奥さまと呼ばれ…亜耶
朝食後、遥さんのお薦めの本を読み、遥さんは遥さんで難しそうな本を読み出した。
こんなゆっくりとした時間だけど、苦に思わないんだよなぁ、相手が遥さんだからかな。
何て思いながら、入院生活最終日を過ごしている(本当なら旅行してたんだけど)。
気付けば昼食の時間になって、梨花ちゃん達に恥ずかしいところを見られたくなくて。
「遥さん、お願い。食べさせて。」
私から懇願した。
そんな私を見て遥さんが目を見開いて驚いた顔を一瞬見せて、目元を緩ませ口許を片手で覆いながら。
「わ、わかった。」
返してくれた。
何処と無く、頬が赤くなってるんだけど、どうしたんだろう?
不思議に思いながら、遥さんにスプーンを手渡した。
普段ポーカーフェイスの姿しか見せない遥さんが、ここまで気を許してるのは私の前だからと思いたい。
遥さんに食べさせて貰いながら、私は笑みが溢れていたに違いない。
だって、遥さんが不思議そうに見ていたから。
それに、遥さんも何処と無しか照れ臭そうにしていたのだからね。
全て完食した後。
「後は、牛乳だけだな。」
遥さんが紙パックを手にして言う。
「うん、飲む。」
遥さんが、心配そうな顔をして此方を窺ってくる。
まぁ、確かに急に苦手な物を自分から口にするようになったんだから、心配にもなるよね。
本当に、もう平気なんだけどなぁ。
何て思いながらパックにストロー刺して飲み始める。
「俺、このトレーを片付けるな。」
遥さんが、トレーを持ち立ち上がったところでブルルルとバイブ音が響いた。
遥さんが携帯を出して画面を確認してから。
「もしもし、龍哉か?」
電話に出る。
えっ、もう着いたの。
いくら何でも早くない。
何て思いながら、壁に掛かっている時計を見れば十三時になっていた。
そういや、今日昼食が届くのが遅かったから時間感覚がずれてたのか。
遥さんに食べさせて貰ったよかった。改めて思った。
電話を切った遥さんに。
「今の。」
と聞いてみた。
「龍哉から。今、着いた所だ。迎えに行ってくるな。」
遥さんは、苦笑を浮かべてる。
多分だけど、私がそわそわし出したのを見て浮かべたんだろう。
「うん、お願い致します。」
弾んだ声が出た。
「お願いされます、奥さま。」
茶化すような言い方で言う遥さん。
遥さんから "奥さま" だなんって、背中がむず痒くなってくる。
言われ慣れてないから余計かもしれないけど……。
次第、恥ずかしくなり顔に熱を持つ。
そんな私の頭をポンポンと軽く撫でてから、トレーを手に部屋を出て行った。
二人が来るまでに顔に集まっている熱を冷ますのに必至になったのは、言うまでもないでしょ。




