疑惑②…梨花
翌日。
私は、かまをかけてみようと思った。
どうやって、やろうかと思案するはめになった。
だってさ、亜耶って隙がないんだもん。
何時にもまして、気が張ってるって感じがするんだ。
そんな時に、上級生の女子生徒が、亜耶を呼び出した。
これって、チャンスじゃない。
私は、密かにそう思った。
龍哉に話しかけようとしたら。
「梨花、悪い。俺、ちょっと行ってくるところがあるから…」
そう言って、慌ただしく教室を出て行く。
何かあるのだろうか?
私は、その後ろを付いていった。
着いた場所は、職員室で、入り口から見えないように角に隠れ様子を見ていた。
数分もしないうちに職員室から、高橋先生が慌てて出てきて、廊下を駆け抜けていく。
えっ…。
何をそんなに慌ててるの?
追うかどうか悩んでいたら、龍哉が職員室から出てきたから、慌てて隠れた。
何が、どうなってるの?
龍哉の姿が見えなくなってから、迷ったあげく教室へと戻った。
教室の入り口で、見覚えのある男子がウロウロしてたから、声を掛けたら、亜耶を呼んで欲しいって事だったから、私は亜耶の所に行き。
「亜耶、亜耶。なんか、湯川くん(?)が呼んでる」
そう声を掛ければ、そっちを向いてから。
「ありがとう、梨花ちゃん」
そう言って、湯川くんの所へ向かう亜耶。
私は、それを見届けてから、龍哉の膝に向い合わせで座る。
「おっと。どうした?」
龍哉が、不思議そうな顔をして私を見てくる。
「あのね…。亜耶と高橋先生ってどういう関係なのかなぁ。って思って…」
思った事をそのまま口にすれば、怪訝な顔をして私を見る龍哉。
「何で、そんな事に興味を持ったんだ?」
呆れた顔をして聞いてくる。
龍哉は、何かを知ってるんだと思う。けど、言えない事情があるのもわかってる。
だけどさ、私と亜耶って親友なのに、亜耶自分の事何も話さないから、私だけが親友だと思ってる痛い子なんじゃないかって、思っちゃうんだよ。
私は上から、龍哉の目を見つめた。
「ちょ…梨花。その顔、反則だって」
狼狽える龍哉。
その顔って、どんな顔なの?自分じゃあ、良くわかんないよ。
「…ただに教師と生徒だろ」
詮索されないためなのか、突き放した言い方をする。
「でも、教師と生徒で、普通は抱き合ったりしないよね」
私の言葉に龍哉の顔が歪み、片手で両目を隠し、天井を仰ぐ。
そして、ハァーとため息を吐いた。
やっぱり、知ってるんだ。
「もしかして、昨日の廊下での事、見たの?」
その言葉にゆっくりと首を縦に振った。
「…そっか…。俺が言えるのが、梨花が見たままだってこと」
龍哉の言葉に首を傾げる。
「なんで?亜耶には悠磨くんっていう彼が居て、先生には、奥さんが居るんだよ」
私の言葉に。
「ん…。悠磨は、亜耶ちゃんの彼氏じゃない。本当の彼…旦那が…」
そこで、龍哉が言葉を詰まらせた。
否、違う思い止まったんだ。
「本当は、何?」
と聞いても、答えてくれない。
「今は、言えない」
言えないって事は、やっぱり何かを隠してるんだ。
何で、隠す必要があるの?
「何の話し?」
亜耶が、席に戻ってきて聞くから。
「ん。高橋先生の話だよ」
何気なく言えば、亜耶の顔が歪んだ。
え…、何で…。
何で、そんな悲しそうな顔をしてるの亜耶。
好きな人の話って聞いて、普通嬉しそうな顔をする筈なのに…。
「高橋先生のお嫁さんって、どんな人なのかなぁって」
私が、そう言葉にしたら、困った顔をする亜耶。
何でかなぁ。
「次、高橋先生の授業だよね。それとなく聞いてみようかな」
そう口にしたら、動揺しだす亜耶。
「授業中に私語は、ダメだろ」
龍哉が、口を出してきた。
亜耶を庇うって事は、事情も知ってるんだ。
「そっか…。授業が終わってから…」
そう言葉にしようとしたら、予鈴が鳴った。
いいところだったのに…。
「あ、もう予鈴鳴っちゃった。じゃあ…」
私は、龍哉の膝から降りて、自分の席に着いた。
後ろの席の亜耶を見れば、龍哉と話していた。
さっきの曇っていた顔と違い、ホッとした表情。
何が、そうさせてるの?
私の疑問は、募る一方だ。
本鈴が鳴り、授業が始まった。
そして、教科書問題を解いてる時だった。
「高橋先生。教えてもらいたいんですが…」
と、凛とした澄んだ声が教室内に響く。
「鞠山、何だ。そっちに行く」
あきらかに、他の生徒と絡む時と違う声音の先生。
何で、他の人は気付かないのだろう?
こんなにも、違うのに…。
「これか…」
申し訳なさそうな声で、先生が言ったかと思ったら。
「あっ…そっか…」
亜耶が、わざとらしい声をあげる。
一体、何が行われてるの。
後ろ見たくても、見れないこのもどかしさ。
二人の関係って…。
少しだけ、一瞬だけ気になり、振り返った。
すると、先生の優しさ溢れる眼差しが亜耶に向けられていて、亜耶は亜耶で、普段見せる事の無い眼差しを先生に向けてる。
えっ、うそ…。
私は、ゆっくりと前を向いた。
もしかして…ううん、先生の奥さんって、亜耶なんだ。
でも、何で隠してるの?
言ってくれても言い筈でしょ?
「もう、そろそろ解けたか?」
先生の声が、教室に響く。
前に戻ってきたかと思いきや。
「問一、鞠山、よろしく。そのまま前に移行して、順番に黒板に書け」
亜耶を指名する。
公私混同してない?
でも、私の考えが当たってるとは、限らないし…。
あー、モヤモヤする。
授業が終わり、直ぐに亜耶の所に行く。
「ねぇ、亜耶。さっき、高橋先生に何を教えてもらってたの?」
追求してみた。が、何も返ってこない。
「あ、俺、聞いてた」
龍哉が、横から口を出してきた。
「えっ、本当。教えて、龍哉」
私は、龍哉に向き直り聞く。
すると、教科書を取り出して、ペラペラ捲っていく。
「ここの話をしてたよ。何でも予習してたんだけど、いまいち把握できなかったから、教えて欲しいって」
龍哉が言う。
えっ、そうなの?
って言うか、亜耶は嬉しそうにメールしてるんだけど…。
「何、ニヤケてるの?」
私が、亜耶の前に立って聞けば、驚いた顔をして、携帯を慌ててしまう。
「亜耶?」
「ゴメン。今週末に幼馴染みに会えるから、嬉しくて」
亜耶の慌て振りに、違和感を感じた。
「へぇー。何時振りなの?」
私が、聞くと。
「二年振りくらいだよ。女子高に通って、理事長先生の娘さんなんだ。ずっと、仲良くしてくれてたんだけどね。お互い忙しくなっちゃって、会えなかったからとっても楽しみなんだ」
本当に楽しみなんだって顔で答える亜耶。
「そんなに会ってないのなら、楽しみだね。どこに行くの?」
何となく聞いたんだ。
その幼馴染みに会ってみたいと思ったから。
「未だ、ちゃんとした場所は決まってないよ。ざっくりとしかね」
という答えが返ってきた。
「そうなんだ」
「梨花?あんまり亜耶ちゃんを困らせるなよ」
龍哉が、口を挟んできた。
「だって、亜耶ってば秘密主義なんだもの」
口を尖らせて言えば。
「仕方ないだろ。亜耶ちゃんにだって、其なりの理由があるんだから。それに、亜耶ちゃんなら梨花にちゃんと話すと思う。それまで待ってやったらどうだ?」
龍哉が、えらくまともな事を言う。
「それって、龍哉は何か知ってるの?」
龍哉に詰め寄れば。
「知ってるけど、本人が話さない事を俺が話すわけ無いだろう」
意味有り気に言う龍哉。
「ごめんね。いずれ、話すから…。許可さえ出たら、直ぐにでも話すから、それまで、待ってて欲しい」
亜耶の真っ直ぐな視線を見ればわかる。
嘘は、ついてないって…。
「うん、わかった。待ってるね」
私が、そう返したら。
「ありがとう」
って、返ってきた。
薄々気付いてるんだよ。
亜耶と高橋先生の関係。
だけど、本人の口から聞きたいんだ。
だって、大切な親友ですからね。
でも、早くして欲しいな。
亜耶が、一人で悩んでいるのを見ていられないから…。




