秘密のやり取り…遥
雅斗も挨拶と用件を済ませ、帰って行ったし、食べ損ねた弁当でも食べるか。
職員室に戻り、自分に宛がわれてる席に着き、弁当を食べる。
おっ、旨い。
あれだけ頑張って作ってくれてるんだ、何かご褒美をやらないとなぁ…。
「高橋先生。今、お昼なんですか?」
奈津先生が、俺を見て言う。
「えぇ。色々ありましてね。漸くありつけたところです」
あいつ等、本当に面倒くさかった。
「お弁当、手間がかかってますね」
ん?あぁ、見えたのか。
「そうですね。亜耶、朝から頑張って作ってたから…」
「何でも出来るんですね」
僻みに聞こえてくるが…。
何でも…か。
「そうでもありませんよ。料理は、つい最近始めたばかりですからね」
その言葉に驚く、奈津先生。
俺は、思い返した。最初に出てきたのは、お世辞にも見た目も味も良いとは言えなかった。
その時の亜耶は、泣きそうな顔をして。
「ごめんなさい」
って、謝ってきたっけ…。
物思いに耽っていたら。
「高橋先生。早く食べないと授業始まりますよ」
宮原先生が、言ってきた。
あっ、次は亜耶のクラスだ。
遅れるわけには、いかない。
俺は、味わいながら、急いだ。
教室に入れば、昼食後ってのもあって、コックリと船を漕いでる奴もいた。
亜耶は、一生懸命俺に話を聞いてくれる。
教科書の問題を解かせてる時だった。
「高橋先生。教えてもらいたいんですが…」
と静かな教室内に亜耶の声が響いた。
「鞠山、何だ。そっちに行く」
亜耶なら、簡単なはずだ。何か問題でもあったか?
そう思いながら、亜耶の所に行けば、問題ではなく、別の紙にプライベートな事が書かれてる紙をシャープペンの先で指す。
そこに書かれてたのは。
"さっき、湯川くんが来て、真由ちゃんと遊ぶ約束したって言ってたけど、本当?それから、今週の土曜日に会う事になったけど、時間と待ち合わせ場所どうする?"
と書かれてた。
そう言えば、透がそんな事言ってきたなぁ。
まぁ、早い方がいいから、それでいいか…。
「これか…」
俺はそう言いながら、亜耶の持っているシャープペンを取り。
"ゴメン、言い忘れてた。土曜日なら大丈夫だ。朝の十時に真由の所に迎えに行くか。行く場所はどうする?"
サッと、紙に書けば。
「あっ…、そっか…」
何やら、納得した顔をして、俺からシャープペンを取ると。
"真由ちゃんと相談してもいい?真由ちゃんも行きたい所あるだろうし…"
と書いて見せる。
うーん。まぁ、どうせなら、頑張ってる亜耶にご褒美も兼ねるか…。
再びシャープペンを借りて。
"どうせなら泊まりで行くか?土・日で泊まって帰ってこれば、遠出できる"
俺がそう書けば。
"いいの?"
亜耶が、心配そうな顔をして俺を見てくる。
"いいよ。俺も亜耶と一緒に楽しみたいし…"
それに夏休み、何処にも連れてってやれなかったしな。
"ありがとう。次の休み時間にでも真由ちゃんにメールする"
"ん。決まったら教えて"
そう書いて、筆談を終えると亜耶が嬉しそうな顔をしてた。
今、授業中なのにそんな顔をしたら、バレるだろうが…。
「もうそろそろ、解けたか?」
俺は、そう声にしながら、教壇に戻る。
そうだ、亜耶を指名するか…。
「問一を鞠山、よろしく。そのまま前に移行して、順番に黒板に書け」
亜耶と龍哉なら、簡単に解けるだろう。
そう思いながら、他の生徒の解答を見て回る。
うーん。あまり正解してる者居ないなぁ。
これは、説明しながら行う方がいいか…。
黒板を見れば、亜耶と龍哉はご丁寧に解説付きで答えてあった。
この二人、何処まで出来るんだよ。
ふと見れば、二人が仲良く話してる。
俺は、亜耶の傍に近付き。
「亜耶。あんま龍哉と仲良くするなよ。俺、妬くぞ」
って、耳元で囁けば。
「先生が、何言ってるんですか?」
って返された。
それ、言わないで欲しい。
俺は、亜耶だけの俺で居たいんだから。
「鞠山、河合、正解な。後のは、いいところまでいってるんだがな」
俺はそう言って、教鞭を振るった。




