不安と心配…真由
今回は、遥さんの従姉妹、真由ちゃん視点です。
五時間目の授業が終わって、直ぐの事だった。
机の中に仕舞っていた、携帯が振動していた。
透くんからかなって思いながら、携帯を取り出して、画面を確認した。そこには、久し振りに見る名前"亜耶"と表示されていた。
えっ、亜耶ちゃん!
私は、慌ててメール画面を開いた。
"こんにちは、真由ちゃん。久し振りです。
透くんから聞いたよ。でね、遥さんからの提案なんだけど、土・日に泊まりがけで行かないかって。真由ちゃんはどう?後、行きたい所、連れてってくれるって。
連絡待ってます。 亜耶"
と送られてきた。
はる兄、亜耶ちゃんを甘やかしたいだけだろうなぁ。
泊まりがけで行くなんて、そうとしか思えないよ。
って、何ではる兄に透くんが話した事を亜耶ちゃんが、透くんから聞いてるの?
一緒に住んでるのに、話してなかったの?
疑問に思うところはあるけど、取り敢えず返信しないと…。
行きたい所か…。
強いて言うなら、水族館が良いなぁ。何時もと違う場所の水族館なら、飼育している魚も違ってくると思うし…。
でも、亜耶ちゃんはどうなんだろう?
ダメ元でも良いから、送ろう。
"久し振り、亜耶ちゃん。
私は、それで良いよ。どこ行こうか?私的には、ちょっと遠い水族館とかが行きたいんだけど…。亜耶ちゃんは?"
そう打って、送信した。
何て、返ってくるだろう?
折り返しのメールが届いた。
"じゃあ、そうしよう。遥さんには、そう伝えておくね。土曜日の十時に迎えに行くね。
週末、会えるのを楽しみにしてるね"
って、送られてきた。
えっ…。
亜耶ちゃんの意見は無いの??
私の意見だけで、本当によかったの?
不安になりながらも、そのメールが終わった。
亜耶ちゃんに会える事を楽しみにして…。
放課後になり、家路に着く。
普段なら、友達と帰るんだけど、今日は寄り道しないといけないから、一人。
寄り道も、夕飯の買い物だから、友達と一緒って訳にはいかないわけで…。
買い物を済ませ、再び家路に着く。
今日は、透くんの好きな物を作るんだ。
透くん、部活してるから、帰ってくるの十九時なんだ。帰ってきたらお腹空かせてるから、直ぐに食べれるように準備してる。
寄り道もしないで、真っ直ぐ帰ってきてくれる透くん。
そんな透くんが、今日に限って遅い。
何かあったのかな?
私は、リビングのソファーに座り、今か今かと待ち続けてるけど、帰ってくる気配が一向にない。
電話もメールも、何の連絡も入ってこない。
何で?
もしかして、透くんの身に何かあった?
それとも、私に飽きて他の娘と遊んでるの?
透くん…早く帰ってきてよ……。
不安になりながら、ソファーに座っていた。
二十時を少し過ぎた頃だった。
ガチャッ…。
玄関が、開く音がした。
「ただいま」
大好きな声が聞こえてくる。
私は、ゆっくりとソファーから立ち上がった。
リビングの入り口に差し掛かった時で、透くんとぶつかりそうになった。
「おわっ…」
透くんが、驚きの声をあげた。
「…お帰り」
私は、それしか言えなかった。
何で遅くなったのかって聞きたかったけど、聞いちゃいけないような気がして…。
「ちょ…、何、泣いてるの真由…」
困った顔をしながら、私の頬に手を伸ばそうとしてくる透くんの手を払った。
自分でも、可笑しいって思う。
でも、どうしようもなくて…。
言葉にするのがもどかしくて、黙り込んじゃう。
「えっ…、何?」
透くんが、困惑してる横を。
「ごめん…」
とだけ告げて、自分の部屋に戻った。
何時もと同じ時間に帰ってくると思い込んでいる、自分がいけないんだと思う。
けど、遅くなった理由だけでも言って欲しかった。
それが、どんな嘘でも受け入れられた。
それなのに…。
何で?
何で、何も言ってくれないの?
何か、疚しいことでもしてたの?
私が、心配する事って、透くんには迷惑な事なの?
涙が、頬を伝って、抱え込んでいる膝を濡らしていった。
コンコン。
入り口のドアがノックされる。
「真由。どうした?」
何時もと変わらない、透くんの優しい声。
だけど、それに答える気なんか起きない。
私にとっては、透くんは無くてはならない存在だけど、透くんにとっては、そうじゃないのかもしれない。
所詮、政略的な関係なんだって、思い知らされる。
私だけが、透くんの事を好きみたいだ。
返答をしない私に痺れを切らしたのか。
「真由…、入るぞ」
そう言って、透くんがドアを開けて中に入って来る。
「暗がりで、何してるんだ?電気点けるぞ」
透くんが、入り口の横にあるスイッチを押す。
パット、明るくなる部屋。
ゆっくりと近付いてくる足音。
私は、顔をあげられずに居た。
「どうした?何かあった?」
さも、心配する事が、当たり前のような態度。
その態度が気に入らなくて。
「透くんの馬鹿!」
そう口にして、透くんを睨み付けた。
「ハァ?何だよ。何が、気に入らないんだよ」
気だるそうに言う透くん。
そんな透くんに。
「何で、遅かったの?」
聞いた。
「遅いって、経った一時間じゃないか」
呆れたような顔をして言う。
経ったって…。
その言葉に私は、無償に腹が立って。
「透くんにとったらそうかもしれないけど、私にとっては長いの!!連絡もなく、ただ待つのって、凄く不安になるの!なのに、透くんは、何も言ってくれない。それって、私の心配は要らないんだよね。私以外の娘が居て、その娘が心配してくれるから、必要要らないんでしょ!!だったら、私、此処に居なくても良いよね」
自分で、何を口走ってるのかわからないほど、次々に言葉が溢れだした。
だって、透くんにとって、私はただの家政婦なのかなって思えたから…。
私だけが、一方的に好きで、透くんはそうじゃないんだって…。
そんな私の言葉に透くんは、前髪を片手で握り。
「ごめん…。俺が、いけなかった…。そうだよなぁ、何時もより帰りが遅ければ、心配にもなるよな…」
目尻が下がり、情けない顔を晒す。
「俺、真由への配慮を怠ってた…な」
そう言って、戸惑いながら私の方へ手を伸ばしかけて、途中で下ろした。
透くんが、俯きながら。
「真由。俺は…俺には、真由だけだから…。真由が傍に居てくれるだけで、俺は、頑張れるんだ。だから、俺から離れていかないで…」
俯いてるから、表情はわからないけど、声が上ずってるのはわかる。
「本当は、真由に内緒で事を進めたかったんだけど、真由を心配させるのは、違うから…」
透くんが、そう言って何かを決意した様に顔をあげると。
「今週末、亜耶ちゃん達と旅行に行く事になったよね。それと、真由の誕生日も近いからって、遥さんに相談にのってもらってた」
顔を歪ませて言う。
えっ…。
「遥さん。そういうの得意だろ。だから…」
確かに、はる兄はそういうサプライズするの好きだし(亜耶ちゃん限定で)…。
「だけど、連絡入れ忘れてた俺が、悪かった。真由、俺は、真由の事好きだから、他の女の子なんて居ないから…」
透くんが、ほんの少し頬を染め、真剣な面持ちで言う。
「透くん。ごめんなさい」
私は、そう言って透くんに抱きついた。
疑った事、後悔した。
透くんに限って、そんな事しないのに…。
透くんは、優しく抱き締めてくれて、何度も私の頭を撫でてくれた。
透くんの心音が、耳に届く。
ドックンドックンって、何時もより少し早い。
「…俺、情けないことに真由が居ないとダメなんだからな」
耳元で囁く透くん。
「そんな事言われたら、私自惚れちゃうよ」
「良いよ。俺の前だけでね」
透くんの困ったような笑顔。
その笑顔も、私の前だけにして欲しいな。
なんて、思ってる自分がいた。




