幸せの時間…遥
「顔合わせもすんだし、御披露目パーティーの予定もついた。詳しい話しは、後日でいいですか?」
突然遥さんが言い出した。
ん?何か、あったっけ?
「なに、急いで…。あっ、そういう事か」
お兄ちゃんが、時計を見てから私を見る。
ん?どうかしたの?
「今日は、未だ大丈夫そうだけど、早めに切り上げた方がいいか…」
お兄ちゃんまで、遥さんの言葉に同意する。
何の事?
「詳しい事は、こっちで決めておくから…。遥くん。亜耶の事宜しく」
お父さんまでもが、頷いてるし…。
一体なんなの?
「はい。じゃあ、俺達はこれで失礼します」
訳のわからないまま、遥さんに手を引かれる。
鞄は、遥さんが持ってくれてるけど…。
ちょ…一体なんだって言うのだろう。
「ほら…」
珍しく催促する遥さん。
「お先に失礼します」
振り返り、そう言うのがやっとだった。
「よかったんですか?」
部屋を出て、隣で歩く遥さんを見る。
何時もよりも早足になってる。
「ん、いいんだ。両親と姉さんに亜耶を会わせておきたかっただけだから…」
って、笑顔で答える。
本当によかったのかなぁ?
当事者の私達が居なくて…。
それに、途中退席しちゃったし…。
何て思いながら、来た道を戻ってるんだけど、どうも足に力が入らなくなってきて、なんだか眠くなってきた。
「はるかさ…ん」
私が、声をかけると遥さんが私を見て、慌て出した。
「ちょ…亜耶。もう少しで車に着くから、我慢してくれ…」
遥さんが、私を支えるようにして歩く。
「ん。…がんばる」
私は、遥さんに抱きつくようにして歩く。
端から見れば、熱々カップルなんだろうけど、ただ私が眠くなって、くっついてるだけって…ね。遥さんには、申し訳ない気持ちで一杯になる。
何とか車に辿り着き、助手席を開けてくれた遥さん。
「ほら、乗って…」
私は、助手席に座り込む。
遥さんが持っていた私の鞄を足元の置くと、ドアを閉め運転席に乗り込む。そして、私のシートベルトをする。
その様子をボーと見ていた。
「亜耶、お疲れ様。もう、寝ていいよ」
遥さんの優しく労りのある声と頭を撫でられ、誘導されるように、眠りについた。
翌朝。
目を覚ませばベッドの上で、横には遥さんが気持ち良さそうに眠っている。
えっと、昨日の顔合わせが終わった後の事、何も覚えてない。
ここに運んでくれたのは、遥さんしかいないだろうけど…。
またやっちゃったんだ。って思った。
遥さんを起こさないようにベッドから抜け出し、シャワーを浴びるために着替えを持って脱衣所に移動した。
はぁー、何時になったら治るんだろう。
シャワーを浴びながら、反省し後悔してる自分が居る。
やだなぁ、遥さんに迷惑掛けたくないのに…。
こればかりは、仕方ないのかなぁ。
考えても埒の明かない問題。
気持ちを切り替えるしかないか…。
私は、髪と身体を洗い上がった。
髪をある程度乾かしてから、後ろに束ねて朝食とお弁当を馴れないながら、作っていった。
「おはよう、亜耶」
そう言って、背後から抱きついてくる遥さん。
「おはようございます、遥さん」
私は、首だけを回して遥さんを見る。
ピョコンと前髪が跳ねてて、遥さんが動くとそれに合わせるように髪が揺らぐ。
可愛い。
私は、寝癖になっているその髪に手で触れる。
「どうした?」
不思議そうな顔をして私を見る。
「髪、跳ねてるよ」
私の言葉に遥さんは。
「そう。後で直すから、いいよ。今は、こうしていたい」
朝から抱き締められるのは、嬉しいけど。
「朝御飯食べよう。遅刻しちゃうよ」
私の言葉を聞くと。
「ん、そうだな」
って、遥さんも手伝ってくれて、準備が整う。
「「頂きます」」
二人で手を合わせて、合唱する。
なんかいいな。
幸せだって、感じれる時間。
この感じが、何時までも続くといいんだけど…。
「亜耶。日が経つに連れて、料理の腕上がっていくな。旨いよ」
って、遥さんが美味しそうに食べている姿が、私にとっての励みだったりする。
「ありがとう。もっと、頑張るからね」
遥さんにもっと"美味しい"って言ってもらえるよにね。
「頑張りすぎるなよ。もっと、力抜きな。亜耶の本業は、学業だからな」
遥さんの気遣いの言葉が、嬉しい。
「うん」
「出来ないことは、出来ないでいいんだよ。ゆっくり出来るようになればいいんだからな」
遥さんが、私の頭にポンって手を置き、笑顔を見せてくれる。
その言葉にゆっくりと頷いた。
その後も楽しく朝食を食べた。
「遥さん、これ」
私は、おずおずとお弁当の入った袋を差し出す。
「お、ありがとう。亜耶」
遥さんが、嬉しそうな顔で受け取ってくれた。
ムギュって抱き締めてきて。
「俺、先に行くな。亜耶も、遅刻しないように」
遥さんの優しい声が降ってくる。
「うん。気を付けてね」
「あぁ、行ってくる。亜耶も気を付けるんだよ」
遥さんが、玄関を出て行く。
さて、私も行くかな。
自分の部屋に鞄を取りに行き、戸締まりとガス栓を確認して、玄関を出たのだった。




