好きなのに…ゆかり
今日は、朝から天気が良くて、街中を歩いていた。
気に入ったディスプレイを見ては、店に入ってモノを物色して。
(これなら、遥さん気に入るかな)
何て思いながら、手にして自分に宛がわせ鏡で見る。
『可愛い』
って、あの低音と優しい目で見つめられ、赤面する自分を妄想する。
端から見れば、ただの痛い娘だろうけどそんなの関係ない。
だって、今の私は幸せなんだもの。
ウフフ……。
お気に入りのカフェで、軽食を摂っていたらスマホが鳴り出した。
ディスプレイを見れば、父からで修平の学校で問題が起きたから迎えに行けとの事。
何で、この私が修平を迎えに行かないといけないんだと父に言えば。
「お前しか手が空いてるのが居ないからだろうが‼」
と逆に怒鳴られた。
何で、怒鳴られなきゃいけないのよ。
理不尽すぎるでしょ?
別に身内が引き取りに行かなくても、秘書の池くんにでも頼めば良いことでしょうが。
何て思いながら、足を修平の学校に向けた。
門を潜れば、あっちこっちにスーツ姿の大人たちが一斉に同じ方向に足を向けている。
私も、それに従うように付いていく。
着いた先は、体育館で全校集会(?)みたいなものをしているようだった。
私は、キョロキョロと首を動かし、修平を探す。
あっ、居た。
修平は、わりかし後ろの方に居て、見つかりやすかった。
「修平、帰るよ」
修平の腕をポンと叩き、そう声をかけた。
ふと、近くから"王子とナイト、姫も居る"って声が上がった。
私は、その声にえっ、王子、ナイト、姫?小首を傾げながら辺りを見渡した。
すると舞台に見知らぬ男性と遥さん、それにあの忌々しい小娘が居る。しかも小娘は、遥さんの横を陣取ってるではないか。
そこは、私の居場所よ‼
胸の中でそう毒つく。
まだ、正式に婚約披露したわけではないから、口に出せない。それが、もどかしい。
「…私と高橋遥のこと、この場を借りて謝りたいと思います。大変申し訳ありませんでした。ネットにどういう風に流れたかは、私自身見ていないのでわかりかねますが、私と高橋は、兼ねてから婚約関係だったのを知る方も居るかとおもいます。この度は、うちの事情で高橋と婚姻したことを申し上げます」
そして、あの小娘から耳を疑うような言葉が聞こえてきた。
はっ?
今、何て言った?
婚姻。
婚姻って……遥さんと小娘が……結婚……。
そんな、バカな。
だって、遥さんは、私とお見合いして、結婚する予定になってたはずでしょ?何で、小娘に先越されてるわけ?
訳がわからない……。
回りの親は、二人の事を祝福してる。
そんな中、私一人が幸せそうに微笑むあの小娘に憎悪を向けていた。
気が付けば、流されるまま体育館を出ていた。
私は、足を止めて直接遥さんに聞こうと片隅に移動して、出てくるのを待っていた。
体育館内が、妙に盛り上がっていて、何かが起きてることには、変わりなかった。
暫くすると生徒が出てきたので、その中に遥さんの姿を探したけど、見当たらなくて、全員出て行ってから、少し後に姿を表した遥さんに。
「遥さん!!」
そう叫んで彼に抱きつき顔を見た。
久し振りに会えたことで、嬉しくて抱きついたんだけど、直ぐにそれは遥さんの手で払われた。
えっ……。
私は、信じられなくて遥さんの顔を見た。
そこには、何の感情も写し出していない遥さんが居た。
なに……。こんな遥さんは、知らない。
何時も、穏やかに笑ってる彼しか、私は知らない。
「遥さんは、私と結婚するんですよね」
おずおずと訪ねたら、冷ややかな目で私を睨み付けてきた。
こ、怖い。けどここで怯むわけにはいかない。
だって、私と遥さんの未来の事だから、話さなくちゃいけない。
「俺との結婚は、破棄されてる筈だ。俺は、鞠山亜耶と婚姻を結んでいる。君とは結婚できない。否、元々君と結婚するつもりなんて無かったよ‼」
聞いたこともない声音で、蔑むような顔をして私を見てくる。
「そんな…。だって…私とお見合いした……でしょ」
一番可愛く写るように上目使いで遥さんを見れば、嫌なものを見たって顔をし。
「お見合いね。あれは、姉さんの顔を立てる為だけにしただけだ。その前から、亜耶とは許嫁同士だったし、そもそも、その話しはとうに無かったことになってるだろ」
感情の無い声で言う。
えっ、何を言ってるの?
お見合い事態が、無しって……。
冗談でしょ?
だって、私は遥さんの事が好きで、多香子姉さんに申し出てお見合いさせてもらったんだよ。親にも遥さんならって、承諾してもらったんだよ。なのにそれ事態無かったことになってるなんて、嘘でしょ。
それに、あの娘と遥さんの年齢差が、ありすぎるよ。
「あぁ。それから、君が俺たちに不用意に近付いた事で、違約金が発生してることも聞いてない?聞いてないから、近付いてくることができるのか」
飽きられた声と溜め息が頭上でする。
違約金……?
何、それ……。そんなの知らない。
何時、そんな契約できたの?
私の頭の中が、ごちゃごちゃになっていく。
幾つかの知らない決まり事が、私に追い討ちを掛けていく。
そんな中。
「なぁ、雅斗も知ってるよな?」
低く同意を求める彼に。
「あぁ。遥と亜耶に近付いた時点で、違約金が発生してる。証拠の写真付きで君の親に送ったから、直ぐにでも連絡が来るだろう。第三者の目撃者も居ることだし」
テノールの声が答えた。
視線をさ迷わせて見つけたのは、先程王子と呼ばれた男性。
何故、ここに居るのだろう?
しかも、遥さんと凄く親しげだ。
そして、その隣には、一度だけ会ったことのある顔があった。
「そ…そんな筈無い。だって、私が、遥さんの婚約者で、あんな小娘なんかじゃない…」
心の内で思ってた本心が、口に出ていた。
そのとたん。
「いい加減、現実を見れよ!俺は、この世の中で女と認めたのは、亜耶だけなんだよ。俺の唯一の癒しなんだ。他の女なんて、ただの木偶の坊なんだよ!!」
遥さんの顔つきが、変わった。
一瞬愛しそうな顔を見せたかと思ったら、直ぐに般若の顔に。
それぐらい、表情が変わったのは、始めてみた。
「亜耶の事"あんな小娘"って言うがな、君よりも優秀なんだよ。そして、誰よりも優しい。俺が幸せになれるならって、一時期身を引いたんだ。俺の為を思いながら、自分を犠牲にする娘なんだ。だからこそ、自分の手で護りたいって思うんだ」
偽りの無い想いが籠ってるのか、凄く優しい顔をしてる。
私には、そんな顔見せ無いのに……。
何で、あの小娘に対してそんな顔が出来るの?
私にして欲しいよ。
「そんな…」
私がそう口にしたら。
「亜耶、行くぞ」
って、とても愛しそうな声音で小娘の名前を呼ぶ遥さん。
この娘さえ居なければ、遥さんは、私のモノ。
そうだ。
小娘を消せば良いんだ。
そうすればきっと遥さんは、私の事を好きになってくれる。
気付けば、小娘に。
「絶対に許さないから!」
怒気を含めた言葉を送っていた。
さて、どうやって消そうかしら。
この学校の生徒の中に、懇意にしてる娘居たよね。彼女たちに手伝ってもらいましょう。
何時しか口許を緩めていた私。
それを怪しげに見ている人物が居ることにも気づかなかった。




