筆談…亜耶
席に戻れば、梨花ちゃんと龍哉くんが楽しそうに話していた。
「何の話し?」
私が聞けば。
「ん。高橋先生の話だよ」
梨花ちゃんが、ニコニコしながら言う。
えっ、遥さん?
龍哉くんが、梨花ちゃんから見えない位置で"ゴメン"って口を動かしてる。
苦笑しかでない。
「高橋先生のお嫁さんって、どんな人なのかなって」
うへっ、それって、私の事じゃ…。
あっでも、梨花ちゃんは未だ知らないんだよね。
どうしよう…。
「次、高橋先生の授業だよね。それとなく聞いてみようかな」
うっ…。
それ、やめて欲しいけど、私には止める手だてがない。
「授業中に私語は、ダメだろ」
龍哉くんが、梨花ちゃんを止めてくれる。
うん、うん。
私は心の中で頷く。
「そっか…。授業が終わってから…」
どうにか、諦めてくれないかな。
何て思ってたら。
キーンコーンカーンコーン…。
予鈴のチャイムが鳴り出した。
「あっ、もう予鈴鳴っちゃった。じゃあ…」
そう言って、梨花ちゃんが自分の席に戻っていく。
そんな後ろ姿を見ながら。
「ごめんな、亜耶ちゃん。あいつも悪気があって言ってるんじゃないんだ。興味を持つとトコトン突き止めたくなる性格だから…」
龍哉くんが、申し訳なさそうに言う。
「ううん。平気…じゃないかな。それより、十一月に婚約発表することになったから…。その時は、よろしく」
私は、昨日聞いた話を龍哉くんに伝えた。
「えっ、婚約発表になったんだ」
龍哉くんが、驚いた顔をする。
「うん。結婚してるのに婚約発表になった。まぁ、仕方ないよね」
順番は、逆だけど遥さんと一緒に居れるのは、嬉しいから。
「そっか…。まぁ、楽しみにしてるよ」
龍哉くんが、微笑した。
本鈴のチャイムが鳴り、遥さんの授業が始まった。
授業が始まり、十分経った。
今は、教科書の問題を解いてるのだが、直ぐに解き終わりノートと関係の無い紙に湯川くんの言葉を書いていた。
家で話せばいいことだってわかってるんだけど、早く決めて真由ちゃんに連絡したかった。
「高橋先生。教えてもらいたいんですが…」
静かな教室に私の声が響く。
「鞠山、何だ?そっちに行く」
遥さんが、教壇から降りて私のところにくる。
私が、さっきの紙をシャープペンでトントンと示せば。
「これか…」
そう言いながら、私の持ってるシャープペンを取り上げて。
"ゴメン、言い忘れてた。土曜日なら大丈夫だ。朝の十時に真由の所に迎えに行くか。行く場所はどうする?"
と、サッと紙に書いていく。
「あっ…、そっか…」
何て呟きながら。
"真由ちゃんと相談してもいい?真由ちゃんも行きたい所あるだろうし…"
って書けば。
"どうせなら、泊まりで行くか?土・日で泊まって帰ってこれば、いいだろ"
って返ってきた。
"いいの?"
"いいよ。俺も亜耶と一緒に楽しみたいし…"
ニコニコしながら返答を書く遥さん。
"ありがとう。次の休み時間にでもメールしてみるね"
"ん。決まったら教えて"
「もう、そろそろ解けたか?」
遥さんが、そう言いながら教壇に戻って行く。
「問一を、鞠山よろしく。そのまま前に移行して、順番に黒板に書け」
遥さんったら…。
私は、さっきの紙を誰にも見られないように机の中に仕舞って、前に出る。
さっさと書き終えて戻ろうとしたら。
「俺等、とばっちり…」
龍哉くんが呟く。
「龍哉くん、ゴメンね」
私も小声で言えば。
「いいけど…」
苦笑する龍哉くん。
「亜耶。あんま、龍哉と仲良くするなよ。俺、妬くぞ」
席に戻る前に遥さんが、小声で言ってきた。
「先生が何を言ってるんですか?」
言い返せば、プッとほんの少しだけ頬を膨らませる。
これ、後が大変かな。
「鞠山、河合。正解な。後のは、いいとこまでいってるんだがな…」
そう言いながら、遥さんが補足説明をしていった。




