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退院…亜耶



朝食を左手でスプーンを持って時間が掛かりながら食べる。

何時もなら食べている途中に遥さんが来るのだが、今日はその気配が無く、心配になりながら食べていた。完食して、トレーを廊下のワゴンに戻す。

そういや、自分でトレーを戻したの初めてじゃないかなぁ。

何て思いながら、部屋に戻る。


遥さんが来るまで、本でも読んでいようとページを開けるが、集中できずに諦めて閉じた。

窓の外に目を向け。

「遅いなぁ……。」

ポツリ声に出していた。

その直後がラット戸が開いたのだ。

普段だったら、ノック音の後に開くのだがそれもなくて唐突でビク付いた。

「悪い亜耶。遅くなった。」

戸に視線を向けると遥さんが申し訳なそうな顔をして此方を見ていた。が、私の格好を見て固まってしまった。

えっ?

どうしたんだろう?

首を傾げながら、自分の姿を見る。

もしかして似合ってなかったのかな?

今着ている服は、遥さんが持って来た服だよ。

そう思いながら、少しだけ悲しい気持ちになり。

「遅いよ、遥さん!」

少し拗ねた口調で言ってみた。

だって、何かあったんじゃないかって心配してたんだもの。それに、何も言ってくれないのって、不安になるでしょ?

「本当に悪かった。シャワーを浴びてたから家を出るのが遅くなった。」

言い訳のように出てくる。

私は、遥さんをマジマジと見て、髪が少し湿っているのが分かった。

だけど、朝からシャワーを浴びるってまさか……。

ジト目で遥さんを見れば。

「誤解するなよ。昨日の酒の匂いが残ってたから、消すために浴びてきたんだよ。酒の匂いが着いたままだとイヤだろうと思って……。」

そう言って苦笑を浮かべる遥さん。

昨日どれだけ飲んだのかは分からないけど、それでも確認したくて自分から遥さんの傍に行きクンカクンカと匂いを嗅ぐ。

少量のお酒の匂いはするものの微かに香る匂いは家で使っているボディーシャンプーの匂いだ。

「なっとく要ったか?」

遥さんの声が頭上から聞こえて、上を見上げてから。

「うん。何時もの遥さんの匂いだ。」

って抱きついて胸元に頬を擦り付けてみた。

「うぉ……。亜耶?」

何時もと違う私の行動に遥さんの顔が真っ赤になってて、真新しい発見が出来私は満足してると。

「そのワンピース、とても似合ってるな。一瞬見とれてたよ。」

と誉め言葉が聞こえてきて、更に嬉しくなる。

「本当? 大人っぽいから似合ってなくてがっかりしてるんだと思った。」

と呟けば。

「ほんと。嘘付かないよ。シックな装いも似合う年になったんだなって、思ったんだよ。」

遥さんの言葉は、時として私を浮かれさせてくれる。自分では似合わないと思っていても、彼が似合うと言ってくれるだけで自信が持てるくらいになるから不思議だ。

「ありがとう。でも遅かったのは、家を出る時間がずれただけだったんだね。もしかしたら事故に遭ったんじゃないかって、心配したんだよ。」

そう口にすると。

「ごめん。」

謝罪してくれて、抱き締めてくれる。

「お詫びに、亜耶の好きなものをお昼に食べに行こうな。」

遥さんが頭を撫でてくる。

「本当?」

疑うような眼差しを遥さんに向けて聞けば。

「あぁ、そんな目で見るなよ。亜耶の大好きな店でゆっくりとな。」

と返って来たので。

「うん!」

笑顔で頷いた。


「準備は整ってるんだろう?」

遥さんに言われて、コクりと頷けば。

「じゃあ、行くか。」

遥さんが一端離れて、ベッドの傍らに置いていた鞄を手にすると、私の左手と指を絡めるように繋ぎ歩きだした。

私は、その握られた手を凝視した。

普段こんなあからさまな手の繋ぎ方はしない(小学生の時は、迷子になら無い様にと繋いでいたが)から嬉しくて仕方がない。

口許が緩みそうになるのを何度も堪えた。



病室を出て、ナースステーションに立ち寄る。

お世話になった都さんに挨拶する為だ。

丁度カウンターの傍に都さんの姿があった。

「都さん。色々と有り難う御座いました。」

私は、都さんにそう声をかけると共に頭を下げた。

「都さん。亜耶がお世話になりました。」

横で遥さんも頭を下げる。

「私は何もしてませんよ。それから、亜耶ちゃん。今後の行動には充分気を付けてね。」

都さんが真顔で告げてきたから。

「はい、充分に気を付けます。」

それを受けて私は更に気を引き締めて答えた。

多分、今回で終わりでは無い事は分かってる。

遥さんと婚姻した事によって、私を気に入らない人達が居るのは当たり前の事で、今回は序章なのかもしれない。

この事で、学校内だけではなく世間でも気を付けなければならないと認識する。

何処から狙っているのか分からないから。

「それでは、有り難う御座いました。」

改めて頭を下げて、エレベーターホールに足を向けた。



エレベーターに乗り込めば、私たちだけだった。

「亜耶。お昼食べる前に買い物するぞ。」

突然遥さんが言い出した。

買い物って、一体何を買うんだろう?

首を傾げながら遥さんを見れば。

「亜耶の服を買いに行くんだよ。」

遥さんが意気揚々で言う。

服なら沢山あるのだけど、何故今さら新しい服を買う意味が分からない。

「まだ、分からないか? その手に負担が掛からない服を買いに行くんだよ。」

遥さんが何処となしか嬉しそうな顔をして言う。

トップスなら袖を通していないのもあるから要らないし、ボトムスの方は、と考えた末簡単に着れそうなものを持っていない事に気付いた。

「分かった。有り難う遥さん。」

自分が気付かないところに気付いてくれることが嬉しくてお礼を言う。

「あぁ、亜耶に似合う服を沢山買おうな。」

私の承諾が出たことで目をキラキラさせながら言う遥さん。

買うのは程程にして欲しいなぁ、何て思いながらクローゼットの空きスペースを考えていた。










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