7.腕時計
気まずい空気が流れたまま、夕食を食べ終え二階の自室へと向かった。
馴染めないな。とにかく早く未来へ戻らないとな……。時間が経てば経つほど戻れなくなってしまいそうな気がする。
そして気になるのは、やはりこの腕時計。
しかも、時計は止まってしまって動いていない。
もしかして、この世界の俺がこの腕時計を持っていたのかな?そして入れ替わる弾みで、腕時計がとれてしまった……とか?
そうだとすると、時間移動の手掛かりに、こよ腕時計は関係ないのか?
部屋に敷いてあるラグマットであぐらをかきながら腕時計を眺めていた。
「……お兄ちゃん?……ちょっといい?」
突然扉をノックされ、柚木の声が聞こえてきた。
「柚木か??どうした??」
柚木は部屋の扉を開けて、許可はしていないが、部屋の中に入ってきた。
まぁいいんだけど。
柚木は部屋に入ると俺の正面に座り
俺のことを意味深にボーッと眺めていた。
「??どうした??」
「お兄ちゃんがコンビニに行くって出掛けて帰ってきてからつけている……その腕時計どうしたの??」
柚木は俺の左腕についている、腕時計を見つめながら、俺に問いかけてきた。
「時計!?腕時計のことか!?」
なんだ!?なんでこの腕時計に反応するんだ?
柚木は無言で時計を見つめている。
「はは……。ちょっと見つけてな。……どうだ??いい感じだろ?」
俺は 誤魔化すように笑いながら答えた
「懐かしいねその時計、お兄ちゃん昔持ってたよね??誰かにあげたった言ってなかったっけ??返してもらったの??」
「…………えっ?!」
そう言われてみたら、そうだった気がしないでもないような……。
思い出せない。そもそも俺のいた未来にこんな時計あったかな??
いかにもあったかのように思い込みたいだけの気もするが。
「俺、誰かにあげたって言ってたか??昔俺が持ってたのか?!」
「うん。あげたって言ってたよ。私もそれ欲しいってお兄ちゃんにねだってたから覚えてるよ。私にじゃなくて他の人にあげちゃったもんねーー。」
柚木は拗ねたフリをしながら、嫌味ったらしく言った。
「そうか……。」
「何?その人に返してもらったんじゃないの??」
「えっ!?……あぁ。それより、そんな事言うためにわざわざ部屋に来たのか??」
そんなにこの時計が欲しいのかな。
別に針も動いてないし、未来へ戻るキッカケにもなりそうにないから、あげても構わないけどな。
「えっ!?……いや、なんかお兄ちゃん今日変だし。アイス買ってくるの忘れるし、夕食の時あの人の話し始めるし。」
そりゃ周りの人間から見たら、今日の俺は相当変だろうな。特に家族から見たら尚更だろうな。
「まぁ……そんだけ。もう寝るから……お休み。」
柚木は言いたい事だけ言って自分の部屋に戻っていった。