1-3 魔法と学校
「では、そのまま手を置いたままでいて下さいね」
そう神父に言われて俺は何をするというのだろうかと不思議に思いながら指示に従って手を置いたままでいた。
これから何が始まるというのだろうか?
心配になってマイアーを見ると俺が魔法を使えるという事実から未だ生還できておらず、口を僅かに開いたまま硬直していた。
目はちょこっと瞳孔が開いていて怖いよお母ちゃん!と思わず叫んでしまいたくなるような顔だ。
俺は見なかったことにして目の前の水晶に意識を傾ける。
すると目の前の景色が真っ白になって何もかもが消えてしまう。
「うわあっ!何だこれっ!」
と思ったら数字と文字が現れてきた。
「落ち着いてヘルメス君。そこに書かれている数字と光る玉が何色か教えてくれるかい?」
「光る……玉?」
そんな物はどこにもない。強いていうなれば【カード】という文字が周りが真っ白なので分かりにくいが白っぽいあるいは銀色っぽい光を発しているだけだ。
ついでに数字の方が……10394と。なんだか異常に多くないか?予想ならこれ魔力量だろ?こんなに多いと素直に言うと面倒なことが起きそうだ。
「数字は103で色は……うーん、白っぽいというか銀色?」
「っ……ほう!これはこれは」
神父さんが誤魔化した数字と白と言った瞬間に狂的な笑みを浮かべた気がしたが正確に言い直すと一気に落胆した顔になるも良い物を見つけたような顔に笑顔になった。
「銀色の光は固有魔法、固有属性と呼ばれる光です。貴族や王族がよく得ているような基本属性の六つとは異なるものですね。中には今の時点でどんな物か分かる人もいますが今分からなくとも十歳までには分かると統計に出ていますので安心してください」
「へーえ」
今の時点で分かっているが言わない方がいいんだろうな。正確な魔力量と言い割と面倒が付き纏うイメージだ。
しかも……今気づいたけどこの水晶って多分貴族用の奴だろ?何でこんなものがこの平民街の教会にあるの?
さっきの神父の表情といい、厄介ごとの臭いしかしない。
なんだか一気にきな臭くなってきたなあ。
もちろんいくら五歳児と言えどそんな表情をしてしまったらいらぬ厄介ごとが舞い込んでくるに違いないのでポーカーフェイスを決め込んではいるが効果があるかどうか。
まあ、魔法が使えてさらに魔力量まで分かって加えて固有属性がどんな物かまで判明したのだから嬉しくない訳が無く、年甲斐も無くどうしてもニヤニヤしてしまうのだけれど。
「これで検査は終わりです。お母さん?」
「はっ。はい」
その態度が五歳児として年相応であったためか、特に変なことを言うでも無い神父さんに呼びかけられたことでようやくマイアーが正気を取り戻した。
「ヘルメス君は固有属性ですので、既存の基本魔法が使えないと思いますがぜひ魔法学校に入学させて魔法の勉強をさせてあげて下さいね」
「魔法……学校」
学校ってあれじゃん。第二城壁の中にあるやつじゃん。貴族様が通う学校だろ。何で平民の俺が、って魔法を使えるからなんだろうなあ。
「入学するまでにあと七年もありますので今すぐという訳ではありません。今から少しずつ準備しておくことも可能ですので他のご家族とも話し合って決めて下さい」
「……分かりました」
神父さんの言葉に神妙に頷く母。なんか行く流れになっているけど俺の意志は必要ないのだろうか。楽しさと面倒さがセットになっててどっちつかずの思いなのが現状だから俺もなんとも言えないのだけれど。
こうして俺の洗礼と魔法検査が終了し、いくつかの厄介ごとと引き換えに俺は異世界で魔法使いデビューを果たした。
「あれ?でも魔法ってどうやって使うんだ?」
それでも俺の異世界の日々はまだ始まったばかりであった。
「と、いう訳なの」
「まさか……ヘルメスがな」
家に帰って夕飯を手伝いながら父の帰りを待って、早速魔法に関しての話し合いが行われる。
そう言う父であるゼニウスの言葉に俺はにっこり笑ってやった。ゼニウスは驚いているような物のどこか予感していた風である。
「どうしても外せ無かった今日の客が突然その従者らしき者が慌ててやってきて何事かと思ったら魔法の教育書はあるかと聞いてきたものだから、まさかヘルメスも何て思ったが実際にそうだとは」
ゼニウスは新人類だったのだろうか。妙に勘が優れているな。まあ、そんな力もあったから商人として上手くいっているんだろう。
「入学金は……金貨三枚だったか」
この世界というか大陸の名前がアルテナなんだけれどこの大陸で使われているのが金貨と銀貨と銅貨である。
それぞれ大きいやつと通常サイズの物があり大きい方が絵がしっかりと描かれていて小さい方の十倍の価値がある。
そして金貨一枚の十分の一が大銀貨一枚で金貨一枚の百分の一が銀貨一枚、金貨一枚の一万分の一が銅貨一枚という訳だ。実際に言ってみると舌噛みそうになるな。
銅貨は一枚百円くらいが目安で金貨だと百万円となる。なので魔法学校の入学金は大体三百万円だ。高いと思うが、魔法を習う学校ならそのくらい出してもおかしくないのかなあと感じるのは俺の精神がおっさんに近づいているからだろう。
「父さん、俺学校は別に行かなくてもいいよ?」
だって神父曰く貴族の人と俺の属性は違うんだろ?しかも俺はその貴族が使う属性は使えないとほぼ決まっていて習うことが正直あるんだろうかと首を傾げてしまうのだ。
「いや、魔法学校には行ってもらうぞ」
そう思っていた俺だが父には父の考えがあったようだ。
「魔法学校では戦闘訓練や野営の知識も学ぶから将来独り立ちするときに役に立つ。しかも学校は魔法関連とモンスター関連の知識が豊富にあるしな。いくら私が商人でも手に入る限界や教えられる限界はある」
それに、と父は続ける。
「貴族様とお近づきになれる機会があるなんて、最高じゃないか」
生きている間にコネを作って長男に繋げるのが父の目標。
目が金貨マークになったゼニウスが俺の目の前で笑っていた。