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1-13 乱戦と狂いガラス

 銃が咆哮を上げる。

 剣が空気と肉を断つ。

 大男が絶叫上げ、拳を滅茶苦茶に振り回し壁や床に叩きつける。

 いける。

 俺はそれをアイコンタクトしながら戦うガヨウとエオス先生の様子を見て確信する。


「ちい!何をやっているか!」

 しかしその状況はもちろん相手側にも伝わっている。

 商人はこのままでは負けるであろう大男の様子に気が付き、憤る。

「……っ!お前達もやってしまえ!まとめてかかれば奴らだってひとたまりも無いのだ!」

「お、おお!」

 目の前の戦いに呑まれていたチンピラが動く。

 俺はエオス先生の顔を確認する。

 そして背筋に悪寒が走る。

 先生は笑っていた。

 まるで獰猛な獣が格好の獲物を見つけたかのように。

 そしてそれはガヨウも同じだった。


「おおおおおおっ!」

「はあああああっ!」

 しゃがみ、蹴飛ばし、同時に反動を利用して移動する。

 前後左右、上下を余しなく使い運動量を上げる二人。

 それを俺の動体視力はしっかりと捉えているが体が反応することはできないだろう。

 それだけ二人は三次元的な戦いを得意とし、乱戦に慣れている。

 二人が動けば動くほどバタバタと人が倒れていく。

 もちろん大男への攻撃も忘れていないし、大男の攻撃も利用して敵を減らしている。


「すげえ」

「まあ、当然と言えば当然なのだけれど」

 ぽつりと俺が漏らした称賛の声にアロディは答えた。

「ガヨウは私付きだけど、目の前に争いが起これば突っ込んでいくタイプだから一対多の戦いは得意よ」

 なんたってヤクザ様だもんな。

 領地争いなどの抗争的なものがあったらガヨウが切り込み隊長的な役割をしていてもおかしくは無い。

 そしてそれが頻繁に起こっていればいるほどガヨウは乱戦に慣れているということになる。


「エオス先生は冒険者だからな」

 冒険者にも様々な役割があると思われるが先生は確実に魔物を倒すためのアッタカーだ。

 これ以上多い数の魔物との戦闘になったこともあるだろう。

 しかも相手はときに人間よりも大きく、ときに人間よりも小さい。

 そして人よりも力があったり、速かったりする生き物が相手なんだ。

 統率の取れていない人間相手の集団戦など先生にとったら相手の戦力を削れる絶好の戦いなんだ。


「ぐうう!情けないぞ貴様ら!」

 状況が良くなるどころか悪化している現状に商人は苛立つ。

「誰が貴様らの武器を準備してやったと思っている!貴様らが武器を使いこなせばそれは我が商会の宣伝にもなるのだ!こいつらを倒した奴には一人当たり金貨一枚をくれてやる!動け、働け、奴らを殺せ!」

「金貨一枚……!」

「う、おおおお!金は俺の物だああ!」

 金に目が眩んだチンピラがやる気を出して二人に突っ込む。

 しかしそれは新たな犠牲を増やすだけにしかならない。

 両手で短い剣を持ったエオス先生の剣舞に容赦なくチンピラは切り刻まれ美しさに目を奪われた者の足が止まる、柳のようにぬらりと次の瞬間には弾丸のように突然スピードを上げるガヨウのトリッキーな動きに翻弄されたものは拳と脚の餌食になる。

 もはやここは二人の独壇場になっている。


「くそ!くそくそくそおお!手柄を立てた物は商隊の護衛任務に就かせてやる!いや、護衛隊の隊長にしてやる!だから仕留めろ!」

 目が血走り、唾を飛ばしながらやけくそになる商人。

「はは、あ」

「あ」

 そんな常軌を逸し始めた商人と笑う俺と視線が合う。

 あ、やば。


「餓鬼だ!餓鬼どもを人質にとれ!」

「ちっ!」

 商人の言葉に反応したガヨウがスピードを上げるが如何せん数が多い。

 数人のチンピラが俺とアロディ目がけて走ってくる。


「あらら」

「何やってるのもう」

 俺とアロディは先ほどと同じように魔法を連発する。

 しかしそれは倒すまでには至らないので足止めにしかならない。

 先生とガヨウは正直今の状態で手一杯だろう。

 いくら二人が強くともなんでもできる訳じゃないのだから。

 

 どうする……?

 いや、どうするも何ももうこれしか残ってないだろ。

 俺は先ほど先生から受け取ったカードを右手に持つ。


「来い――――狂いガラス!」

 右手のカードから銀色の光が溢れる。

 その光を周囲に散らしながら、光は強くなる。

 光はどんどん大きくなり、やがて形を作っていく。

 もちろんそれは大きな鳥の形にだ。


「な、なんだあ!」

 一人のチンピラの声がきっかけになるかのように光が弾ける。

「キイイエエエエエエ!」

 光の中から突き破るようにして翼を広げた黒い怪鳥が誕生する。

 甲高い鳴き声を上げた黒い怪鳥――狂いガラスはその大きな翼で近づいてくるチンピラを薙ぎ払う。

「どわああああ!」

「ぐは!」

 狂いガラスの攻撃に簡単に吹き飛ばされるチンピラ。

 おお、人がゴミのように飛んでいく。

 しかし……これはきついな。

 魔力が物凄い勢いで減ってる。

 減る量は一秒当たり魔法数発分くらいか。

 一時間は持たないぞ。


「こっちは任せて先生!」

 それでもその時間だけあればきっと先生なら全員を倒す。

 俺は俺のできることをする。

 それだけだ。


「ふふ」

 エオス先生が笑った。

 剣舞のスピードが上がる。

 くるくると、ゆらりふらりと動きを複雑に変える鋼色の光が赤い血を生む。

 鋼の延長線上に伸びる赤い血がまるで伸びる剣先のように周囲にいるチンピラを捉える。

 チンピラ達の顔は畏怖に、恐怖に染まっている。

 足が止まり、手が震え、武器がぶれている。

 呼吸が荒くなり、視野が狭くなり、迫る脅威に気付かずに倒れていく。

 絶対的な強者を前にもはや蛮勇は砕かれていた。

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