新たなる誓い…遥
亜耶を駐車場に呼び出したのは、急遽うちの両親と兄弟、亜耶の両親と雅斗夫婦の顔合わせになったからだ。
朝、伯父に会って用を終わらせて外に出て姉に連絡した。
『あら、おはよう、遥。あなたから連絡が来るなんて、珍しいわね』
何て嫌みを言われたが…。
俺、大事な事親にも兄弟にも言ってないことに気付いて(伯父に気づかされて)連絡を入れたんだよ。
「姉さん。俺、結婚したから、その報告」
俺が淡々と言うと。
『ハァー?何、こんな朝から冗談を言うために電話してきたの?』
呆れた声でそう返された。
えっ、信じてもらえてない。
今、此処に亜耶が居てくれたら、電話を代わってもらって真実だとわかってもらえたんだろうけど…。
「冗談じゃない。亜耶の十六才の誕生日に籍を入れたから、嘘だと思うなら亜耶の親にでも確認して。此方からも連絡入れておくから…」
俺は、そう言って電話を切った。
そして、亜耶のお義父さんに電話を掛けた。
『おはよう、遥くん。今日から学校の教師だったよな。何か問題でも?』
相も変わらず優しいトーンで話す人だなぁ。
何て思いながら。
「おはようございます。先程叔父と話してて、学校にも亜耶との事話してなかったと思いながら、うちの両親にも入籍の事を話してなかったの思い出しまして、姉にその事を話したら信じてもらえませんでした。確認のために姉から連絡がいくかと思います。その時は、宜しくお願いします」
俺がそう言うと。
『すまなかったな。こちらから学校にも連絡するのが筋だったな。迷惑をかけたね。それに親御さんへの挨拶も此方から伺うべきなのにバタバタして、後回しになってしまってたな。遥くん。今日、時間が有るのなら顔合わせしないか?僕の方が、今日しか空いてないんだよ。明日から出張で居ないから…』
お義父さんが、申し訳なさそうに言う。
「俺は、大丈夫ですよ」
亜耶のためなら、それぐらいの時間は作る。
『そう。時間と場所が決まったら、雅斗にメールさせるから…。後、親御さんには此方から連絡を入れておくよ。迷惑をかけてすまなかった』
低姿勢で話すこの人が、財閥のトップだなんて思えない。
プライベートと仕事をきっちり分ける人だから、尊敬できるんだよな。
「わかりました。それでは、失礼します」
俺はそう言って、電話を切った。
取り敢えずは、これでいいか…。
で、直ぐに雅斗から時間と場所のメールが届いて、一時間目の授業の時にアイツに伝言を頼んだんだが…。
ちゃんと伝わっていれば、車の所で待っているはず。
俺は、職員駐車場に足早に向かった。
案の定、亜耶は車に持たれるように立っていた。
「悪い、亜耶。待ったか?」
俺がそう声をかければ。
「ううん。私も今来たところだよ」
そう言って俺に抱きついてきた。
えっ、ちょっと亜耶さん。どうしたんですか?ここは、学校ですよ。
何時もとは違う行動に、俺はたじろぎながら。
「どうしたんだ亜耶?」
俺はそう口にしていた。
「ん。寂しかったから?」
えっ、寂しかったの?
「何で、疑問系?」
笑みを溢しながら、何かあったな。こんな甘えたな亜耶、久し振りだ。
俺は、亜耶の背に腕を廻して、ギュッと抱き締めた。
「高橋先生。こんな所で、生徒と何イチャついてるんですか?」
背後からそう声が聞こえた。
振り返れば、さっき俺に声をかけてきた三人組だ。
チッ…、面倒臭いな。
「遥さん?」
亜耶が、不安そうな顔で俺を見る。
あぁ、そんな顔をしないでくれ、ちゃんと断るから…。
「ごめん、亜耶。この子達、さっき声をかけられて断ったんだけど、跡をつけられたみたいだ」
俺の事を信じてくれたみたいだ。亜耶のホッとした顔が見えた。
「生徒との恋愛は、ご法度ですよ。何で、その子一緒に居るんですか?」
何でって、奥さんだし、これから一緒に人と会う約束してるから…。
何て、心の中で呟く。
「その子よりも、私達の事を送ってて下さいよ」
そう言って、近付いてくる三人。
ってか亜耶よりもってなんだ。
コイツら、亜耶の事下に思ってやがる。
俺が一番大切にしてるものをこけにするのは、許すまじき。
「なぁ、亜耶。こいつらウザいから、始末しても良い?」
俺の言葉に亜耶が驚きを見せた。
返事が返ってこないってことは、肯定してるってことで捉えるぜ。
「お前ら、何が言いたい訳?亜耶は、俺の嫁だし、理事長・先生方・教育委員からも許可を得ている。俺が、お前らを大事に出来るわけ無いだろ。あぁ、俺達の事、全校生徒に伝えてもいい。どんな批判受けても平気だから。まぁ、それで学校を辞めることになっても仕事はあるしな」
口許を緩めつつも目は、三人を睨み付けた。
こっちは、時間がないって言うのに…。
「さっきから言ってる"亜耶"って、一年の鞠山亜耶の事?そんなのの何処がいいんだか。まだ、私達の方が可愛いって。先生を慰めてあげられるし…」
って、よがってくる。
はぁ?
こいつら何言ってるんだ。
俺を癒すことができるのは、亜耶だけだ。
俺の前で、亜耶を貶すとは…な。
自分達が可愛いだと…、バカだ。こいつら頭おかしいんじゃないか。
自分で可愛いって言うやつほど、醜いんだよ。
負のオーラが、爆発。
「お前ら、さっきから言いたい放題だな。俺にとったら、お前らなんか眼中にないんだよ!頭が足りない奴なんかお呼びじゃないんだ!とっとと失せろよ。厚かましいにも程がある。お前ら三人ですら、亜耶の足元にも及ばないんだろ。さっさと帰って、勉強でもしろ」
俺は、亜耶の前で怒鳴り散らかす。
こんな姿、見せたくなかったが致し方ない。
「ちょっ、遥先生」
何が、遥先生だ。
そんな風に呼んで欲しくない。
たいして親しくもないのに名前呼びとはな、呆れる。
「お前らに"遥"なんて、呼ばれたくないです!普通に呼んでください!」
ったく、何様のつもりですか。
「もう、いい加減にして帰ってください。これ以上、遅くなったら親御さんが心配しますよ」
亜耶が、フォローしてくれるが。
「だから、先生が送ってくれれば、直ぐだと思うけど」
いけしゃあしゃあと言う。
はっ?何で送らないといけないんだ。初対面でそこまでする必要ないだろ。
亜耶も呆れ返ってる。俺の車に乗せるわけ無いだろ。
「送ってあげるつもりありません。俺達、この後待ち合わせをしてるので、そんな余裕無いんです!」
俺の言葉に亜耶が驚いている。
まぁ、言ってないから仕方ないだろう。
「しかも、すでに遅刻なんです。相手方にあなた達が頭を下げてくれるのですか?それで許してもらえると思ってるのですか?社会に出たら時間厳守が常識なんですよ。それをあなた達の足止めのせいで、俺たちが平謝りする事になるんです。当然、遅れた理由なんか言ってもそこでダメになる事だってあるんです。それもわからないんですか?俺達が、どれだけ迷惑を被ってるのかもわからないあなた達に、俺は靡くことなんて無い!絶対に無い!それから、鞠山財閥のお嬢様に楯突いたんだ、この先の就職良いとこには就く事なんか無いと思っておきなさい!」
俺は一気に捲し立てた。脅しもつけて。
こいつら気付いていなかったみたいだがな。
今更になって、顔を青くしてるから…。
亜耶を見れば、俺の事を睨み付けてるし。
はぁ…、言い過ぎたか…。
って、時間。
俺は、腕時計に目をやる。
うわぁー、ヤバイ。マジ時間に遅れる。
「亜耶、乗って。マジでヤバイから」
俺は、亜耶に向き直って言う。
時間を守らない人が嫌いなうちの両親。
顔合わせに遅刻するなんて、亜耶の印象悪くなるだけだ。
「亜耶、早く」
俺の言葉に。
「あっ、はい」
亜耶も慌てて車に乗る。
俺は、運転席に滑り込み、亜耶がシートベルトをしたのを確認すると車を出した。
「亜耶。悪いけど、雅斗かお義父さんに電話して。少し遅れると伝えてくれるか」
俺は、亜耶をチラッと見て言う。
「えっ、うん。って、今日は誰と待ち合わせなの?」
あ、そういえば話してなかった。
「うちの両親と兄弟それから、亜耶の両親と雅斗夫婦だよ。俺の両親に亜耶を会わせてなかったと思い出して、順番が逆になってしまったけど、今日顔合わせしようってことになったんだよ」
俺の言葉に緊張し出す亜耶。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だから…。俺が居るだろ」
そう言いながら、頭を撫でてやると少し照れた顔をしだす亜耶。
「電話、してくれるか?」
俺の言葉にコクリと頷いて、電話をかけ始めた。
「お兄ちゃん?ごめん、学校を出るときにトラブルがあって、少し遅れそう」
電話の相手は、雅斗か…。
亜耶にしては、妥当な所かな。
「…うん。わかった、そう伝えておく。じゃあ、また後で」
そう言うと電話を切る亜耶。
「何だって?」
「"遅れるのは仕方がない。安全運転で来い"って」
雅斗らしい返事だ。
親と兄弟だけの集まりだから、大丈夫だとは思うが…。
「ねぇ、遥さん。今日一日で、何回嫁って言った?」
突然の質問。
って言うか、何回だ?
朝の理事長室で一回、廊下で一回、さっきのあいつらに一回。
「三回か?」
「そうなの。でも、今日の事で、明日には全校生徒に知れ渡っちゃうよね」
そう言う亜耶の顔をチラリと見れば、哀しげな顔だ。
知られたくなかったんだろうなぁ…。
「そうだな。だけどさ、俺はそれでいいと思ってるんだ。俺が教師になる前に籍を入れたこと、亜耶は後悔してる?」
俺は、意地悪な質問をしてみた。
「後悔なんかしてない。だって、私は遥さんの事好きだから、傍に居て支えたいって思ったから…」
そう言って、顔を赤くして恥ずかしそうに俺の方を見る。
可愛いことを言ってくれる亜耶。
俺は、運転中にも関わらず、片手をハンドルから放し、亜耶の頭を引き寄せた。
「……っ」
亜耶の声になら無い声が聞こえた。
「亜耶。俺も後悔してない。だから、周りが何を言っても気にするな。辛くなったら俺に言えよ。それぐらいどうにかしてやるから」
俺は、この愛しい女の子を護るんだと改めて誓ったのだった。




