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1-10 神父と救援

「結局貴方は明確な答えはくれないのね」

「諦めんなってことさ」

 はあっと息を吐くアロディに俺は親指を立てて返す。

 アロディは顔を上げるがその目にはもう悲しみは宿っていない。俺の言葉で元気づけられたのだとしたら男としては嬉しいね。


「おや?騒がしいと思ったら起きていたのですね」

 さて、どうするかと思っていたら部屋に男が入ってきた。どこかで見た顔だと思ったら小川によく散歩に来ている男だった。


「ふふ、思い出したようですね。そう、私は教会で神父をしていたものですよ」


 ……。

 うん、もちろん覚えていたよ。

 神父、神父さん――――ああ、あの笑顔が強烈な神父さんね、うんうん。

 それを小川で思い出していたらきっと捕まることは無かっただろうになあ。

「気付いて無かったのね」

 ぼそりと呟いたアロディの言葉がぐさりと心臓に刺さった。

「神父さんが奴隷商人とグルってことはあそこに洗礼にきた子供達からめぼしいのを見つけ出して後で攫って奴隷として売ろうって算段だったんだな」

「ついでに言えば、それをするだけの後ろ盾もあるのでしょう。貴族でも絡んでいなければ教会がそんな阿漕な真似を見過ごす訳が無いもの」

 俺とアロディの言葉に神父はどこかで見た笑みを浮かべて拍手をする。


「流石は今回最高値を期待できる少年少女だ。これならば買い手がつかなくて地下でのたれ死ぬこともないだろう。君達はきっと最低なご主人様が現れて高く買ってくれるだろうから安心したまえ」

「最低なご主人様……ね」

 大方想像通りのことをしてくるさぞ最低最悪なご主人様なのだろうよ。

 そして地下か。

 他の子供たちがどこにいるかは分からなかったがそこに居る可能性が出てきたな。


「容姿も良い。頭も良い。そして魔法も使える。実にいい物を見つけたものです」

 にたあと笑う神父だが聞き逃せない言葉があった。

「アロディ、魔法使えるの?」

「そういうヘルメスもなのね」

 アロディが魔法を使えるとなればどのくらいできるかは分からないが少しはここから逃げ出すという現実に期待ができそうか?

 大事なことをぽろぽろと漏らすダメな神父さんのお蔭だな。


「何を、どのくらい使える?」

「全般的に、発動できるくらいよ」

 つまりは俺と同じだな。

 魔法は使えるけど使い方が分かりませんと言った以前の俺の状態じゃなくてよかった。

 少しずつだけ希望が見えてきたって感じだな。


「ところでさっき貴族の後ろ盾があることを肯定していたような節があったけれど」

 いきなりアロディが神父に話しかける。

「どうしたんだい?」

「どの程度の力を持つ貴族なのか知らないけれど、貴方恐らく今日で終わるわよ」

 唐突で脈絡の無い断言に俺と神父が首を傾げる。あんま煽らないで欲しいんだけどな。

 アロディには何か確信があるようだけれど、神父や奴隷商人が何をしでかすかまだ分からないのだし。


「子供らしい、根拠の無い脅しだね。可愛らしいよ」

 しかし神父はまるで気にしていないかのようにアロディを鼻で笑う。

 アロディに対する明らかな嘲笑をその顔に浮かべている。


「しっかりと頭を回して考えればあの男が私を手放そうとすると思えないもの」

 その言葉と同じくらいのタイミングで俺の感性が何かを捉える。

 上を向くと僅かにそれが強まり、何かドタバタと騒がしい気がする。

 ああ、あの人が来たんだ。来てくれたんだな。

 思わず俺も笑みを浮かべてしまった。


「何だと言うんだこの餓鬼共は」

 神父が薄気味悪いものを見るかのように俺達をみる。

 混乱する神父にしっかりと俺は目線を向ける。

「貴族様に尻尾振って甘い汁を吸うのもいい気持ちだと思うけれど。あんま平民舐めんな」


「ヘルメスッ!」

「お嬢おおおおおおおっ!」

 聞き慣れ始めた凛とした綺麗な声と、野太い荒くれた男の声が頭上で響く。

 同時にドオオオオンッ!と建物を揺らすほどの爆音。

 パラパラと土と誇りが上から落ちてきた。

「ぎゃああああっ!」

「敵襲だっ!」

「どけやおらああああっ!」

「邪魔だっ!」

 ズガンッ!やらドズンッ!やらおおよそ人間が出せる攻撃音とは思えないような破壊の音が度々起こり、その音がどんどん近づいてくる。

 しかしアロディがお嬢かあ……。海外ではヤクザのことマフィアって言うんだったかなあ。


「ヘルメスッどこにいるの!」

「お嬢っ返事を下せええええっ!」

「ここよ」

「ここだよ先生」

 真上付近に来た時に特に声を荒げる訳でも無く普通に返事をする俺とアロディ。

 すると騒がしかった音がぴたりと止む。


 直後、爆音と共に天井が吹き飛んだ。

「うおおおおっ?」

 神父が驚きの声を上げながら崩落するする天井から逃れようと入り口付近にまで下がる。

「滅茶苦茶するなあっ!」

「きゃっ」

 アロディに被害が及ばないように縛られながらも体を跳ねるようにして動かした俺は身を挺してアロディに覆いかぶさる。

 ごつごつと頭やら体に石が当たる感触を感じながらなんか可愛らしい声が聞こえた気がする。


「ヘルメスッ!」


 バッと剣が振られたことにより土埃が晴れる。

 そこから大変頼りになる赤い髪の美人剣士と顔に大きな傷のあるどこぞのヤクザ様が現れた。

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