待ち合わせ場所でも…亜耶
待ち合わせ場所って某有名ホテル(ここ)だったの?
ここって、すごく高いって聞いてたけど…。
気後れしている私に対して。
「ほら、中には居るぞ」
遥さんが、堂々と中に入って行く。
自動ドアを潜るとそこは、きらびやかな別世界だった。
「お待ちしておりました、遥様。お連れ様方が、展望レストランにてお待ちです。私目がご案内いたします」
支配人らしき人が、遥さんに声をかける。
「あぁ、ありがとう。亜耶、行くよ」
遥さんが、私の背に片手を廻してエスコート(?)してくれる。
「何で、支配人さん(?)が、遥さんの事を知ってるの?」
私が小声で遥さんに聞くと。
「あっ、そう言えば、亜耶には言ってなかったっけ…。俺の実家は、ホテル経営してるんだよ。ここも、その一つだよ」
思い出したかのように言う。
えっ…、ここが…。
私が、キョロキョロと辺りを見渡す。
白を基準としていて、清潔感があり、所々に緑や絵画が飾られている。
そして、何よりも居心地がいい空間が広がっている。
「まぁ、俺が継ぐ訳じゃないけどな」
おどける様に言う、遥さん。
エレベーターホールでエレベーターが来るのを待ってると。
「おや、遥くん。君も今日はここで打ち合わせか何かか?」
背後から声をかけられた。振り向けば、中年の男性が立っていた。
「私もこれから商談なんだよ。隣に居るお嬢さんは、遥くんには不釣り合いの相手ではないかね。私の娘との縁談を受けてくれないか?」
誰だろう?
遥さんの事、知ってるみたいだ。
だけど、さっきから私の事を嫌らしい目で見てくる。
まぁ、制服だから仕方ないと思うけど…。
私はパーティーに出たこと無いから、わからないけどさ、だからって、不躾だと思う。向こうも、私の事を知らないって事は下の方の会社の社長さんぐらいかな?
「これは、お久し振りですね。多田専務。こちらの彼女は、私の妻の亜耶です。以後、お見知りおきを」
遥さんが、冷静に対応する。
「高橋遥の妻の亜耶です。何時も主人がお世話になってます」
私も遥さんに習って、対応した。
「遥くん。冗談はいかんよ。こんな女子高生と結婚だなんて。まだ、うちの娘の方が遥くんとの年齢も釣り合いがとれますって」
苦笑してる。
あーあ。また、遥さんを怒らせるワードを口にしてるよ。
この暴走誰が止めるんだろう?
遥さんの笑顔が、半端なくひきつってるんだよ。
私が高校生だからって、釣り合わないって可笑しな話しだけどさ。
その時、静かにエレベーターの戸が開いた。
そこから降りてきたのは。
「遥、亜耶。遅いぞ」
って、タメグチで遥さんを呼ぶ。
振り返ってみれば、お兄ちゃんが険しい顔つきで私達を見てくる。
「雅斗…」
遥さんもお兄ちゃんが現れるとは、思ってもみなかったのだろう(予測不能だよね)。驚いた顔をしてるもん。
そして、もう一人驚いた顔をして固まっている、多田専務。
お兄ちゃんの登場に目を瞬かせてる。
そりゃそうだよね。次期鞠山財閥の跡取りが現れれば、驚くよね。
「悪いな。学校を出ようとしたら、生徒に捕まってさ」
遥さんが、何時もの調子でお兄ちゃんに言う。
それを見てる多田専務さんは、タジタジになってる。
「そっか。今日からだったか、教師の仕事。まぁ、仕方ないか。亜耶との事で何かあったんだろ。気にするな」
お兄ちゃんが、笑顔で言う。
何時ものお兄ちゃんだ。
「…で、さっきから顔を青くしている後ろの方は?」
お兄ちゃんが、多田専務に目を向けてそう言う。
「あぁ、うちの系列で働いてる、多田専務」
遥さんが、思い出したかのようにお兄ちゃんに紹介する。
「そう。お初にお目にかかります。鞠山雅斗と申します。以後、お見知りおきを」
お兄ちゃんが、軽く頭を下げる。
普通、役職が下の人(一様、お兄ちゃんの方が年下だけどさ)から挨拶するんじゃなかったっけ?(あれ、違った?)
「ここの系列の専務をしています、多田泰彦と申します。こちらこそ宜しくお願いします」
萎縮しちゃってるし、声までも裏返ってるよ。
お兄ちゃんの存在って、凄いなぁ。
って、感心してたら。
「亜耶。今日一日大変だったんじゃないか?」
お兄ちゃんが聞いてきた。
「うん。遥さん、スゴくモテるんだもん。それに、お兄ちゃんが言っていたブラックな遥さん、初めて見たよ」
私の言葉に。
「おにい…ちゃん」
と背後からポツリと言葉が聞こえてきた。
お兄ちゃんにも聞こえたようで。
「えぇ。亜耶は、私の実の妹ですが、それがどうかしましたか?」
お兄ちゃんの言葉使いと笑顔が、怖いです。笑ってるようで笑っていないんだから…。
その言葉を聞いた多田専務が、青を通り越し白い顔になっていた。
私に対する暴言が、お兄ちゃんに伝わるんじゃないかって心配してるんだな。今ごろ後悔してるんだろうな。
私は告げ口しないけどね、遥さんがどうでるかなんて、私にはわからないけどね。
「……いえ、別に…」
反応鈍いしね。
「あぁ、亜耶が遥の妻ってことに納得がいってないんですね。亜耶は、高校生ですからね。年齢で釣り合いがとれてないって思ったんですね。ですが、当人同士も好き合っていますし、何よりも鞠山財閥の元会長が認めたとなれば、話しは別でしょう。それに、この二人は約九年もの間、婚約者でしたからね。頃合いだと思いますが」
お兄ちゃんは、やっぱり凄いと思った。
よく、あんな一瞬のやり取りで理解したと本当に思う。
「それより二人とも、皆待ってるから行くぞ」
お兄ちゃんが、エレベーターのボタンを押す。
かろうじて、そこに止まっていたエレベーターに乗り込む。
「多田専務は、乗らないのですか?」
遥さんが静かに問うと。
「いえ、私は他の用を思い出しましたので、これで失礼します」
そう言って、踵を返して離れていく。
その姿を見てつい笑みが溢れた。
支配人さんは、何もなかったかのように澄まし顔で、エレベーターには乗らずに頭を下げていた。




