両親と亜耶の対面…遥
雅斗が、個室のドアをノックして中に入って行く。
中を見れば、うちの両親と姉、亜耶の両親と雅斗の嫁が談笑していた。
「下に降りたら、二人と遭遇したから、連れてきた」
雅斗は、自分の嫁の隣りに座る。
亜耶を見れば、入り口で固まってるし。
「亜耶、どうした?そこに立ってても仕方ないから、奥に行くよ」
俺は、亜耶の背中を押して、ドアを閉めた。
テーブルまで亜耶の背を軽く押していく。
「親父。何も相談無しに結婚した事、悪いと思ってる。だけど、これは自分で決めた事だし、迷惑かけようなんて思ってない。俺自身、亜耶じゃ無いとダメだって、ずっと思ってきたから…」
俺はそう言い頭を下げる。
俺の思いが届けとばかりに…。
今までも親に何度も反発して、困らせてきた俺だけど、この想いは嘘偽りのない気持ちだ。
「遥。頭を上げなさい。お前が、悔いの無い行動なら、いいんだよ。で、紹介してくれないか。お前が大切にしてるお嬢…奥さんを…」
頭を上げれば、ニコヤカに笑ってる親父がいた。
俺は、少し驚きながらも。
「えっと、妻の亜耶です」
少しの間をあけて、亜耶を紹介する。
「初めまして、亜耶と言います。宜しくお願いします」
亜耶が、少し上ずった声で挨拶をして頭を下げた。
しおらしい亜耶は、久し振りだ。
「亜耶ちゃんはいいのか?こんな十も離れたおじさんで」
親父が、真顔で亜耶に問いただす。
親父、おじさんはないだろうが。
亜耶が、俺の方に視線寄越したかと思ったら、真っ正面から親父と向き合い。
「はい。私は、何時も遥さんに支えてもらってます。だから、今度は私が彼を支えたいと思ってます。それに…最近は、遥さんの傍に居たいって思うんです」
堂々とした受け答えで返している。
その言葉が、俺にはどんなに嬉しいことか亜耶は知らないだろう。
「そうか…。遥、大切にしろよ」
何時もと違い、優しい親父の声。
亜耶の事認めてくれたんだと思った。
「わかってる」
嬉しくて、それでも声でバレないようにぶっきらぼうに答えてしまう俺。
「亜耶ちゃん、可愛い。弟のところの真由ちゃんと同じ年頃だよね」
お袋が、ニッコリと笑いながら話しかける。
「お袋、うるさい。そうだよ。真由と同い年。亜耶、お袋の事は無視していいから」
「えっ、でも…」
亜耶がどうしたらいいのかわからずに上目遣いで、俺の方を見てくる。
あっもう、そんな顔も可愛いよ。
「亜耶ちゃんって、呼んでもいいかしら…」
多香子姉さんが、威圧感丸出しで亜耶に言う。
亜耶が、魚籠つきながら俺を見てくる。まるで、小動物みたいだ。
姉さんの威圧に押され気味だけど、亜耶は俺の後ろに隠れること無く姉さんに向き合う。
それを良くしたのか、俺が紹介する前に威圧を脱ぎ払い笑顔を振り撒き。
「あぁ、ごめんなさい。遥の姉、多香子と言います。宜しくね」
自分から自己紹介し出す。
これは、余程気に入ったのだろう。
「宜しくお願いします。多香子義姉さん」
亜耶が、同じように笑顔を浮かべて挨拶を返す。
「後、弟が遥を除いて三人居るんだけど、仕事の都合が就かなくて、欠席してるわ。パーティーの時にでも挨拶させるわね」
姉さんの毒気の抜けた話し方が、もはや亜耶の事を認めたに違いない。
「はい。お願いします」
嬉しそうに返事を返す亜耶。
うん、何とかなりそうだな。
俺は、一安心した。
「ほら、二人とも座って、ディナーにしよう」
お義父さんの言葉に俺達は、空いてる席に座った。
それから、食事となり、雅斗に散々からかわれながら、和やかに進んでいく。時折、亜耶が戸惑ったりしてたけどフォローして難なく終えた。
多香子姉さんと雅斗の嫁は、意気投合してるのを見て、何かしら仕掛けてくるんじゃ無いかと内心焦っている。
残りが、デザートだけとなり少し落ち着いた頃に。
「何で遅れたの?」
姉さんが聞いてきた。
「ん?あぁ。生徒に絡まれたから。学校を出るのが遅れた」
俺は、淡々と口に出して言う。
「えっ、学校って…。どう言うことよ。何も聞いてないよ」
お袋が、驚いた顔をする。
同様に親父も姉さんも驚いている。
あっ、そういえば言い忘れていたなぁ。
「言ってないから、知らなくて当然。研修から戻ってきたら、伯父から電話がかかってきて、教師の穴埋めさせられてる。見つかり次第辞めて、鞠山財閥に入る」
俺の言葉に呆然とする両親と姉。
そして。
「あいつ。遥をこき使いやがって…」
お袋が、口を開く。
その言葉に亜耶も亜耶の両親、雅斗夫婦も驚きを隠さずにお袋の方を見る。
あーあ、全く口の悪いお袋だよ。
特に伯父に対しては、毒舌だからな、お袋は…。
「遥。断っても良かったんだよ。困らせておけばよかったんだ。あんな奴」
その言葉に、亜耶がポカンとしてる。
「お袋言いすぎ。亜耶が固まってる」
俺がそうお袋に言えば。
「あ、ごめん。つい」
我に返ったお袋が、苦笑いしている。
はぁー、何してるんだよ。
「まぁ。亜耶との事もあるし、何か問題が起きたら辞めればいいと思ってる。取り敢えずは、亜耶の学校生活を見てようかなと思ってる」
デザートを口に頬張る亜耶。
美味しそうに食べる亜耶に自分の分のデザートを差し出せば、目を大きく見開きキラキラと輝かさせて"いいの?"って顔で俺を見る。
そんな亜耶に頷いて答える。
何か、雛鳥に餌を与えてる親鳥みたいだ。
可愛くて仕方がない。
「それって、一日中亜耶ちゃんと居れるから、遥には役得ってやつでしょ」
姉さんに図星を刺され、動揺する俺。
そんな言葉に釣られるように生暖かな眼差しが、俺に集中する。
まぁ、今日一日で色んな事が起きたから、何時何が起きるかわからないが…。
それでも、少しでも亜耶の傍に居たいと思うのは、我が儘だろうか?
「そうそう。十一月に二人の婚約パーティーをするからな。亜耶の社交界デビューも一緒にな」
お義父さんが言い出す。
おっ、やっとデビューか…。
「亜耶のお披露目か…。俺がドレス選んでもいいか?」
レンタル…いや、オーダーメイドで、亜耶しか着れないドレスを作るっていうのもいいな。
亜耶が戸惑ってるのを見かねて、雅斗の嫁がこっそりと何か言ってる。
そして。
「お願いします?」
疑問符付きで、お願いされた。
まぁ、慣れてないから仕方無いだろうけど、俺は一様亜耶の夫なんだから、それぐらいはやらないとな。
「おし、任された」
俺は、茶目っ気たっぷりで答えた。
すると、雅斗の嫁が目を見開き、口を開けたまま固っていた。
「遥さん。由華義姉さんが、驚いたまま固まっちゃってるよ」
亜耶が、俺に言ってくる。
亜耶も、不思議そうな顔をして由華を見ている。
由華だけ、知らないんだっけ…。
まぁ、いいか。そのうち戻るだろう。
放置することにした俺だった。




