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退院日…遥



ヤバ、何時もより出るのが遅れた。

なぁ、仕方ないか……。

酒の匂いをさせて病院に迎えに行くのは気が引ける。

亜耶も許してくれるよな。

自己完結しながら、亜耶の病室に急いだ。



病室の戸を開け。

「悪い亜耶、遅くなった。」

声をかけて中に入れば、頬を膨らませて俺の選んだワンピースを着て此方を見ている。

俺は暫し固まった。

何せ、そのワンピースがやけに似合っていて言葉が出ない程見とれてしまったのだ。

「遅いよ、遥さん!」

と愚痴の様な言葉を耳にして、怒ってるのが分かり。

「本当に悪かった。シャワーを浴びてから出て来たから、遅くなった。」

弁解する様な言い方になったが、その言葉を聞いた途端亜耶の表情が曇った。

亜耶の怪しげな視線(疑ってます)が俺に纏わり付く。

 これは変な誤解を持ったな。

「誤解するなよ。昨日の酒の匂いが残ってたから、消す為に浴びて来たんだよ匂いが付いたままだと嫌だろうからさ。」

 亜耶の誤解を解くように言葉にし、苦笑を浮かべる。

 亜耶が、俺に近付いて来たと思ったら鼻をクンクンさせて匂いを確かめ始めた。

 これ、何の拷問だ?

 このまま抱き締めて良いか?

 なんて考えながら。

「納得要ったか?」

 声を投げ掛ければ、亜耶が顔を上げて。

「うん。何時もの遥さんの匂いだ。」

 と言って抱きついたかと思ったら、胸元で頬を擦り寄せている。

 何が起こってるんだ。

 焦りながら。

「うぉ……亜耶?」

 と声にしていた。

 今までそんな事した事無かったから、どうしたら良いかわからない。

 どさくさに紛れて抱き締めて良いか?

 良いのか?

 煩悩と理性に急き立てられながら。

「そのワンピース、とても似合ってるな。一瞬見とれてたよ。」

 と口に出した。 

「本当? 大人っぽいから、似合ってなくてガッカリしてるんだと思った。」

 亜耶が自分の事をそん風に言うなんて、珍しいと思いながら。

「ほんと。嘘付かないよ。シックな装いも似合う年になったんだなって思ったんだ。」

 今までのとは対照的な装いだが、それも着こなす亜耶は着実に大人の階段を登っているのだと改めて思わされたのだ。

「ありがとう。でも、遅かったのは家を出る時間がずれただけだったんだね。もしかしたら、事故に遭ったんじゃないかって心配したんだよ。」

 亜耶が口にした言葉に、俺は心配させてしまったんだと思った。

 家を出る時にでもメールしておけばよかったと反省しつつ、次遅くなりそうな時は連絡を要れるようにしようと決意する。

「ごめん。」

 俺は、そう口にして亜耶をきつく抱き締めた。

 この可愛い嫁を不安にさせるのも自分なんだと思いながら。

「お詫びに亜耶の好きな物をお昼に食べに行こうな。」

 と口にしながら、頭を撫でる。

 観衆に見られながら食べさせるのも良いよな。生暖かい視線を一杯に浴びるのは目に見えてるが、仕方ないよな。亜耶の恥ずかしがる顔を拝めるんだ、よしとしよう。

 俺自身が甘やかしたいんだからな。

「本当?」

 疑うような眼差しで俺に聞き返してくる亜耶。

「あぁ。そんな目で見るなよ。亜耶の大好きな店でゆっくりとな。」

「うん!」

 亜耶の満面の笑みが返ってきた。


「準備は整ってるんだろう?」

 俺の言葉にコクりと頷く亜耶。

「じゃあ、行くか?」

 俺は、ベッドの片隅に置かれている鞄を手にして、亜耶の左手を指を絡ませるように繋ぐと、亜耶のペースで歩き出した。

 何となくだが、亜耶の視線は繋がっている手に向いてる気がしてチラリと見れば、口許を緩めている亜耶が居て、あぁ、来んな顔が見られるのなら良いかななんて思ってしまう自分が居る。

 やっぱり俺は、亜耶に弱いんだなぁと改めて自覚した。



 病室を出てナースステーションに立ち寄る。

 お世話になった人(特に都さん)に挨拶をする為だ。

「都さん。色々、ありがとうございました。」

 亜耶がカウンター越しに居た都さんに声を掛けて頭を下げる。

 こういうところはきちんとして居るんだよなぁと感心しながら。

「都さん、亜耶がお世話になりました。」

 夫として頭を下げる。

「私は何もしてませんよ。それから、亜耶ちゃん、今後の行動には充分に気を付けてね。」

 都さんは笑みを浮かべながら、亜耶に対して注意喚起を促す。

 今後亜耶に起こるだろう事を危惧しての事だと思う(まぁ、心配してくれているんだと思う)。

「はい、充分に気を付けます。」

 亜耶もその言葉を真顔で受けて返す。

 何かを感じ取ったのか、亜耶の凛とした態度に俺まで気が引き締まる。

 亜耶を護るのは、俺だと改めて誓う。

「それでは、ありがとうございました。」

 俺たちは、再度頭を下げてからエレベーターホールに向かった。


 エレベーターに乗り込むと、誰も居なかった。

「亜耶、お昼食べる前に買い物するぞ。」

 俺が口にすると亜耶は不思議そうな顔をして俺を見てくる。

「亜耶の服を買いに行くんだよ。」

 苦笑気味にそう口にするが、余計にわからないという顔をして居る。

 服を沢山(雅斗嫁が与えるから)持ってるのは知っているが、今ある服では腕に負担が掛かるものが多いだろうから、少しでも負担が軽くなるものを買おうと思ってる。

「まだわからないか? その手に負担の掛からない服を買いに行くんだよ。」

 と俺が口にしたら、暫く考えて。

「わかった。ありがとう、遥さん。」

 笑って言う亜耶。

 あぁ、この笑顔良いな。

「あぁ、亜耶に似合う服沢山買おうな。」

 亜耶の服を選ぶの何時振りだろうか?

 これって、久し振りのデートになるのでは?

 何か亜耶よりも俺のプレゼントになってる気がするが、俺自身が嬉んだから、仕方ないか。


 それから、何処に連れて行こうかと思案し始めた。 










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