実家に向けて…亜耶
紅茶を飲み終えると、そのグラスを遥さんが手にしてキッチンにもって行き洗い出す。
その間、ソファーに座って考えていた。
自分が怪我したせいで、遥さんに負担が掛かってるんじゃないかって……。
どうやって、返せば良いのだろう?
と……。
「何を唸ってるんだ?」
いつの間にか戻って来ていた遥さんに声を掛けられて、肩がピクリと上がり、振り返りながら。
「何でもないよ。」
慌てて返したけど、疑いの目で此方を見つつ。
「どうせ、俺に負担が……何て思ってるんだろう。」
と口にした。
「な、何で…。遥さん、エスパーなの?」
と心の中で呟いたつもりだったけど。
「そんなわけ無いだろう。ある程度の事なら想像付くんだよ。何年亜耶の事を見てきたと思ってるんだ。」
私の頭をワシャワシャと掻き混ぜるように撫でてくる。
私は、その手を避けるようにして。
「遥さん、やめて。髪クシャクシャになっちゃう。」
何てじゃれあった後。
「負担になんかなってないからな。」
って、小さな呟きにホッとする。
「忘れ物無いよな。じゃあ、行きますか。」
遥さんの言葉に頷き、立ち上がり玄関に足を向けた。
靴を履き、玄関に置いてある荷物を見る。
数にして六つ、そのうち二つは食材だろう。
これ、一度に運べるの?
と心配していれば。
「亜耶は、これを持って行ってね。」
比較的一番軽そうな物を一つ、遥さんから手渡される。
「後、玄関の鍵も閉めてくれ。」
と頼まれて、頷く。
遥さんを見れば、両手とは言わず、肩にも鞄の持ち手を掛けている。
「そんなに一片に持たなくても……。」
心配気に言えば。
「ん、大丈夫だよ。スーツケースは両方ともキャリー付だし、重い物っていったら、こっちの二つだけだ。」
そう言って肩に掛けている鞄二つを指す。
「それなら良いけど、無理しないでよね。」
苦笑気味にそう口にした。
荷物を車の後部座席に置いてから、助手席に乗り込むと。
「亜耶、お義母さんに電話して、先に荷物を置きに行くって伝えてくれるか。」
遥さんが運転席に乗り込みながら言う。
ん?
って思ったが、食品を載せたまま何時間も置いとけないもんね。
「わかった。」
私はそう口にして、携帯を取り出して、電話をかける。
と、突然遥さんが手を伸ばして来て、ドキッとしたが、私がシートベルトをしていなかったから、それをする為だと気付き焦りを隠すように横を向いたが、ガラス窓に反射して写る顔には、悪戯が成功した時の笑みを浮かべる遥さんの姿があった。
も~。
そうこうしてると電話が繋がり、母に今から行く事を伝えている内に遥さんが車を走らせていた。
「亜耶と同じ部屋なら良いんだが。」
とポツリ聞こえて来た遥さんの言葉に、ボフッと顔が一気に熱を帯びた。
イヤ、確かに私たちは夫婦だけどさぁ、実家に泊まるのに同じ部屋で過ごす事難しいんじゃ……。
でも、私も本音を言えば、一緒が良いと思ってるわけで……。
入院している間、ずっと寂しかったから……。
それでも。
「部屋が余ってるから、わからないよ。」
そう口にしていた。
休暇のお屋敷だから、割りと一部屋が広いんだけど、祖父母が住んでいた時は、住み込みのお手伝いさんが居たし、泊まりになると家族別々(両親は一緒)の部屋で寝てたから、部屋は余ってる筈。
もしかしたら、別々の部屋にされる可能性もある。
「亜耶、何難しい顔をしてるんだ?」
顔を覗き込んでくる遥さん。
思わず仰け反りながら、今運転中じゃ……。
と顔を上げれば赤信号で、停まったタイミングでの事だった。
「あのね。書斎や勉強部屋は別でも、寝室は一緒が良いなぁ…って……」
口にしていた。
あっ、これは不味かったかも。
遥さんを見れば、目を大きく見開き、固まっていた。
えっ、どうしたの?
私は、焦って何か言おうとすると言葉が出なくなって、後ろからのクラクションで正気に戻った遥さんが車を走らせる。
「何でそんな風に思ったんだ?」
運転しながら聞いてくる遥さん。
私は。
「……入院してる間、寝る時に傍に遥さんが居なくて…その…寂しかったいうか、不安に……。」
本音を口にする。
入籍してからずっと一緒に寝てたから、居ないだけで不安やら、寂しさが押し寄せていた。
「亜耶の気持ちはわかった。俺も亜耶が居なくて寂しかったから、別々の寝室だった時はご両親に許可を取ってから一緒に寝ような。」
何となく嬉しそうな声音でそう返ってきた。
「本当?」
確認するように聞けば。
「あぁ、本当だ。」
私の頭を優しくポンポンと安心させるように叩く。
私の気持ちをきちんと汲み取ってくれる遥さんを、もっと好きになっていた。




