噂…悠磨
なんだか、周りが騒がしい。
何だろうと思っていたら。
「高橋先生と鞠山さん。結婚してるんだって」
って、女子の声が耳に入ってきた。
オレはそれに驚いて。
「それ、どこで聞いたんだ?」
と声をあらげて聞く。
「E組の子達が言いふらしてるよ」
オレの迫力に怖じ気づきながらも答えてくれた。
マジか…。
だが、何でここまで大きくなるんだ。
この事実は、隠されていた筈だろ。
これって、亜耶を陥れるために広まってるんじゃないのか?
「悠磨、聞いたか?」
オレの肩に手を置き、そう聞いてきたのは透だ。
「あぁ。なぁ、透。誰が広めたんだ」
小声で聞けば。
「E組の一般女子生徒ってとこかな。E組の上流階級クラスは、亜耶ちゃんいれて四人しか居ないから、口止めし損ねたんだと思う」
透が直ぐに答えてくれた。
口止めしそびれる?そんな筈無い。
あの人が、亜耶に危険を及ぼすようなことはしない。
ってことは、一般生徒があの人の脅しを軽く見たってことだろう。
亜耶の後ろ楯は、滅茶苦茶大きい。
大企業のトップだからな。
やると言ったら、やるであろう。
それにあの人以外にもお兄さんも亜耶を溺愛してる。
この事が知れ渡れば、もしかしたらこの学校の存続も危ないのかも…。
って、オレが心配することではないよな。
「悠磨くん。この噂、どうしたらいい?どうしたら、亜耶が困らなくて良くなる?」
泉が、オレに聞いてきた。
「そんなこと、オレに聞かれても困る」
そう、オレには何も出来ないんだ。
「私、彼女に借りがあるの。だから、彼女が困ってるのなら、助けてあげたい」
泉の気持ちもわかるが、正直今のオレたちじゃ、何も出来ないんだよ。
「今のオレたちじゃ、何もできないよ。それに亜耶はあの事を貸してるなんて思ってない。だから気にするな」
オレには、それしか言えなかった。
「そうだよ、小林。亜耶ちゃんは、損得で動くような子じゃない。あの事は、気にしなくていい。それに亜耶ちゃんには、心強い人が傍に居るんだから、小林が出なくても大丈夫。もし、何かあれば亜耶ちゃんの方から言ってくる筈だから、それまで俺等は待とう」
珍しく透が、磨ともな事を口にした。
「多分だけど、その言いふらした人物は、何かしらの罰は与えられると思うよ」
透が小声で付け足した。
アイツは、それが何か知ってるみたいだが…。
「でも…」
「心配なのはわかるが、亜耶からのSOSがくるまで、オレたちは何もできないよ」
歯がゆい思いをしてるのは、オレたちだけじゃない。
亜耶の事を知ってる、上流階級の人達も黙って見ていられないだろう。
何せ、この学園には婚約してる生徒も何人も居る(もしかしたら、亜耶たちと同じように家の都合で結婚してる生徒も居るだろう)。
この事が、上流階級の人たちの耳に入れば、直ぐにでも退学していくかもしれない。
ピンポンパンポン。
突然校内放送が入る。
『全校生徒は、直ちに体育館に集合してください。繰り返します。全校生徒は、直ちに体育館に集合してください』
ピンポンパンポン。
急な呼び出し。
「体育館だって」
泉が、不安そうな顔をする。
「大丈夫だから。事の成り行きを見守ろ」
オレはそう言って、透と泉三人で体育館に向かった。




