意外な一面…雅斗
「雅斗、助かった」
遥が、心底安心したように言う。
俺としては、遥を助けた訳じゃないんだがな。
「あぁ、別に構わない。お前こそ大変だったな」
何があったかは知らないが、やたらと疲れてる気がするのは俺だけか?
「何で、わかったんだ?」
遥が、不思議そうに聞いてきた。
何の事だ?
あぁ、さっきにあれか…。
「ん?亜耶の事必要以上に見てたし、しかも顰めっ面だったからな」
思い出すだけでも、虫酸が走る。
「で、何言われたんだよ」
まあ、大体の想像はつくが…。
「俺と亜耶では、不釣り合いだ。年相応の自分の娘と結婚しろってさ」
遥の言葉を聞き、亜耶を見れば眉間にシワ寄せていた。
よっぽどイヤだったんだろうな。亜耶、反論もせずに聞いてただけだろうし…。
「ふーん。それで、亜耶に謝る事なく立ち去るのは、大人としてどうなんだ?」
俺は、不服に思いそう言葉にして表す。
謝罪一つでも入れれば良いのに、それをしない大人って、巨万といるからな。
自分の否を認めない人。
それは、それでどうかと思うがな。
「それなぁ、本当に参るよ。姉さんに言って、降格させてもらう」
遥も俺と同じ意見な様で、釘を指すことにしたみたいだ。
亜耶は、俺達の話に突っ込んでは来なかった。
どうしたんだと思いながら、亜耶を見ればやたらと緊張してるっぽいが…。
「そうしてくれ。理由も説明しておけよ」
俺からは、これぐらいしか言えない。
遥の実家の事なのだから…。
「そこは、抜かりなくしておく。後で、突っ込まれて説明できなかったら困るしな」
遥の言葉に安堵し。
「…で、今日の亜耶は、遥に振り回されっぱなしの一日だったんだな。ブラック遥を見たって言うし…」
俺は、膠着してる亜耶に話を振った。
これで、少しは緊張も解れるだろう。
それにしても、とうとう亜耶の前で、お披露目したのか。
さも見ものだった事だろう。
「そのブラック遥のキーワード何を言われた時だった?」
興味深く、亜耶に聞き返す。
遥は、頭を抱えてるけど…。
「んっとねぇ。主に、私に関しての言葉かな。"そんな娘"とか"あの子よりも癒してあげられる"とか後"可愛くない"」
亜耶が、口許に人差し指をトントンとリズムよく軽く叩きなら、その時の事を思い出しながら(眉間にシワが寄ってる)言ってるのがわかる。
その言葉、全て遥にとっては禁句だな。
まぁ、からかう要素ができたな。
「ぶっは。遥、何それ。亜耶に対しての文句に切れるとか、お前、どんだけ亜耶に一途なんだよ」
「悪いかよ。俺は、亜耶が居れば良いんだよ」
剥れながら、亜耶を愛しそうに抱き締める親友に笑みが溢れる。
亜耶は、亜耶で顔を赤くしながら、されるがままだ。
俺、遥には感謝してるんだ。
遥が居るから、亜耶はここまで素直に成長できたんだと思う。
あの時、無理矢理連れてきた事、悪かったって思ってる。だけどこうして、二人が寄り添ってるところを見れば、よかったって思える。
「はいはい。全く、仕方の無い奴だな。そんなんで、仕事できるのかよ」
呆れながらそう聞けば。
「ん?まぁ、出来るって言えるのかな。殆ど、古株の先生だし…。そういえば、変な話し聞いたんだけどさぁ。亜耶が入院してったて、本当?」
遥が、俺と亜耶を交互に見てくる。
ハァー。何処から漏れたんだ。
亜耶を見れば、固まって話せる状態じゃないし…。
「あぁ、本当だよ。夏休み前のレクでな、体調崩してたのに参加して、悪化させたんだ。責任感の強い亜耶だから、言えなかったんだろ」
そう言って、遥を見れば明らかに不機嫌モードだ。
あ、これヤバイ感じか。
もしかして、あの事も聞いたってことか?
「何で、その時に言ってくれなかったんだよ」
口を尖らせて、言う遥。
あの事じゃないのか?
ホッとしながら。
「言ったってしょうがないだろ?お前、どっちにしても帰ってこれなかったんだから」
亜耶が入院したなんて、研修中に言えば、研修をホッポリ出して、帰ってくるの目に見えてたし…。
諭すように言えば。
「だけど、それだけじゃないんだろ?亜耶が、突き落とされたって聞いたぞ」
確信を突く言葉を遥が告げた。
その事も、バレたんだな。
一体、誰が漏らしたんだ?
俺は、米神を押さえる。
「どうして、それを…」
亜耶が、ポツリ呟いた。
亜耶も気になったんだろう。誰が漏らしたかを…。
「古株の先生が…。って言うか、口を滑らせたのは亜耶の担任で、そこから話が膨らんで、亜耶がプールに突き落とされたって話しがでたんだよ」
遥が、何かを思い出すように言う。
「…ハァ、そっか。聞いてしまったのなら仕方がない。突き落とした生徒にもきちんと謝罪してもらってるし、何せ、亜耶が大事にしたがらないからな」
俺の言葉に遥が驚いた顔をして、亜耶を見る。
亜耶は、ゆっくりと頷いた。
遥がどう思ったのかは、わからない。が、亜耶が納得してる以上、追求する必要はないと思うが…。
「そうか…。ならいいけどさ。何か、俺だけ知らないって言うのは、イヤだからな」
何処まで、亜耶が大事なんだな。
って、そんなに膨れること無いと思うが…。
何か、亜耶に対して一番過保護なのが、遥なんだろうな。
そう思っていたら、クスクスと笑う声が聞こえてくる。
声の方を向けば、亜耶が可笑しそうに笑っていた。
「亜耶が笑うところじゃないだろ」
遥が、拗ね出す。
何だ、これ?
たった二週間で、こんなに甘くなるものか?
この二人のオーラ、絶対今ピンクだよ。
亜耶の雰囲気も、遥になら許せるのか変わってきてる。
「ごめんなさい。だけど、遥さん可愛いから…」
えっ…。
遥が可愛いって、亜耶しか言えない、言葉だ。
まぁ、確かに今日の遥は何時もより、表情がコロコロ変わってるがな。
だからって…。
「遥が、可愛いって…。亜耶、お前の目どうにかなったんじゃんないのか?」
俺は、遥を憐れに思いながら、妹を心配する。
大の男が、可愛い言われて嬉しい筈無いだろうが…。
亜耶の言葉に慌ててる遥。こんなの滅多に見れないからいいか。
「まぁ、いいか。遥の珍しい顔を見れたし」
遥を見ながら、俺は笑った。
遥は、恥ずかしいからなのか照れてるのかわからないが、顔を赤めてる。
普段クールぶってるから、余計に笑える。
「はっ…ちょ、雅斗。この事お前の嫁には言うなよ。絶対にからかってくるんだから…」
遥が、釘を指してくる。
確かに由華に話せば、からかいの基だろうな。
「亜耶。やっぱり、お前じゃないとダメなんだな。そんな自然体は見れない」
本当に、亜耶が居るだけでこんなにも雰囲気が緩むんだから…。
「亜耶以外の奴に気が許せるものか」
こいつの言葉は、ほんと痛い。
周りは、全部敵だって言ってるんだからな。
俺の事は、何処まで信頼してるんだろうか?
「亜耶。それ以上、俺を煽るのはやめてくれ」
って、何を言い出すんだと思ってたら、珍しく亜耶が遥の背に腕を廻して、抱きついてるではないか。
なぁ、俺の事忘れてないか?
まぁ、いいけどさ。
内心複雑だ。
親友と妹が、目の前で抱き締めあってるんだからな。
「亜耶に振り回されてる遥って、滅多に見れないな」
俺は、そう呟き苦笑した。
展望レストランがある階について、俺は先にエレベーターを降りた。
二人が、俺の後ろをついてくる。
「亜耶。緊張してる?大丈夫だよ。俺も居るし安心しなよ」
遥が、亜耶に優しく言ってるのが聞こえてきた。
振り返れば、顔を強張らせた亜耶がいる。
「まぁ、無理もないだろう。何かあれば俺もフォローするしな」
俺が、笑顔で言えば少しだけ戻ったけどそれでもぎこちなく。
「う…うん」
って、返事を返してきた。
緊張しすぎだ。
あの二人に会えば、多少でも解れると思うが…。




