叔母の心配事…遥
授業が終わり、職員室に戻った。
内側の胸ポケットに入れていた、スマホが振るえた。
俺は、自分の席に着き、それを取り出し画面を操作する。
画面に表示されてるのは、亜耶からのメールの着信。それを開けば。
"真由ちゃんが、水族館に行きたいって。私も行きたいな~あ"
と表示された。
水族館か…。
何時もの所は、行き飽きただろうからこの際だから、遠出の旅行にするか…。
そう思いながら、検索をかけた。
あっ、ここいいかも…。
俺は、そこに目星を付けてその周辺にある系列のホテルに予約を取った。
後は、目的地までどう行くかだが…。
う~ん、たまには電車で行くか…。
となると、待ち合わせの時間と場所の変更しないとだな。
「遥くん、何してるの?顔がにやけてるよ」
声を掛けられて、慌てて顔を上げれば陽子さん(理事長の奥さん)が、目の前に立って居た。
「旅行の計画を立ててるんですよ。あなたの娘にせがまれたから…」
そう口に出す。
「まぁ、そうだったの。あの娘元気にしてるの?」
寂しそうな顔をする陽子さん。
「さぁ。俺は、会ってないんで、湯川に直接聞いたらどうですか?」
真由の婚約者は、透なんだから。
「そうしたいんだけど、中々顔を会わさないのよ」
そう言って、溜め息を吐く陽子さん。
まぁ、そうだろうなぁ…。
保険医じゃ、中々難しいだろうな。
「今週末に会うので、来週の月曜日にでも報告しましょうか?写真を添えて」
俺が、そう提案したらとても嬉しそうな顔をする。
「いいの?お願いしちゃおうかな」
母親の顔を見せる陽子さん。
年頃の娘を持つと、そうなるのかなぁ。
「遥くん。次の授業は?」
「空きですよ」
「それじゃあ、頼みたい事があるんだけど…」
言いづらい事なのだろうか?
遠慮がちに聞いてきた。
「別に良いですけど…」
「よかった。じゃあ、着いててきて」
そう言われて、大人しく着いて行けば、保健室の蛍光灯の交換をさせられた。
「ありがとう。遥くん」
「良いですよ。後は、何をすれば…」
俺が聞けば。
「それじゃあ、亜耶ちゃんとの生活はどう?」
と聞いてきた。
「どうって、楽しいですよ。亜耶は、何でも一人でやろうとするから、ちょくちょく手を出して、手伝ってますよ」
一様、家事は一通り出来るし(高校から一人暮らしだったから)…。
「そう…、そうよね。好きな人と居るのは、楽しいよね」
何?何か悩み事か?
そういや、真由って政略的に婚約したんだっけ…。
真由、一人っ子だし…。
でも、透(湯川)を見る限り、ラブラブみたいだけど…。
「陽子さん。何か悩み事ですか?俺でよければ聞きますよ」
俺が、そう訪ねると、少し驚いた顔をした。
まぁ、そうだろうな。俺から出てくる言葉ではないからな。
暫く沈黙した後、ゆっくりと話し出す陽子さん。
「…あの娘、幸せなのかなぁ…って」
ん?
幸せって?
「あの娘、中学の時に透くんと婚約したでしょ。それも親の都合で…。あの娘の気持ちも聞かずに…。もしかしたら、あの娘私たちの事を恨んでるんじゃないかって…」
心痛な面持ちでそう語る陽子さん。
俺は、そんな彼女に。
「大丈夫だと思いますよ。湯川の幸せそうな顔を見てればわかります。真由は、湯川にとって無くてはならない存在になってます。真由だって、そうだと思いますよ。それに、今回の旅行も真由が亜耶に会いたがってるって、湯川からの申し出があったからこそ、実現したんですから」
昨日、湯川から言われてたんだけど、すっかり忘れて今日亜耶から言われなきゃできなかったが…。
その言葉に陽子さんの目が大きく見開かれた。
「そ…そうだったの。じゃあ、真由は透くんと上手くやっていけてるのね」
安心した顔をする陽子さんに俺は、ゆっくりと頷いた。
「あの娘、家の人を嫌ってるから、家に寄り付かないの。だから、何かあった時には、教えてくれると助かるわ」
陽子さんが、気を緩めたのがわかる。
あれ?真由叔父さんの事嫌ってたっけ?
嫌ってはいなかった筈。
だって、俺には何処に連れて行くにも。
『本当は、お父様と一緒に行きたかったんだけど…』
って、毎回言ってた気がする。
心の中で、擦れ違いが起きてるんじゃ…。
それに気付くのは何時なんだろうな。
「その時は、必ず連絡しますよ。真由にとって、亜耶が一番の相談相手ですから」
俺は、そう告げたが、真由の事だ叔父に連絡すると思う。
「ありがとう。よろしく」
彼女は、子供を心配する母親の顔で言った。
その後、俺は保健室を出て職員室に向かった。




