詳細と悪巧みと相談…遥
本日三話目です。
院内に併設されている、カフェに入る。
奥の方の席に座り、注文を済ますと。
「お前、昨日家の母に何か言ったか?」
雅斗が難しい顔をして聞いてきた。
昨日……。
「あぁ、ゆかり嬢の事を少しな。」
待合室で合ったことを思い出して言う。
「それでか……。まぁ、『父親の脛かじりのお嬢様の間違いを正そうとする為に動く』って、母が言い出したからさ、何かあったのかと気になってな。」
苦笑をしながら、厄介なことになったと顔で言ってる。
まぁ、そうだろうなぁ。あの時の決意は俺が見ても鬼気迫るものを感じたし……。
「余計な事行ったみたいだな。悪い。」
俺が言うと。
「良いんじゃないか。珍しく、母がやる気になってたから、ちょっとビックリしただけだし……。」
雅斗の言葉が途切れたと同時に。
「お待たせしました。」
と店員が注文品をもって現れて、テーブルに置いていく。
「ごゆっくり」
そう言って立ち去るが、雅斗の方をチラチラ見ている。
この女、雅斗に気があるようだ。
俺は、カップに口付けながらそんな事を思った。
「……で、詳細を聞こうではないか。」
雅斗の威圧的な声に。
フ~。
っと俺は息を吐き。
「亜耶を突き落としたのは、青木佐枝。細川商事の専務の娘だそうだ。その娘、ゆかり嬢の従僕。」
俺の話を向かい側で、テーブルに両肘を着き手を組んで、その上に顎を乗せて聞いてる雅斗だが、目には怒りが浮かんでる。
それをみると、自分の怒りが幾分か落ち着く。
「現場で取り押さえられてたから、現行犯だ。」
そこは、俺も目にしていたから確実だ。
「その彼女だが、"あたしじゃない……。あの子が居なくなれば、あの人と高橋先生が結ばれるのよ。" とか"あの人にとっては、良いことなのよ。" と譫言のように呟いてるそうだ。」
俺は昨日伯父に聞いた事をそのまま伝える。
「で、青木佐枝の処分は?」
口許だけを上げて、俺を睨み付け淡々と聞いてくる雅斗。
怖いだろうが……。
俺を睨み付けても仕方ないだろうが……。
ハァ~。
「親を呼び出し一ヶ月の謹慎。」
俺の言葉に眉間を寄せ。
「生ぬるいなぁ。」
ぽつり呟く雅斗に。
「仕方ないだろう。学校内の事だし、俺たちにはどうしようも出来ない。ただ、親の方が青ざめてたらしいぞ。まぁ、一ヶ月しない内に自主退学だろうよ。」
俺がそう伝えれば。
「当たり前だろう。家との取引を無くした上で、娘が亜耶に危害を加えたんだ、何かあるべきと思わなきゃ、おかしいだろう。」
静かに怒りだす雅斗は、本当に怖い。
「あのお嬢様。まだ、自分の立場をわかっていないみたいだし、な。徹底的に潰すか……。」
不適な笑みを浮かべる雅斗。
雅斗、何するつもりなんだ?
お義母さんの事もあるし……。
ハァ……。
雅斗が手に終えなくなったら、亜耶に丸投げするしかないなぁ……。
「あっ、結婚パーティーだが、十一月に中旬になったからな。その時に何か仕掛けられるかもしれないが、対策はしておく。お前も気を付けてくれよ。」
雅斗の言葉に俺は頷くだけに止めた。
「……でだな、ちょっと相談なんだが……。」
真顔で言ってくる雅斗が、怖いんだが。
「最近、由華がさぁ、何か隠してるんだよなぁ。心当たりがなくてな、何か知ってるか?」
って、嫁の事かよ。
「そんな真面目な顔して、何の相談かと思えば、嫁かよ。」
俺が返せば。
「いや、ちょっと気になってさぁ。遥なら何か聞いてるかと……。」
弱気になっている雅斗。
さっきの凄味は何処に霧散したんだ?
「あのさぁ、俺今日久々に会ったんだから、わかるわけ無いだろう。連絡なんて一度もとってないしな。」
必要ないだろ?
好きな子ならわかるが、人妻に用も無く連絡とるわけ無いだろう。
「何時もなら、直ぐにでも話してくれるんだがな、話したくてウズウズするも我慢してる感じでさぁ。もう、言いたいことがあるなら言ってくれって感じなんだよ。」
心配そうな顔で言うから。
「沢口の事だから、その内話すと思うぞ。」
沢口は、おしゃべりが好きで、話さずにはいられない性格だ。
「そうだろうか? 何か、言いづらいことでもあったんだろうか? もしかして、俺の事が嫌いに……。」
あ~あ、どつぼに入り出した。
面倒くさ。
「沢口に限って、それはない。さっきだって、雅斗の事が好き過ぎて、亜耶に嫉妬の目を向けてたぞ。」
雅斗が亜耶を構い始めた時の羨ましそうな顔が、俺の目には映っていたがな。
「そっか……。」
少し、嬉しそうな顔を浮かべる雅斗。
俺が見た限りでは、意図的に隠してる感じはしないんだが……。
「なぁ、遥。亜耶と結婚したこと、後悔してないか?」
唐突に言い出す雅斗。
「してないよ。急にどうしたんだ?」
即答し聞き返す。
「立場的は、先生と生徒が一緒の屋根の下で暮らしてるって言うのは、世間的に不味いよなって、今更になって思ったんだ。」
雅斗が、苦虫を噛んだような顔をして俺を見てくる。
「本当に今更だな。あの時はさ、教師をする予定はなかったんだ。結婚してから、急に白羽の矢が立ったんだから、仕方ないだろ。」
伯父に話さなかった、俺も悪いし、仕方ない事だと思ってる。
俺がそう口にすれば。
「そう言ってくれると気が晴れる。家の問題に巻き込んだ形での婚姻だったから、さ。」
雅斗の気負いが緩んだのが分かる。
「これ、亜耶にも言ったんだがな、巻き込まれたなんて思ってないから。むしろ頼られて、嬉しかった。俺的にも、亜耶と一緒に居られる時間が増えて、役得だとおもってる。」
亜耶の居場所が俺の場所だなんて、嬉しいだけで迷惑だとは思わない。
「そっか……。じゃあ、気にしなくても良いんだな。」
ホッとした顔をする雅斗。
「あぁ。その事は気にしなくても良い。俺も楽しんでるから、さ。」
うん、亜耶と居ると落ち着くし、今まで知らなかった事が発見できて、楽しいんだ。
「良い顔するようになったな、遥。今、亜耶の事を考えてたのか?」
雅斗がニヤニヤしながら聞いてきた。
何でバレてるんだ。
「何も言い返さないってことは、肯定で良いんだな。」
「あぁ、そうだよ。悪いかよ。一緒に住み出した時の事を思い出してたよ。」
「そっか……。お前が幸せなら良いか……。ゆかり嬢の事は、俺も協力させてもらうからな。」
雅斗が真顔で言うから。
「あぁ、頼むよ。」
俺だけでは、手が打てない所もあるだろうからな。
「さぁて、姫のご要望の物を買って戻りますか。」
雅斗が態度を緩和させて言う。
「そうだな。」
俺が、伝票を手にしようとしたら雅斗が、先にかっさらってレジに行った。
売店に足を向けながら。
「ご馳走散。」
そう口にすれば。
「どういたしまして?」
疑問符で返ってくる。
「まぁ、亜耶に関しては、遥に任せる。亜耶が、我儘を言える相手はお前しかいないし、聞き出すのも俺よりお前の方が上手い。何かあれば言ってくれ。」
それって、責任重大じゃないか。
まぁ、亜耶に関しては雅斗よりは俺に頼る傾向があるから仕方がないにしてもだな、亜耶自身には自覚がないだけなんだが……。
「あぁ、その時は宜しく。」
「素直な遥は怖いよ。何かあるのか?」
俺の事をジと眼で見てくる雅斗に。
「ん? ちょっと……な。って、雅斗買ってこいよ。俺、ここに居るし……。」
俺は、店の前で足を止めて、雅斗を促した。
病室まで辿り着くとキャーキャーと廊下まで声が聞こえてきた。
戸を開けると。
「うん、秘密だね。」
って亜耶が嬉しそうに言う。
何だ?
「秘密って、何の事だ?」
怪訝そうな声の雅斗にビクツク二人の肩。
ゆっくりと此方を見る。
「内緒です。」
って、人差し指を唇の前で立てる二人。
さっきの雅斗の相談と関係ありそうだな。
それにしても、可愛い仕草だ。
写真に納めておきたいっと思ってしまうのは、仕方が無い事だ。




