1-4 家庭教師
魔法学校に行くことが早くも決まった日、俺は夜父の部屋に呼び出された。
寝室とは別にあるここはゼニウスが仕事を家でするときに使われる部屋なのでマイアーは邪魔をしてはいけないとそうそう入っては来ない。
まあ、俺は最近勉強のためにここにある本を読んで勉強していた訳だけれど。
「さて、母さんには言えないこともあっただろう。何をまだ隠しているヘルメス」
ちょっと硬めのソファーに二人で座ると途端にゼニウスはそう切り出した。長年の商人としての勘か、俺が全部話していないことを気付いていたようだ。
「やっぱ気付いてたんだ」
「言っておくが母さんだった気付いているぞ。今はそれどころじゃなくて頭がいっぱいいっぱいになってるだけで」
顔に出やすいからな、と頷いてるゼニウスに俺は思わず頬を膨らませてしまった。
どうやら俺にポーカフェイスはまだ早い技術であったようだ。
「特殊属性だけど……本当はもう分かってるんだ。【カード】って出てたんだけどいまいちどんな能力か分からなくて」
「カード……ね」
ゼニウスは俺の言葉を聞いて何か思い当たるようなことがあったらしい。
流石は商人、幅広い知識を持っているなと正直俺は感心した。
「まあ、それは色々と確かめてみるか。入学まで時間もあるし、いろいろとできることもあるだろう」
「そうだね」
俺は頷いて今日、どうしても気になっていたことをゼニウスに問う。
「それでさ、魔法ってどうやって使うの?」
「そりゃあ、お前……どうやってだろうな?」
「え?」
俺と父のいる部屋に、しばらく音が発生することが無かった。
翌日の昼になると珍しく父が昼過ぎに帰ってきた。
俺は復活したマイアーとお昼ご飯を食べて出がらしっぽい味のお茶を飲んで一服ついていたときのことだった。
「ヘルメスの家庭教師を連れてきたぞ」
ゼニウスが連れてきたのは大きい女の人だった。
背がゼニウスよりも高く、筋肉質なのが魔物の皮から作られた装備の上からでも分かる。
これで剣でも持っていたら随分と様になりそうな出で立ちの女性だが、その目は意外と理知的で賢そうでもあり、綺麗な人だなあと正直に思う。
赤く長い髪は後ろで束ねられており、装備を押し上げたりくぼませたりする女性的な曲線はなかなかのスタイルを持つマイアーに勝るとも劣らない。
そんな人をゼニウスが連れてきたものだから自然と隣にいるマイアーの視線が鋭くなったように感じる。
「冒険者のエオス・ジャンヌさんだ」
「初めましてヘルメス君、マイアー様」
エオスさんが丁寧にお辞儀をするとマイアーも剣呑な視線を抑えて頭を下げる。
「ご丁寧にありがとうございます。あなた、家庭教師ってどういうこと?」
マイアーの後でわかっているんでしょうねといった強烈な視線がゼニウスに向くとゼニウスは冷や汗を流しながら苦笑いをする。
「私達は魔法を使えないだろう。知り合いにもそう言った魔法使いはいないから冒険者の人を期間付きで雇ってきたんだ」
そう言ってゼニウスは俺に近づき「固有属性持ちらしいぞ」とボソッと呟いてマイアーの隣に立ってその肩を抱く。
マイアーは小さな溜め息を着くとエオスさんを家に入れて席に座らせる。
「事情は分かったわ。エオスさんも息子に魔法を教えてくれるとのことだけど……いいのかしら?」
「はい、今所属しているパーティーが活動を再開させるまで少し時間が空きそうなのでその間の時間にと思いまして」
そう、とマイアーは言うと納得したようだった。
「では早速始めようと思います。庭をお借りしてもいいですか?」
「ああ、よろしくお願いします」
ゼニウスの許可を受けて俺とエオスさんは庭に移動する。
端の方に木々が植えてある以外は固められた土の地面の面白みも何もない庭だ。
「よろしくお願いします先生!」
「ふふ、よろしくねヘルメス」
家庭教師とは親父グッジョブ!と言いたくなるほどの嬉しさだ。しかも美人ならすでにあるやる気もさらに上がるというものである。
しかも教えるときは名前だけで呼んでくるとは親しみやすさもあるという物だ。
「いきなりになるんだけどヘルメスは魔法についてどこまで知ってる?」
「基本属性が火、水、土、風、光、闇の六属性あるのと魔力が無いと魔法が使えないのと、魔物と関連があること」
基本属性はそれを生み出す現象だと思えば分かりやすいし、魔法のエネルギーが魔力だと言うのは分かる。
魔物は魔法的な何かが原因でモンスター化した生物らしい。
「貴族様や王族の人には基本属性の魔法を使う人が多くてあとは基本属性に当てはまらない固有属性があるってことくらいかな」
この国の貴族には魔法が得意でなのかつ基本属性ごとに総括するような立場にある大貴族がいるそうだ。
また王族にも時の強大な魔法使いを血に入れたりすることもあるので強力な魔法使いが生まれることはよくあるそうだ。
「そう、じゃあ魔法の使い方とかは全然知らない?」
「知らない」
そこは全くと言っていいほどの無知さだ。
父の部屋にそう言った魔法関連の本が少なかったのも原因の一つではあると思うが。
「じゃあ、ヘルメスも早く使いたいだろうしそこから始めるわね。魔法はヘルメスが言った魔力が必要になるわ。これを脳内でしっかりとしたイメージを行ってそのイメージに沿って魔力を流すことで具現化するの」
「それだけでいいの?」
魔法って言ったら詠唱だとか手で組む印だとか、魔法陣だとか触媒だとか様々な要素が絡んできそうだけど。
「これが意外に難しいの。まず、平面じゃなくて立体的にイメージしなきゃならないしその魔法がどんな効力を持つ魔法でどのような過程を経てどうなるかまで考えないといけないわ。それをしないと最悪暴発するから」
「こわっ!」
そう言えば前世の漫画やアニメでもよく暴発させる魔法使いがいたような。それがいざ自分の身に起こるかもしれないとなると強い恐怖を感じてしまうものである。
だけど、俺の固有属性って【カード】だろ?
頭に光る透明なカードを想像して、手に持つことができる。そんなカードをイメージして検査のとき水晶に触ったときに感じた熱を流すイメージだ。
「つまり、こう?」
手にギュオッと何かが集まるとカードが生まれた。
できちゃったんですけど……。
今の俺の中から手に集まったのがいわゆる魔力って奴なんだろうな。
「え?そこで何の補助も受けずに成功させちゃうかあ」
思わず苦笑いをしながらエオスさんは俺のカードを見る。
光ってて透明な以外何の変哲もないカードである。
それはガラスのような見た目なのにプラスチックのトランプのようにグネグネと曲げることができる代物だった。匂いはもちろん無い。
「うーん、硬さも何も無いカードね。何に使うかさっぱり分からないけど」
そう言いながらもエオスさんは俺に笑顔を向けてくる。
「おめでとうヘルメス。これで貴方も本当の魔法使いね」
「あ……」
そうか、俺魔法を使ってこのカードを生み出したんだよな。
そう思うと感慨深いものになってくる。
「ありがとうエオス先生」
美人で優しい最高の先生に俺は巡り合えたようで、俺は自然と笑みを浮かべることができた。