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亜耶の失態…遥

透を家まで送り届け、亜耶にメールを打つ。


"今から帰るよ"


シンプルに一言だけ。

もっと色々と付けたかったが、そんな事するよりも早く帰って、亜耶を抱き締めたい。

purrr…purrr…

スマホが鳴る。

画面を見れば、亜耶からで。


"うん。気を付けて帰ってきてくださいね"


と返信が返ってきた。

気遣いが嬉しい。

安全運転で帰らなければ…。



マンションの駐車場に車を止めて、部屋に戻る。


玄関を開ければ、何やらちょっと焦げ臭い。

そんな事を気にしながら。

「ただいま、亜耶」

靴を脱ぐ。

パタパタとスリッパの音をさせて亜耶が飛んできた。

「お帰りなさい」

笑顔で迎えてくれるのは、何時もの事だけど、そのまま俺に抱きついてきたのは、初めての事で俺はビックリした。

どうしたんだ?

何かやらかしたのか?

亜耶が、自分から抱きついてくる時は、理由があるのはわかってるんだよ。今回は、何をやったんだ?

「ちょ…亜耶。どうしたんだ?」

俺は、抱きついてる亜耶に声を掛ける。

「ん…。別に…。ただ、抱きつきたかっただけ…」

そう口にしたかと思ったら、真っ赤な顔をする亜耶。

あぁ、自分で言って恥ずかしくなったんだな。

しかし、どうした。滅多に言わないような台詞だ。

そして、俺の胸に顔を埋めてくる。

ちょ…何してくれるんだよ。俺まで、赤くなるだろうが…。

「亜耶?」

そんな亜耶に問いかける。

「なぁ、取り敢えず、中に入ってもいいか?」

玄関先で抱きつかれたまま、動いていないのだから…。

亜耶が、顔を上げ周りを見て恥ずかしそうな顔をしながら、俺から離れた。

そして何も無かったように先に行ってしまう。

クスクス…。

どうしたんだよ、今日の亜耶、可愛すぎだろ。

俺は、亜耶の後を追うようにリビングに入る。

リビングで勉強をしていたのか、問題集を片付けていた。

「亜耶、勉強してたんだな」

俺は、後ろから覗き込んでそう言った。

「あ…うん。遥さんの帰りを待ってる間にね」

俺は、そんな亜耶を見ながら、ソファーに座る。

その横にチョコンと座る亜耶。

「あっ、亜耶。これお土産。食後のデザートな。取り敢えず、冷蔵庫に仕舞っておいて」

折角座ったのに悪いなと思いながら、亜耶に差し出す。

亜耶は、それを両手で持ってキッチンに向かった。"ガチャ"って音がしたから、言った通りに仕舞ったんだろう。

戻ってくると同じ場所に座り。

「あの…ね。相談があるんだ」

甘えた声で言い出す。おっ、おねだりか?

亜耶にしては、珍しい。

「何?」

何が欲しいんだ?

俺は、亜耶の目を見つめながら、聞き返せば俺から目を逸らそうとする亜耶。

何か、疚しいことでもあるのか?

「あのね。クラスの中で一番仲の良い子にこの事、話してもいいかな」

って、事だった。

なーんだ、何かが欲しいって訳じゃないのか…。チョッとだけ残念な気もするが…。

「誰の事?」

相手によるが、俺的には言っても構わないと思ってる。ただその相手を知りたかった。

「相沢梨花ちゃん。梨花ちゃんは、龍哉くんの彼女でもあるんだよ」

亜耶が、真顔で言ってきた。

「相沢…相沢…。あぁ、アイツか…」

俺は、独り言のように呟き、ショートカットのハキハキした子を思い出した。

意思が強そうだし、やたらと言いふらすような子ではないだろう。

一般家庭の生まれだっけ…。じゃあ、俺と亜耶の関係なんか知らないだろう。それに龍哉の彼女だと言うのなら、話しても大丈夫だろう。

あいつは、絶対に口にする事は無いだろうし、それに相沢も龍哉から聞くよりも直接亜耶から聞きたいだろうし…な。

「龍哉が言ってた彼女って、相沢の事か…。まぁ、良いよ。亜耶が信頼できる相手だというなら、俺は構わない」

別に隠しておく必要性も感じてないが、今回のような事が起きるのだけは、避けたいから黙っておいた方が、得策だと思う(何かあれば、直ぐに対応するつもりだ)。

「本当に良いの?」

確認するためか、改めて聞いてくる亜耶。

亜耶を見れば、下から覗き込むように上目使いで俺を見てくる。

ちょ…と亜耶さん。その仕草は、どこで教えて貰ってきたんですか?そんな顔されたら、断れるわけ無いでしょ。

「うん。なんだったら、全校生徒に言いふらしてもいいぞ」

俺は、顔に笑みを浮かべてそう告げた。

亜耶の顔から、笑みが消えて可愛い顔を歪ませた。

あぁ、亜耶もあの事を引きずってるんだな。

「嘘…。でも、半分は本気。亜耶は、俺のだって言って回りたい」

俺は、亜耶を抱き締めてそう言う。

俺の言葉に耳まで赤くする亜耶。

一層の事、この腕の中に閉じ込めておきたいとも思う。

「あぁ…。早く普通の生活に戻りたい。そしたら、堂々と手を繋いで近所を歩けるのに…」

俺の本音が、駄々漏れ。

俺の言葉に亜耶がアタフタしてる。

教師と生徒って間柄だから、余計に戻りたいと思う。場所も、学校から近いから、いつ一般生徒とに見られるか、不安だったりするんだよ。

「そういえば、湯川くん何の用事だったの?」

亜耶が、突然話を切り替えた。

それも言わないとな。

「来週、真由の誕生日があるんだ。で、土曜日にサプライズの誕生日会をしたいんだと。俺、それ聞いてから思い出したんだよ。それで、明日学校が終わったら、プレゼント買いに行かないか?」

俺は、亜耶の顔を覗き込みながら聞く。

亜耶の顔が綻びだす。

「うん、行く。真由ちゃん、どんなのが好きなのかなぁ…。それとも二人でお揃いの物をあげる?」

今から、一生懸命考えてる亜耶に水を指さずにはいられなかった。

「それは、明日見て決めればいいだろ。それより、俺、腹へったんだけど…」

マジで、楽しみにしてたんだよ。

俺の言葉に、慌て出す亜耶。

やっぱり、何かあるんだ。

「うん…。温めてくるね」

亜耶がそう言うと、席を立ってキッチンに向かう。

俺もその後ろを付いて行く。

「亜耶、どうした?」

後ろから、声を掛ければ身体をびくつかせる亜耶。

俺は、後ろからそっと様子を見れば、鍋のそこが黒くなっている肉じゃががそこにはあった。

「これはまた、派手にやったな」

俺の言葉に落ち込んでいく亜耶。

「ごめんなさい」

小さな声で謝罪する亜耶。

「ん、いいよ。下の方は無理でも上の方は、比較的大丈夫そうだし…。亜耶が、頑張って作ってくれた事が、嬉しいよ」

俺はそう言って、亜耶の頭を撫でる。

けど、亜耶はなんだか不服そうだ。

「食材がかわいそうだから、私が食べるね」

亜耶が、悲しそうな顔をしながら笑う。

「無理しなくて良いよ」

俺は、そんな顔をして欲しくない。

「それじゃあ、遥さん、食べた気にならないでしょ?だから…」

何の心配をしてるんだ?

俺は、これでいいけど、亜耶の分が無いな。

「…う~ん」

俺は、冷蔵庫の中を覗き込んだ。

時間もあまりないし…、オムライスでも作るか…。

「亜耶。リビングで待ってな」

俺は、上着を脱ぎ椅子の背もたれにかけて、袖を捲りエプロンを身に付ける。

亜耶が、不安そうな顔をする。

あぁ、亜耶知らないんだっけ、俺が料理ができること。一緒に暮らし始めて、作ったこと無いもんな。

「亜耶の分は、俺が作るな。だからリビングで待ってて」

笑顔でそう言えば。

「う、うん」

戸惑いながら返事をする亜耶。

亜耶が、リビングに移動していき、その背中を見送ってから。

さ~て。愛しい亜耶のために美味しいオムライスを作りますか。


そして、材料を切り始めたのだった。


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