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真顔で噂の真相を…亜耶

本日二話目の投稿です。

前からお読みください。

壇上に上がった遥さんを見つめた。

遥さんは、周囲を見渡し、私の方を見て"大丈夫"だと笑顔を見せてくれた。

『…噂についてだが』

遥さんが、そこで言葉を切った。

騒がしかったのが、静かになった。

『その噂は、本当だ。俺と鞠山亜耶は、結婚してる。お互いが合意の上でだ』

遥さんの堂々とした言葉に、皆が固唾を飲んでいた。

「政略結婚ですよね?」

との声が上がった。

そうとらえられても、仕方ないよね。

『政略結婚ではないぞ。俺と亜耶は、愛し合ってるんだからな』

堂々と言って退ける遥さんに、私の方が赤面してる。

また、騒がしくなる。

『亜耶とは、九年前の夏に出会った。当時高二だった俺が、亜耶の兄の誘いで家に行った時だった。その時、まだ小学一年だった亜耶は、無垢な笑顔の中に警戒心を抱いてた。俺、その時に思ったんだよ。"俺と同じような境遇の子"だって。だから、"俺が守ってやりたい"そう強く思った。それから、ずっと傍で見てきたんだ』

遥さんが、初めて口にした想い。

その想いは、静かに体育館内に吸い込まれていく。

『俺が、亜耶の婚約者に選ばれたのもその時。亜耶の後ろ楯が大きすぎて、そちらを目当てに寄ってくる人が多くて、それを阻止するためにも元会長が、俺を選んだ。俺は、その時から亜耶自身を好きだった。だからなんの戸惑いもなく受けた』

私は、遥さんの言葉にただ驚くばかりだった。

そんなに前から、お爺様と話が済んでたなんて…。私の知らないところで交わされていたんだね。

でもね、今ならお爺様が何故遥さんを私の婚約者にしたのか、わかる気がする。

『婚姻する前に互いの気持ちも確かめあった。その時、俺はこの学校の正門に居た。見てた奴も居たんじゃないか?あの日、海外研修から帰ってきて、これで、堂々と亜耶と婚約者として居られると、ホットしつつお互いの気持ちを確かめあってたんだよ』

遥さんが、ゆっくりと言葉を続けた。

あの日まで、私は遥さんに会えなかった。

普段から忙しい人だから、さほど気にもならなかったけど、連絡もなくて寂しい思いをしてた。何時も会えない時に連絡をして来たのは、遥さんの方だったから、自分からなんて、できなかったんだ。

"寂しい"何て言ったら、迷惑だと思ってたし、その時は悠磨くんも居たしね。素直になれなかったんだよね。

『それから、直ぐだったんだ。亜耶の家の事情で、俺と一緒に暮らすことが決まったのは。"元々婚約してたんだから、いっそうの事結婚してしまえ"って、鞠山元会長…亜耶のお爺さんの一言で、結婚した。俺としては、棚ぼた…願ったり叶ったりで、物凄く嬉しかった。亜耶も、戸惑ってはいたが、嬉しそうな顔をしたんだ。俺は、九年間彼女を見てきて、ずっと傍に居て欲しいって想ってたから、もしここで反対する奴が一人でも居るなら、俺は直ぐにでも教師を辞めて元の生活に戻る』

遥さんの揺るぎない想い。

嘘、偽りなく、飾らない言葉で話す遥さん。

静まり返った体育館に。

「元の生活って?」

との声が上がる。

『俺の肩書きは、鞠山財閥副社長だ』

堂々と口にする遥さん。

もう、隠す必要がないと思ったのだろう。

その言葉にまたざわつき出す。

「結局、先生は辞めても裕福な暮らしができるんだ」

って声が上がる。

『そう言うがな。俺は、大学に行きながら仕事してた。バイトじゃねえぞ。家業のホテル経営に携わってた。大学を出て、アパレル業で下積みもしてきた。鞠山財閥に引き抜かれ、副社長のサポートして研修に行き、今の地位を手に入れたんだよ。愛しい人のためになら、なんだって出来るんだよ』

遥さんの言葉に知れずと涙が溢れた。

あの時の遥さん、凄く忙しそうだった。

それでも、私の事を気にかけてくれて、休みの度に遊びに連れてってくれて、大きな休みがあれば、泊まりがけで連れてってくれた事もあった。

全て、私のためだって言われたら、嬉しいよ。

静まり返る会場内。

「俺、ずっと遥さんの事を見てきたから言えるんだけどさ。遥さんは、亜耶ちゃんのためなら何でもするよ。現にここで教師をしてるのは、亜耶ちゃんの一言だったんじゃないですか?それがなければ、此処に居ないですよね?」

そう言葉にしたのは、透くんだった。

『ああ、透の言う通りだ。教師の話が来たとき、断るつもりだった。が、亜耶の嬉しそうな顔を見たら、断れなくなった』

遥さんが、透くんの言葉を肯定した。

『此処に居るのは、亜耶が願ったから。本来、お前らに会うこともなかった』

さっきと違って淡々と語る遥さん。

その言葉にまたざわつく。

『皆に問う。本来、俺はただにサラリーマンだった。それが、ちょっとした事情で結婚し、そして教師として妻の通う学校に来た。教師でなければ、普通の夫婦生活を送る事ができただろう事を妻が喜ぶ顔を見たくて、蕀の道に進んだ。ただの男として女として考えれば、普通の事。教師と生徒ではいけないことなのか?よく考えて答えを出して欲しい』

遥さんの想いは、皆に届いてるかな。

「オレは、高橋先生がやめる必要ないと思いますよ。相思相愛なのを見てればわかりますし、それに公私混同しなければ、学業にも影響ないのでは?先生の教え方、とても解りやすいです」

そう口に出してたのは、悠磨くんだった。

まさか、悠磨くんが後押ししてくれるとは思ってなかった。遥さんもそう思ったみたいで、驚いた顔をしてる。

「私も、辞めなくていいと思います。恋愛は、自由なんですよね。ただ、偶然が重なりすぎて教師と生徒って形になっただけなんだし、それにそこまでノロケられたら、何も言えませんよ」

そう言ったのは、泉だった。

う…。確かに、真顔でノロケ満載だったかも…。

その言葉にクスクス忍び笑いが聞こえてくる。

「鞠山さんの気持ちを聞いてから、判断してはダメですか?」

えっ、私の気持ち…って。

『いいだろう』

遥さんが、頷き私の方を向く。

『亜耶、おいで』

遥さんの、甘い笑顔が皆を驚かせている。

それも仕方ないことだと思う。

普段の遥さんは、作り笑いを徹底してるから。

私は、ゆっくりと舞台に上がった。

遥さんの横にいけば。

「何、泣いてるの?」

ちょっと困った顔をして、涙を拭ってくれた。

その顔を見れるのは、私だけの特権だね。

私は、遥さんの目を見て微笑むと、前に向き直った。

意を決して、私の想いを伝えることにした。


「今日は、私たちのせいで、迷惑をかけてしまい申し訳ありません」

一歩下がって、頭を下げた。

「最初は、兄の友達ってしか見ていなかった。そして、年を重ねる毎に邪魔に思っていた時もあった。だけど、何時も頼っていたのは、両親や兄ではなく此処に居る遥さんだった。この学校を選んだ理由も遥さんが卒業した学校だったから行ってみたいって思ったのと遥さんが"いい学校だよ"って、後押しをしてくれたから。迷った時には、アドバイスをくれて、困ってたら手を貸してくれたそんな遥さんの傍に居て、支えたいって思った。今まで、ずっと支えてくれたから、今度は、私が支える番だって…。私は、何時の間にか遥さんを心から求めていた」

私は、遥さんの方に顔をむけて。

「遥さんを愛しく想ってます」

嘘、偽りのない想いを告げた。

悲しいことや辛い事があったときも、傍に居て励まして楽しませてくれたのも全部、遥さんだった。

遥さんを見れば、笑みを浮かべ肩を抱いてきた。

私も、自然と笑みを浮かべていた。


「こんなに堂々とノロケられたら、認めないわけにはいかないだろ」

との声が、体育館内に響いた。


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