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努力…亜耶



遥さんとの雑談を楽しんでいるとドアノックの音がした。

「はい。」

私が返事を返す前に遥さんが先に返事をする。

「失礼します。お夕飯をお持ちしました。」

看護師さんが、トレーを抱えて入って来たかと思ったら、可動式のテーブルにトレーを置くとそのまま出口に向かって行き。

「失礼しました。」

一言言い置いてから、部屋を出て行った。


その後、遥さんが座ってる私の腰に枕を宛がってくれて、可動式にテーブルを動かしトレーが目の前に来るように固定した。

「練習するのか?」

遥さんが聞いてきたから私は首を縦に振り首肯する。

左手にスプーンを持ち構える。

いざ、参らん。

って意気込みながら挑んでみるが、中々上手く行かず、口が尖っていく。

クッ……、悔しい、後少しで口に出来たのに……。

それでも、何度も挑戦していくうちに満足いく量を口にすることが出来てきた。

「私って、こんなに不器用だったんだ」

改めて思い口にすれば。

「誰だって利き手じゃなければそうなるって。俺だって難しいぞ。」

私の呟きが聞こえていたのか、遥さんが言い出す。

「えっ!」

驚いて遥さんの方を見れば、心外だという顔で私の方を見ていて。

「あのなぁ、俺にだって出来ない事はあるんだぞ。」

って睨み付けてくる遥さんに対して、信じられないと思う自分が居る。

普段から完璧に何でもこなしてしまう遥さんがだよ、出来ない事がある方が驚くよね。

「そんなに信じられないのなら、実践してやる。」

そう言って、遥さんは私の手からスプーンを奪って行くと左手に持ち、ご飯を掬う。

適量を適えてはいるが、直ぐに器にポロンと落ちた。

私は、そんな光景を見て暫し呆然。

「ほらな。だから、これは練習するしかないんだよ。」

苦笑を漏らしながら言う遥さんの言葉に、何度も頷き。

「遥さんにも出来ない事があったんだね。」

口から思ったことが出てきた。

それが、安心感からのモノだとは、口が裂けても言えない。

完璧な人でも、出来ない事があるんだという事にホッとした。

それなのに遥さんの顔は少々歪んだ笑みを浮かべていて。

「あぁ、幾らでもあるぞ。だから努力してるんだろ。」

って、今までの事を思い出しているのか、少し遠い目をしていた。

確かに遥さんは、人に見せない努力をしている。それは、極少数の人しか知らない。

大抵の事はこなしてしまうが、それは今までの努力の賜物であって、それを知らない人から見たら羨ましがられる様なことだったりする。その悪循環のせいで、周囲を敵と見る傾向がある遥さんの癒しが私だと思うと光栄に思える。

「そっか……。じゃあ、私ももっと練習しないとね。」

やれない事をやれる様にするには、半端無い努力が必要だと思うんだよね。

だから、私も諦めずに努力をする。それが今の私に出来る事だもの。

私は、遥さんからスプーンを受け取ると慎重に掬う練習を始めた。



一生懸命取り組んでやっとコツを掴めたと意気揚々としていたら。

「亜耶、ほらスプーン貸しな。時間ギリギリだ。」

と遥さんの声に顔を上げて、部屋の壁に掛かっている時計を見る。

「本当だ。大分コツが分かってきたところなのに……。」

悔しくて口を尖らせながら、渋々遥さんにスプーンを渡す。

遥さんはそれを受け取ると器に残っているものを順番に掬って口に運んでくれる。

あ~あ。明日の朝食は、絶対一人で完食してやる!!

何て意気込んでいたら、遥さんの手が止まっていて不審に思って遥さんを見ればこっちをジッと見ている遥さん。

どうしたんだろう?

何て思いながら。

「遥さん?」

声をかけたら。

「何でもない。ほら。」

我に返った様に私の口許にスプーンを持ってきたので、私は口を開けてそれを迎え入れた。



器に残っていたものを全て平らげ、残りは牛乳だけになった。

「亜耶、牛乳どうする?」

遥さんがパックの牛乳を手にして聞いてきた。

「飲むよ。」

私は当然の様に口にした。

昼間にお義姉さんの言葉を聞いて、少しでも飲めるようになりたいと思った。

だから、遥さんの手の中にある牛乳パックを奪って、ストロー口にストローを差し込み、口にした。

ん……、やっぱり最初の一口目は苦手だ。だけど、飲め無い事も無いと思いながら、ゆっくりと飲んでいく。

目で遥さんを見ると私の意外な行動に固まっていたが。

「無理して飲む必要はないんだぞ。」

って慌てて言ってきた。

動揺してる遥さんなんて、滅多に見れないやって思いながら。

「ん? でも、これからはそうも言ってられないから、今から馴れておく方が良いのかなって思うの。」

自分の考えを口にした。

その言葉を聞いて遥さんの驚いた顔が見れた私としては、してやったりって思った。

遥さんの驚いた顔なんて早々見えるものじゃないからね。

ズズズ……と音をさせて、最後まで飲み切ると。

「大丈夫なのか?」

心配そうに声をかけてきた。

「ん、大丈夫だよ。それよりトレーを片付けないと……。」

放心している遥さんにそう声をかけるとトレーを持って遥っsんが部屋を出て行った。


久々に遥さんの表情を変えることが出来て、私は満足。だって、滅多に見れない顔を見せてくれたんだから、ね。






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