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1-1 目覚めの朝

 真っ黒な空間に徐々に青みを帯びた光が差し込んでくる。その光は次第に青から赤、そして白へと変化していく。

 その変化を瞼の裏で感じながら俺は重たい体を持ち上げてゆっくりと体を起こす。

「ああ、もう朝か。時間経つの早いなあ」

 寝てる間の時間の間隔など深く寝ていたら分からないはずだが、俺はまだ寝ていたいがためにそんなことを呟いたのだろう。

 でも、残念かな。今日は俺の生涯にとって非常に大事な日になる。そのために陽が姿を現すと同時に俺は目覚めたのだ。

「なんたって今日は教会の洗礼の日。魔法使いかどうか分かる日だからな」

 俺はドキドキする気持ちのままベッドから素早く降りて顔を洗いに部屋を出ていく。




 俺がこの世界に生を受けて満五歳になる。そして五歳になる歳に行われるのが教会の洗礼でそこで魔法が使えるかどうか確かめることができるのだ。

 貴族や王族になればその子供はほぼ魔法使いらしく、そのためにより詳しい検査が行われ得意な属性やら現時点での正確な魔力量が分かったりする。

 だけど俺は一応商人の子供なので比較的裕福ではあるが平民であり、しかも三男坊であり実家を継がないので高価な検査など行われるはずがない。

 これが大貴族や王族とも密接な関係にある豪商になると話は変わってくるのだが大中小でいうと中にあたるうちの実家が大貴族や王族と関わりがあるはずが無かった。

 という訳で俺は平民街にある普通の教会で行われる普通の洗礼を受け、普通の検査を受けるのだ。


「あら、早いわねヘルメス。流石に今日は起きれたようね」

「いや、毎日起きてるじゃないか」

 顔を洗ってリビングに顔を出すとすでに母が朝食の準備をしていた。俺の姿を見た途端そんなことを言う母につい俺は突っ込みを入れてしまった。と言っても俺が毎日起き出したのはつい最近のことだ。

 俺の前世の記憶が蘇ったあの日からになる。




 前の人生は特筆した物はとくに何もないと言ってよかった。趣味は漫画を読んだり、有名なライトノベルを読んだり、少しRPGよりのゲームが好きなどこにでもいる男だった。

 それが成人してからも続けばある意味立派な趣味かもしれないが、その趣味はいわゆる生産的でアウトドアのような活動的な趣味ではないために俺は基本一人ぼっち……通称ボッチな存在だった。

 友人と呼べる人達は確かにいる。しかし毎週、毎月のように遊んでいるかと聞かれたら問いに対する答えはノーであり、数か月どころか何か月に一回、下手をしたら同窓会レベルで会わない存在だ。

 それを普段携帯端末のソフトで連絡を取っている物の世間一般で友達と言うかは俺には断言することができなかった。


 そんなボッチな俺に人生の転機が訪れたとしたら働いている会社が経営者が病死したために倒産したことだろうか。そのため田舎から都会に出ていた俺は地元の田舎に帰ることになり、親に連絡をとって引っ越しの準備を進めて荷物を実家に送り、いざ引っ越しして地元に帰るぞー、と飛行機に乗ってから……前世の俺の記憶はここで途絶えていた。

 きっと何年かに一度起こる航空事故にでも巻き込まれたのだろう。百回か千回に一度落ちる確率なら俺が乗っている飛行機が落ちることもあると思う。

 そして俺はこの世界に輪廻したかどうかは分からないが転生した次第だ。

 もっとも前世の記憶が蘇ったのはある日の朝突然にではあるが。

 それからという物の俺は父親の部屋に入って基礎的な読みはできたので難しい文字を読んだり書いたりしながら本棚にある本を片っ端から読んでいた。その際に本を滅茶苦茶に置いてしまったり、高いと知らなかった紙やインクを文字を覚えるために使って大目玉を食らったのは異世界と前世のカルチャーギャップだよな。



「だってさ、魔法が使えるかもしれないんだよ?起きるだろ、健全な男の子であれば普通」

「確かに魔法が使えれば人生の幅が広がるとは思うけれど……私もお父さんも魔法使いじゃないのよ?」

 父であるゼニウスは商人として身を立て、若く一代にして中規模の商人と成り上がったとして一部で名高いがその身体能力はちょっと頑丈で背が高めな好青年である。

 母であるマイアーはこの世界では珍しい恋愛結婚でゼニウスと結婚した。その際二人は十五歳。中学生か高校生じゃんっ!と心の中で叫んだが前世でも昔ならそれは普通のことであったしこの世界では普通の事。お蔭で両親共にぎりぎり二十代という家系だ。

 そして肝心の魔法的な素養だが、マイアーの言っていた通り二人には魔法的な素養は無い。魔法は遺伝することが貴族や王族の血筋で分かっており、両親が魔法使いで無い場合の子供が魔法使いの可能性は一割未満だ。

 可能性としては絶望的だがこちらとらそれよりも低確率の飛行機事故に会い、さらに確率が低い……と思われる転生して記憶がある俺だ。

 一割未満何ていう確率を覆してくれるような気がしてならない。


「まあ、魔法使いは自分が魔法使いだっておのずと分かるっていうから……信じてたらいつかなれるんじゃない?」

「投げやりでどうでもよさ気な発言が出た!」

 こんな風に冷たい態度を装うマイアーという我が母であるが出された朝食はいつもより豪華で心なしか表情がいつもより明るい。きっとこういったツンデレが混在した母のギャップに父のゼニウスはやられたのだと思う。

「さ、食べたら着替えて。昼までに教会に行かないといけないんだから早めに準備するわよ」

「……まだ朝っぱらなのに何時間も前から準備するんだよ」

 思った以上にこの日を心待ちにしていた母に俺はちょっと引き気味になりながらもそこまで楽しみにしてくれて嬉しい気分になるのであった。

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