって事か。

「亜耶には、大人の事情に捲き込むことはしないよ。っていうかさせない。今は、学生なんだから、そっちを謳歌して欲しいんだ」

学生の時にしか味わえない事を堪能して欲しい。

今しか出来ない事があるから。

何れ、大人になった時の経験に繋がるのだから。

「遥さんは、それでいいの?」

亜耶が不安そに声を震わせて言う。

「いいよ。それで、亜耶が苦しんでるのを見たくない。少しずつ変わっていけばいい」

これは、俺の本心だ。

今のままでもいいと思う俺だが、亜耶が変わりたがってるのを押さえることなんて出来ない。なら、それを見守るのも俺の役目だと思う。少しずつ成長していく過程を見れるのって、特だなぁ何て思ったりする。

俺の言葉に亜耶が困惑し出す。

まぁ、そうだろうな。

そんな顔のままいて欲しくない俺は、話を変えることにした。

「んで、亜耶が遣りたいことって?」

そう言葉にすれば、狼狽えだした亜耶。

本当、コロコロ変わる表情に俺は、飽きることはない。

暫く亜耶を見ていたが、口を中々開かない。

「ほら、さっき言ってただろ。"この学校に来て遣りたいことを見つけた"ってその遣りたいことってなんだ?」

追い込むように聞けば。

「笑わない?」

と、問いかけてくるから。

「笑わない」

笑うわけないじゃんか。亜耶が初めて自分から遣りたい事を見つけたんだからさ。

「怒らない?」

「怒らない」

怒る様な事なのか?

真剣に亜耶の次の言葉を待つと。

「あのね…教師に……なりたいな…って」

自信無さげな声で、そう言葉を紡ぐ亜耶。

「教師?何で、理由があるんだろ?」

ちゃんとした理由があって、なりたいと思ってるんだろう事は、考え付く。ダから、敢えて聞いてみる事にした。

「うん。この間って言っても、一学期の期末前なんだけどね、龍哉くんたちと勉強会した時に、教えた後に"解った""ありがとう"って、笑顔で言われてね、"あぁ、勉強を教えてお礼を言われるの嬉しいな"って思ったの」

段々と声が小さくなっていくが、ちゃんとした理由が亜耶の口からもたらされる。

そっか。

確かにその気持ちは、俺にもわかる。

何で、不安そうな声で言うのかは、イマイチ分からないが。

「いいんじゃないか。教師ってさ、結構自分に返ってくるから、亜耶にぴったりだと思うぞ。亜耶が遣りたいなら貫けばいいよ。俺は、反対しない。むしろ応援するし。雅斗も由華も御両親も、御大も亜耶が決めたことを反対なんかしないさ。それにさ、遣りたいことをやらずに後悔するよりも遣ってから後悔の方がいい経験になると俺は思うんだよ」

俺がそう言えば、弾かれたように顔をあげて、驚いた顔をして俺の顔を見てくる亜耶。

何か、可笑しな事を言ったか俺?

「本当に?」

亜耶が確認するように聞いてくるから、俺は頷き。

「やっと見つけた、亜耶の遣りたいことだろ。俺は、それを応援する。だから気にせずに突き進みな。他が何を言おうともな」

笑顔でそう告げた。


俺の予測だと、財閥の令嬢が学校の教師になんてなるものじゃないと思ってるんだろう。

だが、俺は遣りたいこと…目標が見つかったのなら、それに進んで欲しいって思うから、亜耶を応援するよ。



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