偽りの無い姿…雅斗
コンコン。
俺は、個室のドアをノックし中に入る。
六人がこっちを見る。
うちの両親と由華は、やっと来たかって顔をし遥の両親と多香子さんは、興味津々な顔つきだ。
「下に降りて行ったら、二人と遭遇したから連れて来た」
俺は、由華の隣に座る。
「お帰り」
由華が小声で、しかも笑顔で迎えてくれる。
この笑顔、俺好きなんだよ。本人には、言わないけど。
「ん?何か変わった事は?」
俺は、自分の感情を悟られないように言う。
「今度、多香子さんと遊びに行く約束しちゃった」
って、とても嬉しそうに言う由華。
そこまで、仲良くなったか。
「そっか…予定が決まったら、教えて」
多香子さんが忙しいのを知ってるから、それしか言えなかった。
「雅くんは、どうだった?」
どうと言われれもなぁ…。
「まぁ、二人の話を聞いてればわかると思うが…」
「…ん?」
由華がキョトンとした顔をする。
うん、その顔もいいな。
目線を亜耶と遥に向ければ、亜耶が挨拶してる処で、少しだけ声が上ずっている。
やっぱり、緊張解れなかったか…。
おじさんの質問に対して、堂々と受け答えする亜耶。に対して、遥の口許が徐々に緩んできてるのがわかる(たぶん、由華には気付かれない程度)。
「亜耶ちゃん、可愛い。弟のところの真由ちゃんと同じ年頃だよね」
おばさんが、テンションの高い声で言う。
真由って、確か理事長のところの娘さんだったか…。
遥がおばさんを諫めて、多香子さんが亜耶に声をかける。
多香子さんの仕事モードに気圧されて、たじろいでる亜耶だが、それでも堂々とした態度を見せると、多香子さんが柔らかい雰囲気に切り替わった。
あっ、亜耶の事試したんだ。
俺は、直感的にそう思った。
雰囲気が変わった時点で、多香子さんは亜耶を気に入ったのがわかった(気に入らない人だとずっと仕事モードだしな)。
それに亜耶もそんな多香子さんを気に入ったみたいだ。
笑顔で、挨拶してる。
多香子さん、ほんと凄いよ。亜耶が警戒してたのを直ぐにとくんだからな。
「ほら、二人とも座って。ディナーにしよう」
親父が、そう切り出して食事会が始まった。
たわいの無い話をしながら食事が進む。
時より亜耶が困ってると遥がすかさず世話を焼いてるのを見て、微笑ましく思う。
「雅くん。先輩、亜耶ちゃん大好きオーラ全開してるんですけど…」
由華が、驚いた顔をしながら、俺に言ってくる。
「これ、まだ序の口だぞ。遥、甘やかす時は、とことん甘やかすすから」
俺の言葉に由華が更に驚く。
「まぁ、見てればわかるよ」
由華にそう告げて食事を進める。
残りデザートだけになった時、多香子さんが。
「何で、遅れたの?遥」
と口にした。
遥は、亜耶に目を向けたまま受け答えてる。
その言葉を聞いて、三人が目を見開いた。
あぁ、また秘密にしてたのか…。
って言うか、遥、家族なのに言わなさすぎだろうが…。
まぁ、うちには相談してくるから、いいのか?
「あいつ。遥をこき使いやがって」
何処からか、唸る声。
声の方を見れば、おばさんの目がつり上がってた。
うわーこえーよ。
美人の顔が台無しだ。
何て思いっていたら、デザートとコーヒーが来た。
俺は、自分の分のデザートを由華に差し出す。
「いいの?」
「ん。俺の分も食べといて、俺は、後で頂くから…」
そう言って由華を見れば、顔を赤くしながらも嬉しそうに俺を見て。
「ありがとう」
そして、ほんと美味しそうに食べ出した。
そんな由華の頭を撫でた。
今日は、まだ平気そうだな。
何て思ってたら。
「そうそう、十一月にお前達の婚約パーティーするからな。亜耶の社交界デビューも一緒にな」
って親父が言う。
その話し、俺にとっては初耳だ。
って事は、俺が席を外してる間に決まったのか。
由華は聞いてたんだろうが、多香子さんとのやり取りで必死だったんだろうと推測できる。
来月の予定って、大丈夫か?
遥が、亜耶のドレスを選ぶとか言ってるが、亜耶もどうしたらいいのかわからずにいるのを見て、由華がアドバイスを送ってるのを横目で見る。
そういや、由華のドレスも新調しなくては…。
亜耶の返事を聞いて、遥の顔が綻んでいく。
本当に嬉しそうだ。
やっと、だもんな。
ふと静かになった隣を見れば、固まってる由華の姿。
何?
俺は、由華の目線を追った。
そこに居たのは、何時もと違う遥の無邪気な笑顔。
そう、由華はこの笑顔を見るのが初めてで、遥がこんなに自然に笑ってるところを見えるとは思わなかったんだろう。
驚くのは、無理もないな。
亜耶の前でしか見せないんだからな。
俺の最初に見たとき戸惑ったのを覚えてる。
こんな笑い方も出来るんだって…。普段使いの似せ笑いじゃない笑顔。
これを見た時、やっと壁が無くなったって思えたんだよ。
由華、早く戻ってくる事を俺は望むがな。