先生方…遥
伯父の一言で、亜耶との事は落ち着いたが、体育祭・文化祭で何かありそうだ。
ハァー。
亜耶、思ってる以上にモテルからなぁ。
俺から見ても気になる女の子だから、周りはほっとくわけ無いだろうな…。
悠磨に伝言したけど、ちゃんと伝わってるかなぁ。
職員室で雑務をこなしながら、そんなことを考えていた。
「高橋先生。どうかされましたか?」
宮原先生が声を掛けてきた。
「いや、別に」
俺がそう答えると。
「そうですか…。鞠山も大変ですね。ついこの間入院してたってのに…」
宮原先生が言う。
入院?亜耶が?
俺、それは聞いてないんだが…。
「あれ、聞いてませんか?肺炎になりかけて、一週間休んでたんですよ」
真顔で伝えてきた。
「それ、いつ頃の事ですか?」
「夏休み前のレクの時ですかね」
俺が、研修に行ってる時じゃねぇか。
何で、何も連絡がなかったんだ?
「そうそう。その時に鞠山の想い人は誰だって、生徒達の間で持ちあがってたんですよ。特に男子の中でね」
へっ…。
その時の亜耶の想い人は俺だろ?
でも一緒に居た悠磨の事は誰からも問われる事無かったんだろうか?
ちょっと、優越感。
って、違う。
そう言えば、朝、伯父も何か言ってたような。あれって、俺と連絡をつけようとして、連絡がつかなかったから雅斗に聞いたってことか。
「肺炎になった原因は?」
俺は、気になった事を聞く。
「その日、体調を崩してたのに誰かにプールに突き落とされて、悪化したんですよ」
はっ?
それって、問題にならなかったわけ?
突き落とすって、やりすぎだろ?って言うか、誰も気付けなかったのかよ。亜耶が体調悪いって…。
いや、一人確実に知ってて止めれなかったってことか…。
あいつじゃ、役不足だったわけか…。
俺の見込み違いだったか…。
「そうそう。理事長も血相を変えて、鞠山財閥に頭を下げに行ったよ。それに久し振りに雅斗くんの姿も見たよ」
古株の先生が言う。
へぇー、雅斗がねぇ。
って事は、事情知ってるよな。後で問い詰めるか。
「高橋先生。何か、企んでいますか?」
「いえ、何も…」
変な顔してただろうか?
「そうだ、遥くん。体育祭で職員が出ないといけない競技があるの覚えてるか?それに出てもらうからな」
そういや、そんなのもあったな。
何て思いながら、思い出していた。
リレーと障害物だったっけ…。
「遥くんは、両方出ることになってるから、宜しくな」
えっ、両方って…。
「まぁ、一番人気なんだから、仕方ないだろ?」
何て、先生方も頷く。
普通、足の早い先生方が基準になるんじゃ…。
「という事で、一緒に頑張りましょうね」
そう言ったのは、宮原先生。
へっ?
「宮原先生も?」
「ええ、俺も両方なんですよ。高橋先生が入るまでは、俺が人気ナンバーワンだったんで…」
恥ずかしそうに言う先生。
「リレーのアンカーは、高橋先生に託しますね」
あれ、何気に順番決められてる。
まぁ、いいけどさ。
最近、運動してないし、当日まで走り込みするか…。
何て思っていたら。
「初日の今日はどうでしたか?」
と聞かれて。
「そうですね。未だ、担当クラス全部行けてないですけど、やりがいがありますね」
そう、口から出ていた。
欠員の先生が決まれば、俺は居られなくなるけど、それは仕方がないことだと思う。
「遥くんからそんな言葉が聞けるとは…」
ニッコリと笑う古株の先生方。
「さっきから気になってるんですが、何故、先生方は"遥くん"って呼んでるんですか?」
突然、奈津先生が言い出す。
「ん?あぁ。遥くんはここの卒業生で、私が担任をしてたからで、その時からそう呼んでいたから、癖みたいなものだよ」
「そうなんですか。では、私も"遥先生"と呼ぶ事を許して頂きますか?」
ニッコリ笑って、俺を見つめてくる。
なんだ、この図々しい人。
「悪いが、その呼び方は許すこと出来ません。普通に"高橋"でお願いしますね。他に同じ苗字の先生も居ませんしね」
俺は、他の先生方に聞きこえるように言う。
提案した奈津先生は、とても悔しそうな顔をする。
亜耶以外の女から名前を呼ばれると、虫酸が走るんだよな。
「あら、遥くん。私もなの?」
そう聞いてきたのは、養護教諭でもあり伯父の奥さんの芹澤陽子さん。
「何言ってるんですか?陽子さんは、俺にとっては"伯母さん"の立場なので、堂々と"遥"って呼んでください」
俺がそう言うと苦笑する。
「遥くん。それ、言わないで欲しかった」
目をつり上げて言う陽子さん。
ヤバ、怒らせたか?
何て気に揉んでると。
「そうそう、遥くん。結婚おめでとう。真由にも言っておいて欲しいってメール来てた。後、亜耶ちゃんに会わせろって催促メールも届いてるんだけど」
陽子さんが楽しそうに言う。
この人、他の先生が居てもお構い無しにプライベートの事、話すんだよなぁ。
「近い内に遊びに行く約束させられましたよ」
俺の言葉に一瞬キョトンとした顔をしたかと思ったら。
「そう、彼が言ったのね。一様、私からも真由に入れておくわね」
陽子さんが嬉しそうにそう言って職員室を出て行った。
やれやれ。
俺は、部活が終わる時間まで、明日の授業の確認と雑務をこなした。
「では、お先に失礼します」
俺はそう言って、職員室を後にした。
「あれ、高橋先生も今から帰るんですか?」
前方から女子生徒がパタパタと足音を立てて俺に近付いてくる。
「そうだよ」
俺は、顔に笑顔を張り付けて言う。
邪魔。
早く、亜耶に会いたいんだよ俺は。
「私達の事、送ってってくれませんか?こんな暗い中、私達だけじゃ心細くて…」
そう言って、支那を造って俺の腕に絡まる。
何処でこんなことを覚えてくるのやら。
俺は、呆れてしまった。
その前に、その甘ったるい臭いが付くから、早く離れろよ。
亜耶に誤解されるのは、俺が一番傷つくんだよ。
奴等から腕を振り払い。
「悪いけど、嫁と約束してるから無理だ。気を付けて帰りなさい」
それだけ言うと、足早に職員用の玄関に向かう。
その時俺は気付かなかったんだ、彼女等が俺の後を追っていた事を…。




