5.母親
「……おっそ。ちょっと、どこのコンビニまでいってたのよ……ってアイスは!?」
玄関に入ると柚木が玄関に待ち構えていた。睨みを利かせながら、今にも怒りだしそうな冷たい声で問いかけてくる。
そういえば柚木にはコンビニいく程で話していたな……。
アイスのこと、すっかり忘れていた
「あはは……ごめんごめん。すっかり忘れてたや!!」
とぼけたように答えると柚木の表情は一層に険しくなった。
「はっ!?まぢで意味わかんない。本当使えないよね、お兄ちゃんって。」
この世界の俺は普段からこんな風に妹に罵倒されているんだな……。
それにしてもこうして怒られるのも新鮮な気分にもなるな。決してMではないが!!
「また今度コンビニ行った時に買ってくるよ。悪かったな。」
早くこの場から離れたかったので、二階にある、自室へと逃げるように上がっていった
階段を登っている最中も下から妹の怒りの声が響いていたが無視し自室へと向かった。
どんだけ短気なんだよ、あいつ……。
ってか、なんで玄関で待ち構えているんだよ
そんなにアイス食べたかったのか?
少し申し訳ないことしたな。
それにしても、現場に行ったが手掛かりらしきものは何もなかったな……。
来た場所にいけば、不思議な穴があって、元の世界線に戻れるかと思ったが、そんなマンガのように都合のいい現象などなかった。
あったとすれば、この腕時計くらいだ。
どこかで見たことあるんだが一向に思い出せない。
どこで見たんだっけな。昔持ってたかな?
こんな白い腕時計付けていた覚えはないしなー。
ベッドに寝転びながら腕時計を眺めていたら、扉をノックされ、返事をする前に扉が開いた。
「千秋ーあんたまた柚木と喧嘩したの??さっきから下で柚木がわめいているわよ?」
開口一番声を掛けてきたのは母だった。
「あ、あぁ。柚木のアイスを買ってくるのを忘れてさ。ってか……母さん家にいたんだな」
突然現れた母親に戸惑いながらも質問を投げかけた。
「何言ってるの。さっきからずっと下にいたわよ。もうすぐ晩御飯だから、あんたも降りて来なさい。」
「う、うん。わかったよ。すぐいく。」
そう告げると母親はすぐに階段を降りて、リビングに向かっていった。
俺は今、率直に驚いた。突然扉を開けられたというのもあるが、俺のいた世界線では母さんは親父と離婚していて、もう何年も顔を合わせていなかったからだ。
過去ということもあるのかもしれないが、
少なくとも6年前には既に離婚していた。
ある思いがふと胸をよぎった。
険悪だった片山や妹とは仲良く日常を過ごしている。
そして、母親まで一緒に暮らしている。
この世界は俺にとって都合がよすぎる。
一体どうなっているのだ。
良いこと尽くしの世界に胸騒ぎがした。