6.昔話
「相変わらず、おっそいわね。早く座ってよ」
リビングの扉を開けてそうそう、柚木に怒鳴られた。
「えっ。待っててくれてたのか?」
柚木は俺を待っていたかのように、ダイニングチェアに腰をかけ、目の前に夕飯が並べてあるのに関わらず手をつけずに俺のことを見ていた。
「何言ってるの??当たり前じゃない。そんなことはいいから早く座って。早くハンバーグ食べたいんだから。」
柚木はキョトンとした顔で返事をした。
「千秋今日はあんたの好きなハンバーグよ。早く手を洗ってらっしゃい」
柚木の行動に戸惑い、呆然としていた俺に母もつい口を挟んできた。
確かにハンバーグは嫌いではないが、別に特別好きというわけでも……。
いつまでも扉の前で突っ立ってても仕方ないので、洗面所で手を洗い、自分の席であろうダイニングチェアに腰をかけた。
ちなみにダイニングテーブルは4人で囲う大きさになっている。
リビングの扉からみて左手前が俺、正面に柚木。柚木の隣は母さんが座っていた。
「すまん。お待たせ。美味しそうなハンバーグだいただきます!!」
少し棒読みになったかな??
当たり障りないコメントをして夕飯に手を付けた。
そして、自分の隣に誰もいないのというのと、自分のいた世界では当たり前だった事を口にした。
「そういえば、今日親父は??」
俺の父親はいつも残業は嫌いなのか、ホワイト企業に勤めているからなのか、6時には職場を離れ、大体7時には家にいた。
だが、8時になった今でも親父の姿は見当たらなかった。
「……何言ってんの?」
柚木は思いっきり俺を睨みつけ、目をそらしながらボソッと呟いた。
「……あの人の話はやめなさい。」
母さんも冷たい眼差しで俺を見ながら言った。
「なんか本当今日のお兄ちゃん変なの。」
柚木も続けて言った。
この会話の流れから踏んではいけない地雷を踏んでしまったことに気がついた。
そして、気をつけるべきだった。
いないハズの母親が目の前にいるんだ……。いたハズの親父がいなくなっていても、何の不思議もない。だが、死んでしまったというなら写真が飾ってあってもおかしくない。仏壇もそうだ。だが先ほど見回した限りそんな形跡はなかった。そして、この2人の態度を見る限り、なんらかの形で離婚したのであろうと察しはついた。
この空気……そうとう親父の事を煙たがっているんだろうな。
親父と柚木と3人で力を合わせて育ってきた俺にとってはショックだ。
例え別の世界だとしても、あの親父が家族にこんな煙たがられているなんて……。
父親っ子だった俺にとってはショックな話だ。
急に胸を締め付けられるような思いに襲われ、切なくなった。