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唐突の訪問者…亜耶

「お兄ちゃん」

「雅斗」

私と遥さんの声が重なる。

体育館内は、一気に騒がしくなった。

突然、話題の人がこの学校に居るんだから。

お兄ちゃんは、そんなのも構わずに、理事長に黙礼して私たちの所に来た。

お兄ちゃんの険しい表情に、思わず息を飲んだ。


「亜耶、遥。大変なことになってるんだ。お前らだったら、察しがつくと思うが」

お兄ちゃんが、そう告げてきた。

まさか…。

まだ、ここだけだと思っていた。

今の世の中、携帯があれば直ぐにネットに繋がる。

それが、流れてるってこと?

じゃあ、もしかして……。

「それを今から伝えるが、現状を理解してない奴の方が多いだろう。とにかく、俺が説明できるところまでする。その後のフォローを頼む」

お兄ちゃんに言われて、頷いた。


「突然で申し訳ないが、簡単な自己紹介だけする。俺は、鞠山雅斗。ここに居る亜耶の兄で、遥の親友だ。そして、鞠山財閥の時期社長でもある」

淡々とした声音で、自己紹介するお兄ちゃん。

私と遥さんは、その横でただ聞いていた。

「ここから本題だ。今回の噂を広めた奴、出て来い!」

お兄ちゃんの怒気の含んだ声。

本気で怒ってるときの声だ。

普段優しいお兄ちゃんだけど、悪いことした時の怒り方は、尋常じゃない。だけど、その後ちゃんと理由を聞いてくれるし、どうしてやってはいけないか理解するまでとことん説教される。

それがあったから、今の私があるんだと思う。

中々出てこない。

「1Eの中に居るんだろ。早く出て来い!」

怒鳴るように言うお兄ちゃん。

すると三人の男女が出てきた。

一人は、やんちゃ系の男子戸波くん。一人は、インテリ系の真面目な篠田くん。女子生徒は、大人しめの小野さんだった。

「お前ら、即刻自主退学しろ。そして、この学校に一切関わるな」

辛痛な言葉を告げるお兄ちゃん。

それぐらいしないと、学校は守れない。

自分達が蒔いた種は、自分達で刈らねばならない(一番の元凶は、私たちなのはわかってる。だから、それなりの処罰は受けるつもり)。

だけど、三人はまだ何を言われてるのか理解しきれてないみたいで、ポカンとお兄ちゃんを見ている。

「お前らのせいで、この学校が無くなるかもしれないんだぞ!」

お兄ちゃんの言葉に笑みを浮かべる。

そんな三人にお兄ちゃんが。

「お前らが情報を漏らしたせいで、この学校に通う上流企業のご子息・ご令嬢の親たちが、こぞってこの学校を辞めさせようとしてるんだ。この意味がわかるか?」

そう問いかけた。

この中にどれだけの上流階級の子息令嬢が居るか、私にはわからないけど、お兄ちゃんはそれをも把握してるんだね。

「それがどうかしたんですか?」

何の感情も籠らない声で、戸波くんが言う。

それって、何も感じないってこと?

何で?

もっと、危機感もってほしい。

情報を漏らすってことは、自分が社会に信頼されないって事だよ。

「この年から三年間の卒業生の就職率が低下するってことだ。秘密裏の話を他社に話してしまう恐れが伴うような学校から、わざわざ採用するわけないだろ」

お兄ちゃんが、険しい顔つきで言う。

雇う側からの意見だね。

「俺たち、そんなの知りませんよ」

篠田くんの無責任な発言。

知らないって……。

「そっか。じゃあ、お前らがここの生徒の生活をみるんだな。お前ら自身も職に就くこともできないのにどうやって、この全校生徒の生活を見るんだ?親の脛をかじるのか?親なんて、何時いなくなるかわからないんだよ!親を安心させるのではなく、心配させたままにするのかよ!それ、違うだろ。それにだ、お前らがした行為によって、一つの企業がなくなる可能性も社会に出たらあるんだ。自分達は、そんなつもり無かっただろうが、社会に出れば、大なり小なりあるんだ。今ならまだ間に合う。お前ら三人が、責任をとって自主退学をすれば、他の生徒には、害は最小限に押さえることができるんだ」

お兄ちゃんが、大袈裟に言う。

確かに、企業内の秘密を一人が何気に話したことで、無くなる企業が出てくる場合もある。

それを高校生に解れって言っても、無理だと思う。

親の比護の元に居る以上は、気付かないことだと思う。

「私……退学します……。これ以上の迷惑かけられません!」

小田さんが、スカートを両手で握りしめて俯き言う。

彼女、悔しいだろうな。

やりたいことがあるからって、言ってたから。

「別や辞める必要ないじゃん!こいつらが、禁断の恋(?)をしてたからって、そこまで大事になるわけないだろ」

私たちを顎で指しながらそう言い放つ篠田くん。

なっ。

確かにそうかもしれないけど、クラスだけの秘密事だとも言った筈。それを話したことは、重大だと思うよ。

それに、お兄ちゃんの感じからして、ネットにまで流れてるんだろう。って推測できる。

そこまで流失してるってことは、この学校に居る以上、就職が難しくなるってことだ。

全校生徒(一部の生徒は除外)が職に就けないってことになる。

そんな事だけど、大事になりすぎて誰かが責任をとらないと示しがつかない。

その責任は、無いって言ってるんだよね(私が悪いのは解ってるので、その分の償いはしますよ)。

「ほう、なら言うが。お前らが責任もとらず残るなら、4分の1の生徒が居なくなり、充実している整備もなくなる。就職も出来ない。後に残るのは、ホームレスにでもなるのか?あの時、ああしてればよかったて、後悔するだけの毎日を送るのかよ!」

お兄ちゃんの言葉が、胸に突き刺さる。

私のたった一言が、こんな大惨事になってるんだ。

あの時の自分を殴りたいよ。

自然と顔が俯いていく。

私が、余計な一言を言ったばかりに……。

ゴメンなさい。

涙が、頬を伝う。

駄目、今は、ガマン、ガマン。

唇を噛み締めて、拳を握る。

涙が溢れないように、ただ強く目を閉じた。





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