居酒屋にて①…遥
店中に入れば。
「いらっしゃいませ!!」
威勢の良い声が店内に響く。
カウンター越しに店主が俺たちを見て。
「二人とも久し振り。奥の個室空いてるからそこ使ってくれ。」
と声を掛けてくれた。
「ありがとうございます。」
俺が言うと。
「それは、こっちの台詞だ。お坊っちゃん方に利用していただけるだけで、光栄に思ってるんで……。」
店主が笑顔を浮かべて言う。
俺たちも釣られて笑みを浮かべて、奥座敷に足を向けた。
座敷と言っても堀炬燵なので、椅子に座るような感じだ。
俺たちはメニューを見ながら、注文を決めていく。
「雅斗、今日のお任せメニュー有るぞ。」
俺がそう声をかけると。
「それは食べないと。」
雅斗が嬉しそうに言う。
お任せとは、文字通り店主の気まぐれ料理で、食べて欲しいものを出してくるのだ。
雅斗は、決まってこれを注文する(無い時もあるが)。
俺は、それを横から少し頂くぐらいだ。
そうこうしてると。
「二人とも元気そうで何よりです。」
店主自ら顔を出して、お絞りを渡してくる。
「ご無沙汰してます。」
俺たちも挨拶を口にする。
「その後、変わりはありませんか? 特に親父さん。」
店主が聞いてきた。
「ええ、元気ですよ。忙しくて、中々此方に足が運べないかも……。」
雅斗が今の状況を口にする。
えっ、そんなに忙しいのか?
だったら、早く戻るべきだよなぁ……。
雅斗を見れば、後で話すと目配せしてくる。
「そうですか。お二人は?」
少しばかり心配そうな顔を見せてから聞いてきた店主に。
「俺たち、各々結婚したんですよ。で、俺は来春には家族が一人増えるんです。」
雅斗が嬉しそうに話す。
「そうですか。雅斗さんにお子さんが、それは喜ばしいことですね。遥さんは?」
「俺は、先月籍を入れたばかりです。」
自分の事を話すのって、案外恥ずかしいのな。
「そうですか。では、私からお二人にお祝いとして何か見繕って参りますね。」
店主がニコニコと満面の笑みを浮かべて言う。
「注文は、どうされますか?」
何時もの調子に戻り。
「生二つとお任せ一つ、後唐揚げ一つ、奴二つ、下足揚げ一つ。」
雅斗が次々と頼み。
「ワカメサラダ一つ、海鮮茶漬け一つ。」
俺が口にすると怪訝そうな顔で俺を見てくる。
店主も不思議そうな顔をして俺を見てくる。
何時もなら頼まないご飯が入ってるからだろう。
雅斗も店主も理由を言わ無いと納得しないだろうと。
「亜耶に怒られるからな。主食になるものを一つ食べるように言われてる。」
口にした。
「亜耶に言われてるならそうするしかないもんな。じゃあ、俺も同じものを。」
雅斗が諦めたかの様に言う。
「お二人とも、余程妹君が怖いと見える。」
苦笑しながら店主が言う。
「恐くはないんですが、俺は惚れた弱みでしょうね。」
俺は自嘲気味にそう口にした。
「可愛い妹が言うんだから、従うべきだろ。」
対抗するように雅斗は言う。
何の争いだ?
俺は肩を竦めて雅斗を見れば、ドヤ顔で俺を見ていた。
苦笑しながら。
「取り敢えずそれで。後で追加しますので。」
俺の言葉に。
「はい、わかりました。」
店主はそう言って引っ込んだ。




