第6話~戦い①~
「「誓いを此処に!」」
そう発した瞬間。互いのデッキケースが光り、俺の胸ぐらいの高さに、エネルギーで出来た薄い板のようなものが水平に現れる。
その板の大きさは、大体俺の肩幅ほどで、赤く光りながら浮かんでいた。
見てみるとそこには、前衛や後衛といった文字が書かれていて、触れてもすり抜けたりしない。
俺は直感的にこれが、コントラクトモンスターズのフィールドだと悟った。
そして、互いに山札の上からカードを五枚引く。その後、奴のデッキが紫色の光を発した。
「先行は俺が貰うぞ小僧! ドロー!」
といきなり、グリフィーがケースからカードをドローした。
え!? 先行後攻って、じゃんけんで決めないのかよ!
そんな俺の心の叫びを無視し、グリフィーはターンを進めていく。
「スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップし、コールフェイズ! 俺はランク3『ガーゴイルの魔像』を召喚!」
グリフィーのフィールドにカードが置かれたと思うと、突然虚空から、角の生えた悪魔をかたどった気味の悪い石像が落ちてきた。
まぁ、カードが実体化するだろうとは思っていたから、そこまでは驚かないけどな!
「俺はこれでターンを終了だ」
グリフィーのターンエンド宣言により、俺の番が回ってきた。
「俺のターン。ドロー!」
手札は良いのか悪いのか半々だ。ちなみに内容は、ランク3のモンスターが2枚、ランク2のモンスターが3枚と言った感じだ。
「スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップ! コールフェイズ! 俺はランク3『マグマザウルス』を召喚!」
俺がカードを板に置くとやはり、虚空より口からマグマが涎のように垂れている小型の肉食恐竜が現れる。正直気持ち悪い。
とはいえ、やっぱり自分の召喚したカードが実体化するというのはどこかワクワクする。
「俺はこれでターンエンド!」
コントラクトモンスターズにおいて序盤は、低ランクモンスターをいかに素早く召喚することにある。中盤以降からの高ランクモンスターを出すためだ。
今のところはモンスターを一体ずつ出しているに終わっているが、向こうがいつ勝負をかけてくるか分からない今、堅実にモンスターを出すのが最善の策と言える。
「俺のターン。ドロー! スタンドフェイズ及び、ムーブフェイズをスキップし、コールフェイズ。俺はもう一体のガーゴイルの魔像を召喚してターンエンドだ」
グリフィーは同じモンスターを召喚するだけに留まり、モンスターの移動をしてこなかった。
それよりも、向こうのフィールドに同じ像が存在していて、怖いんだが。
「俺のターン! ドロー! スタンドフェイズをスキップし、ムーブフェイズ。マグマザウルスを前衛に!」
俺の命令通りに、マグマザウルスは唸りと共に前へと歩を進めた。
「更に、コールフェイズ! ランク3『マッハイーグル』を召喚!」
鳴き声と共に俺の肩へ、赤い翼を持つ猛禽が舞い降りる。
「頼むぞ、マッハイーグル。俺はマッハイーグルの効果発動! 速攻。マッハイーグルを前衛へ!」
ぴゅーい!と可愛く鳴いたマッハイーグルはすぐにマグマザウルスの隣へ移動した。
「アタックフェイズ! マッハイーグルで攻撃!」
マッハイーグルが文字通り、音速でグリフィーに突っ込む。
奴の場に守る為のモンスターがいない今。マッハイーグルの攻撃は確実に奴のライフを削るはずだ。
「ぐっ! 貴様ァ……!」
これで奴のライフは残り9となった。
このままマグマザウルスで攻撃したいんだが、守りの為にモンスターを割いておかないといけない。
「ターンエンドだ!」
グリフィーがさっきマッハイーグルに当てられた肩を押さえてこちらを睨み付けている。おぉ怖い怖い。
「先に俺のライフを削ったからといって調子に乗るなよ小僧! 俺のターン。ドロー!」
グリフィーはドローしたカードを見たとたんに手を顔に当て、急に笑い出した。
「はははははははッ! 残念だったな小僧! これで貴様の勝ちは無くなったぞ!」
「わかったから、負けフラグ吐いてないでさっさとターンを進めろよ」
地球だったら遅延行為で判定負けだぞ。
「言わせて置けば……! まぁいい。スタンドフェイズをスキップ。ムーブフェイズ。ガーゴイルの魔像2体を前衛へ!」
悪魔の像が座っていた台座から抜け出し、台座を持って前へと移動した。ていうか移動方法がそれかよ!
「続いてコールフェイズ。ランク2『スケルトンナイト』を召喚!」
紫色の霧から現れたのは、さっきまで俺やハリスさんに危害を加えた骸骨の騎士だった。
よし、アイツは絶対殺そう。
「更に、現代魔法『悪魔の呼び声』を発動!」
キャキャキャと言う声をあげ、ガーゴイル達が音程もリズムもあったもんじゃない程の下手な歌を歌い出した。
まさか異世界でリアルジャ〇アンのリサイタルになるとは思わなかったぜ。
「このカードは自分の場にランク3以下の同じ名前の悪魔が二体存在する時、デッキから三体目の悪魔を手札に加えることが出来るカード!
よって俺はデッキから三体目のガーゴイルの魔像を手札に加える。
更に、スケルトンナイトを休息状態にし、三体目のガーゴイルの魔像を追加召喚!」
スケルトンナイトからオーラのようなものが出て、そこから三体目のガーゴイルの魔像が現れた。
って。
「おかしいじゃねぇか! なんでランク3のガーゴイルの魔像が、一体のモンスターを休息状態にしただけで追加召喚出来るんだよ!」
「ふっ……そんなことも知らんのか小僧。ならば教えてやろう。
ガーゴイルの魔像は、手札にある、種族が悪魔のモンスターのランクを追加召喚する際にそのランクを一つ下げる効果をもっているのだ!」
偉そうにグリフィーが解説してくる。
要するにガーゴイルの魔像は、追加召喚にかかるモンスターの休息状態というコストを軽減する効果を持っているということでいいだろう。
「更に俺は、スケルトンナイトを墓地に送る」
スケルトンナイトは悶えるように苦しみながら闇の炎の中へ消えていった。ちっ……!
「これで発動条件は満たした。顕現せよ!世界魔法『デーモンズサンクチュアリ』を発動!」
瞬間。驚くべきことに、周りの景色が一変する。
質素な神殿は悪魔が蠢く魔界へと姿を変えた。
「世界魔法……だと……」
その存在は知っていたが、実物を見るのは初めてだ。
「俺はデーモンズサンクチュアリの効果発動!一ターンに一度、自分の前衛に存在する悪魔を休息状態にし、デッキから一枚カードをドローできる!俺はガーゴイルの魔像を休息状態にし、ドロー」
なんという効果だろう。これでは、ほぼ毎ターン奴は二枚のドローが可能になってしまうではないか。
インチキ効果もいい加減にしろ!
「更にアタックフェイズ。ガーゴイルの魔像で攻撃!」
「させるか! マグマザウルスでブロック!」
ふふん。馬鹿め!
マグマザウルスは効果なしモンスター故に、そのBPはランク3にして4000だ。それに対し、ガーゴイルの魔像のBPは3000だ。つまり、この攻撃で破壊されるのは奴のモンスターだけ!
そう思っていた時期が俺にも有りました。
「なっ……」
なんと、マグマザウルスがガーゴイルの魔像に押されているではないか。
マグマザウルスもマグマを撒き散らしながら必死に応戦しているものの、ガーゴイルの魔像が降り下ろした台座の角が頭にヒットし、そのまま動かなくなってしまった。
「はっはっは!この俺が何の計算も無しに突っ込んだとでも思ったのか?デーモンズサンクチュアリは互いのフィールドに存在する悪魔のBPをプラス2000する効果も持っていたのだよ!」
それを先に言えよ……!
理不尽な俺ルールが適用されてしまうのかと思わず膝をついてしまった。
それを俺が絶望したと勘違いしたグリフィーは大笑いしながら俺を指差す。
「ヴワァァァカめ! 初めから大人しくデッキを渡しておけば良かったんだよ! そうすれば、貴様の命だけは助けてやったのになぁ! しかし、貴様が俺にケンカを売った以上、貴様の命だけでは済まんぞ。そうだ! 俺が勝ったらあの村の奴らを皆殺しにしてやろう。ひゃっはははははは!」
あまりのゲスっぷりに思わず閉口してしまう。
精神攻撃はカードゲームじゃよくあることだから耐性はできているんだがな。
それでも、奴は聞き捨てならないことをのたまった。
「ふざけんなよ……なんで村の皆まで殺す必要があるんだ……」
ここだけは絶対に許せない。この戦いに負けて俺が死ぬんだったらまだ納得は行く。でも、俺のせいで誰かが傷つくのは見たくない。
友人からも、普段は冷静なのに、誰かが嫌がることがあったらとことん熱くなるよな。と言われたことがある。
実際そうかもしれない。
俺の問いにグリフィーは即答した。
「何を言っている。俺の気まぐれだよ!」
今、頭の中にある、細いなにかが千切れたような音がしたような気がする。
「そうかよ……なら――」
――お前を全力で倒す。
俺から滲み出る殺気を感じなかったのか余裕綽々といった感じのグリフィーは
「ほぅ。やれるもんならやってみろよ! 俺はこのままターンエンドだ」
俺のターンが回ってきた。
――さぁ、反撃の時間だ――
第6話終了時点での両者のフィールド
翔
ライフ:10
手札:5枚
フィールド:
(前衛)
ランク3 マッハイーグル
(後衛)
なし
デッキ:33枚
グリフィー
ライフ:9
手札:4枚
フィールド:デーモンズサンクチュアリ(世界魔法)
(前衛)
ランク3 ガーゴイルの魔像×2
(後衛)
ランク3 ガーゴイルの魔像
デッキ:31枚