遥さんの初登校…亜耶
今日は、朝から遥さんと話し合っていた。
今日から、遥さんが教師として、学校に来ることになってたから…。
「亜耶。学校で会ったら“鞠山さん”って、呼ばないといけないんだよなぁ」
何か、ガッカリしてる。
「うん。間違っても“高橋”とか“亜耶”何て、呼んじゃダメだよ」
私は、苦笑しながら言う。
「なぁ、学校に行く前に充電」
そう言いながら、抱きついてきた遥さん。
「学校に居る時に嫌な場面を見るかもしれないが、俺が愛してるのは、亜耶だけだからな。今までも、ずっとそうだったんだ。今後変わることなんて、無いから…。それに、俺たち夫婦だしな」
遥さんが、私の不安に気付いたのか、そう耳元で言う。
「うん」
私は、素直に頷く。
「亜耶。指輪、ちゃんとしておけよ。男避けにもなる」
「遥さんもだよ」
「あぁ、わかってるって…」
私は、遥さんの背中に腕を回して、ギュッと抱きついた。
そして、今、全校生徒の前に遥さんが立っている。
なんだか、不思議な光景。
遥さんが、全校生徒を見渡して、私に気付くとニッコリと笑みを作る。
私も、てを軽く振った。
隣に立つ理事長に何か言われて。
『え~。本日からお世話になります、高橋遥と言います。教科は、化学です。宜しくお願いします』
遥さんが、ゆっくり、はっきりと話し出した。
マイクを通しても、いい声です。
周りでは“カッコいい”って、声が上がる。
当然だよ。遥さんは、昔からカッコいいもん。
何て、心の中で呟いた。
『高橋先生には、一年E組の副担任に就いてもらいます』
理事長が、追加項目を述べるとクラスの女の子たちが沸き上がった。
アハハ…。私は、苦笑した。
遥さん、理事長に交渉したな。じゃなきゃ、私のクラスの副担任になんかなれないもの。
教室で、担任の横に並んで立つ遥さん。
スーツ姿、見慣れてる筈なのに学校で見るとまた違っていい。
「俺の名前は、高橋遥だ。急で悪いが、このクラスの副担任になったので、宜しくな。で、悪いが、顔と名前を一致させたいから、順番に軽い自己紹介してくれ。そっちから…」
遥さんの声が教室に響く。
女子生徒の目が、ハートになっている。
余計な、自己アピールしてる子も居る。
遥さんは、私のだもん。
何て、思いながら、口を尖らせてると。
「次で、最後だな」
教壇の方から声がして、顔をあげる。
遥さんが、ニコニコしながら私の方を見る。
「た…じゃなくて、鞠山亜耶です。よろしくお願いします」
そう言って、軽く頭を下げて席に座る。
危ない危ない。
危うく、高橋って言っちゃうとこだった。
学校で、自分で鞠山って名乗ること無いから、つい家で言ってる名前が出ちゃいそうになる。
そんな私に遥さんが、苦笑する。
「高橋先生は、結婚されてるんですか?」
女子生徒からの質問。
どう答えるんだろう?
興味を持ちながら、耳を傾ける。
「結婚は、最近したんだ。とっても可愛い嫁さんだよ」
って、照れもせずに悪戯染みた笑顔を私に向ける。うわー、そんな堂々と言われたら、こっちが恥ずかしいって…。
「なんだ、お嫁さん居るんだ」
ガッカリしてる声が聞こえる。
ごめんなさい。遥さんは、私のです。
「遥先生って、呼んでもいいですか?」
えっ、それはダメ。絶対に嫌。
遥さんが、私の方を見てるような気がして、首を横に振った。
心が、狭くてごめんなさい。
だけど、他の子にそう呼ばれてるの見るの嫌だもの。
「悪い。高橋で呼んでくれ」
遥さんが、私の気持ちを汲んでそう答えていた。
わかって、くれたんだ。ホッと溜め息をついた。
「HRは、以上だ。直ぐ一時間目が始まるから、準備しろよ」
担任の先生の言葉で、打ち切りとなった質問。
「それから、委員長。後で職員室に来てくれ」
「「はい」」
担任の先生の言葉に私と龍哉くんの声が重なった。