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悪役令嬢転生

しぼうフラグがたちました

作者: 鷹司

美しい青年が目の前にいます

伸びやかな肢体で堂々と立ち 黄金のような豪奢な髪を無造作に流す彼はまだ年若いにも関わらず力強い威厳に満ちていて、しかし天女も裸足で逃げ出すような美貌は不機嫌そうに歪み 空のように鮮やかな瞳は怒気を湛えこちらを睨みつけています

「私は学園で真実の愛を見つけてしまったんだ…だからレフィルローズ!いつも私を縛り付けていた君と婚約を破棄させてもらう!」


この国の第一皇子アウグレア・ハウゼン・スタットヘルト様は公爵令嬢である私レフィルローズ・アラングリアにそう仰いました


「…ええ、いいでしょう。しかしアウグレア殿下の独断でそのようなことを決めてしまいますと後々皇帝陛下からお叱りがあるかもしれません なので手続きやその他の所用にかかる3ヶ月間お待ちいただけますか?」

「逃げる気か?」

「逃げるわけではありませんが…私との婚約は王命でしたのでそれを一方的に破棄されるとアウグレア殿下の名に傷がつくことも考えられます どうぞその間は私は一切殿下と関わりませんからご自由にシルフィ嬢との愛を深めてくださいませ」

そう私が言うと 一瞬アウグレア殿下は口を開いたものの私の言っていることは彼の希望にある程度沿ったことではありますので勝手にしろと吐き捨てるように言うと柳眉を顰めながら去っていかれました

「…深められるものなら ですが」

皇子が去った部屋に聞かれることのない独り言をつぶやくと つい唇が笑みの形にゆがみました





あれから早くも約一月が経ちました

寮の私の部屋に訪ねてこられてすすめたソファーに腰掛けていらっしゃるのは今頃殿下愛を深めていらっしゃるはずのシルフィ・セレスティナ男爵令嬢

彼女はとても憔悴した顔で私に縋るような視線を向けてきます

「私…もう耐えられないのです」

妖精のように儚げで可憐なその口から溢れる声さえ愛らしく庇護欲をそそります

私は鷹揚に頷くと同情したように慰めを口にします

「シルフィ嬢は悪くありませんわ 殿下はこれまで私に制限されて暮らしていたのです、それがお優しい貴女に触れて箍が外れてしまっただけですわ」

「レフィルローズ様…」

藁にもすがるような視線で私を見るシルフィ嬢


そうでしょう

貴女の理想の外見の皇子様が私がいなければあんな肥え太るとは思ってもいなかったのでしょう?





こんなことを急に言うと驚かれると思いますが私は転生者です

幼い頃 婚約者であるアウグレア殿下とお会いするため連れて行かれた王宮を見てここが乙女ゲームの世界だと思い出しました 王妃さまの顔がそれはもう成長した殿下そのままでしたから…


それから私は自分の欲求を満たすためにお菓子や料理を作り 周りにも広め今ではスタットヘルト皇国は美食の国として有名にまでなりましたわ え?未来を知ってストーリーを変える?まぁ悪役令嬢ではありますがハッピーエンドになられて婚約破棄されても別段家は没落はしませんし まだ利用価値のあるこの身は国外に嫁がされる程度のことじゃないですか

それよりあんな三食粗食耐えられなかったんですもの 素材の味を生かしきらないのにソースも香辛料も満足にないなんて…!!

そんなこんなで我が国の皆様の口も徐々に肥え私の望む食事が当たり前のようにできるまでになりました…そこまでは良かったのですがアウグレア殿下はその料理を殊の外気に入ってしまったのです

これまで食に興味など示さず食べれればいいとばかりにしていた殿下は私の料理をとても気に入りそればかり食べるようになっていきました

ハンバーグにビーフシチュー、カレーにトンカツ、ピザ とどめにアイスクリーム…

現代日本の人なら解ると思いますがなかなか高カロリーなものばかりを殿下は食べました

そしてアウグレア殿下は基本的には動きたがらず食べたら食べた分だけ肥る体質だったのです


私だって驚きましたよ

乙女ゲームのパッケージのイケメンを知ってる身としては 天使からコロコロした子豚になっていく殿下を見て危機感感じまくりですよ

気が付いてからは皇帝陛下に許可を貰い1日のスケジュール管理をして適度に運動させ

朝は元のカロリー低めな粗食を出すようにし

月に一度 婚約者との交流の名の下に私が家に作らせた私の為のエステ隊に強制フルコースを受けさせたりしましたよ


その甲斐あって、学園に入学する頃にはパッケージ通りのイケメンに育った時には あぁ私頑張ったなって全力で自画自賛しましたとも

学園に入って学食を知り止める大人もいない為暴食に走ろうとする殿下に付きまとい食事量を制限したりもしましたね

でも そんな事をしていたので縛り付ける女と苦手意識を持たれ仲は良好とは言い難く

そこに現れた純真無垢(笑)な男爵令嬢に心を奪われ婚約破棄騒動に至ると言う訳ですが

男爵令嬢、絶対貴女も転生者でしょう?アウグレア殿下やその取り巻きを落とすのが効率的すぎますもの

おそらく一番お気に入りだった白皙の美貌を誇る皇子を攻略できて有頂天だったでしょうにこの一月で軽く見ても10kgは肥った皇子を見て冷めてきたでしょう?

イケメン少し俺様ならかっこいいと頬を染めれても、見る影もない肉肉しいお方から俺様な態度を少しでも取られると凄い顔が引きつっているのがわかりますよ?なにより前世でも魅力極振りアウグレアとか言われるほど外見に比べて全てが並程度な能力の男から外見をとったらそれは冷めるでしょうね

しかも私と違って圧倒的な身分差な上に 作ってきた純真無垢なキャラでは強く諌める事も出来無いし食事制限なんてそんな権限ありゃし無いとなると ぶくぶく肥る彼を見守るしかなくてどんどんやつれていきましたわね

どうですの?愛しい顔面が肉に埋もれるのを見守るしかない現状はいかが?

「アウグレア様のお側は私には過ぎた場所でした…」

そうでしょう手に負え無い所だったでしょう

「やはりアウグレア様の隣にふさわしいのはレフィルローズ様しかおりませんわ」

…正直 磨きに磨いたこの私と今の殿下でふさわしいと言われると腹が立ちますが 憔悴しきった彼女はそこまで意識がいか無いのでしょうね

「殿下にはやはり共に生きる自信がない事を伝え、身を引く事に決めました 今回の件、誠に申し訳ありませんでした」

「解りましたわ、後は私に任せて新しい縁を探してくださいませ」

私が保っていた外見にしか興味のない貴女なんて とっとと他に誑かした騎士団長子息とでもくっついて領地に引っ込んでくださると嬉しいわ



「レフィルローズ!そなたシルフィに何を吹き込んだのだ!」

彼女が去った後 すぐにアウグレア殿下は怒鳴り込んできました

重い体を引きずってこられたからか凄まじい汗ですわね

「殿下…私はこの1ヶ月間婚約破棄の為の書類を集め根回しを始めておりましたの、彼女にあったのは先程だけですわ」

「ならなぜ?!」

「自己管理もできない男に魅力など感じないからでしょうか」

「なんだと!無礼な!」

そうは言いましたがさすがに思い当たる事があったのか目が若干泳いでいますよ

「殿下…今回の件が無かったことになったのでまた婚約者として厳しい意見を言わせていただいてもいいですか」

「…言ってみろ」

「殿下の一番の長所は王妃様譲りの完璧な美貌です、その顔があるから外交で有利に立てると期待され それに加えて公爵家の私が嫁ぐことで皇太子に一番近いと言われていたのですよ?それがなんですか、長所を潰した挙句 男爵令嬢との婚約?廃嫡の危機でしたわね」

「なっ廃嫡だと?!」

そこまで予想していなかったのでしょうか?

これだから顔だけとか言われるのです もう少ししっかりしてもらいたいですね

愛しい愚かな婚約者さま



軟弱脆弱意志薄弱なあの殿下に廃嫡の危機が察せて自分の利点を生かそうと考えられればこれまでがんじ絡めに縛り付けていた私の努力などいらなかったでしょうに

そしてそんな殿下が好きな私も愚かだとは思います


しかし嬉しかったのです

最初は子供の遊びと馬鹿にされ貴族の令嬢らしくないと怒られていた私の作るお菓子を 婚約者に対する義理であろうと食べてくれて、そして素で気に入り喜んでくれて


私の元に戻ってくれて嬉しいですわ殿下

ぷくぷく私の料理で太った貴方も可愛らしいですが またこれからも制限しましょう

あなたは王族としての暮らししか知らないから、王になるのが幸せなんでしょうね

その幸せのために美しい殿下を取り戻してみせますわ

でも 私の料理を心底美味しそうに食べるあなたが好きなので

恋人を失い 廃嫡の危機に怯える殿下に声をかけます

「とりあえず元のように痩せるのは明日からにして 今日は一緒にカツカレーを食べませんか?」


私と貴方の幸せのために 健康で長生きしてもらわないと

脂肪など取り去ってあげますわ

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[良い点] 面白かったです
[良い点] ダイエットは明日から。
[良い点] タイトルからオチは有る程度予想できましたが 転生知識で料理チートで幸せ(?)をつかめたのは良かったです [一言] 正式な料理人でも知らない料理を 国の名声あげるまで作れたのは主人公本人に…
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