第34話~リベンジマッチ①~
もう、迷わない
いよいよ始まった決勝戦。その幕開けは、奴のデッキが青く輝くことから始まった。奴の先行だ。
「俺のターン。ドロー! スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップ。コールフェイズ! 俺はランク3《荒ぶるカリブー》を召喚!」
一瞬の間の後に、茶色の毛並みを持ったカリブーが姿を現す。
初手はそう来たか。……来い!
「《荒ぶるカリブー》の効果発動! デッキの上から三枚をめくり、その中にデッキの上からカードを三枚公開し、その中にランク3以下の水属性のモンスターがいれば、一枚選んで、後衛に休息状態で効果召喚することが出来る!」
デッキの上から三枚のカードが宙に浮かんだ。奴はその中で青く光る一枚のカードを掴み取る。
「俺が選ぶのはランク3《アイスエッジ・リーパー》だ。よってこのモンスターを効果召喚!」
一陣の風が吹き荒れ、氷の鎌を手に持った骸骨が黒いローブの内側でケタケタ笑う。
この間の戦いでは見なかったモンスターだ。どんな効果を持っているか気になるな。
「俺はこれでターンエンドだ。さぁ見せてみろ! お前が手にした新たな力を!」
言われなくたってやってやるさ。もう、あんな無様な姿を晒してたまるか!
「俺のターン、ドロー! スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップ。
行くぞ、コールフェイズ! 俺はランク2《龍魂》を召喚!」
フィールドの一部が炎によって小さく燃え上がり、やがて収束していく。収束した炎はドラゴンの頭部の形を取った。
「《龍魂》の効果発動! このカードを墓地へ送り、デッキからランク3以下のドラゴンを後衛に効果召喚できる!」
龍魂が一瞬チカッと光りその形を崩して、俺のデッキを覆う。
しかしその瞬間、奴のフィールドから青いローブの死神が飛び出してきて俺のデッキへ氷の鎌を振るった。
氷の鎌に掬い上げられ、デッキのカードが墓地へ送られる。
いきなりの展開に正直言って驚かざるを得ない。だがおおよその見当はついている。
「さてはそのモンスターの効果か!」
「察しがいいな。《アイスエッジ・リーパー》の効果だ。こいつは相手のモンスターがフィールドから墓地へ送られる度に相手のデッキの上からカードを二枚墓地へ送る!
よってお前のデッキを二枚削らせてもらうぞ!」
成程、まさに氷の刃持つ死神という名にふさわしい効果だな。安易な破壊効果は控えた方が良さそうだ。
だが、これで《アイスエッジ・リーパー》の効果が終了し、再び《龍魂》の効果が現れる。
俺のデッキのカードが全て空中に浮かび、一枚一枚俺にのみ見えるように展開される。
おおう。なんか凄い展開の仕方だなぁ……!
若干感心しながら、俺は空中展開されたデッキから一枚のカードを手に取った。
その後すぐに展開されたデッキは元の位置へと戻る。
しかも、独りでにシャッフルまでやってるよ……。
まぁ、それは置いといて
「俺が選んだのはランク3《龍騎士バルザック》! よって《龍騎士バルザック》を後衛に効果召喚!」
俺のフィールドに現れたのは、赤銅の鎧と巨大な戦斧を身に纏った一人の騎士だ。
「ドンドン行くぜ! 俺は現代魔法《種の目覚めを発動!
発動条件として、手札のランク7《アライブドラゴン》を墓地に送り、そのカード以下のランクで、同じ種族のモンスター一体をデッキから手札に加える!」
《アイスエッジ・リーパー》の効果が発動するのはあくまで俺のフィールドからモンスターが墓地へ送られた時だ。だから、手札から墓地へ送るこのカードを使っても、俺のデッキは削られない。
そして再び空中展開されたデッキから俺が選ぶのは……
「俺が手札に加えるのは、二体目の《龍魂》だ!
更に、フィールドに存在するモンスター一体を休息状態にして、ランク2《龍魂》を追加召喚する!」
本来なら龍魂の追加召喚にかかるコストは二だが《龍騎士バルザック》の効果で、召喚、追加召喚にかかるコストを一、軽減できるというわけだ。
「そしてもう一度《龍魂》の効果発動!
このカードを墓地へ送ることで、デッキからランク3以下のドラゴンを後衛に効果召喚できる!」
「だが、《アイスエッジ・リーパー》の効果でお前のデッキを二枚削らせてもらうぞ!」
再び青いローブの死神が氷の鎌を振るい、俺のデッキの上からカードを二枚墓地へ送る。
まだ被害は四枚。大した事はない。
そして、三度空中展開されたデッキからカードを選ぶ。
「俺はもう一体の《龍騎士バルザック》を後衛に効果召喚!」
俺のフィールドには二体目の龍騎士だ。
もう一押し!
「俺はさっき効果召喚した《龍騎士バルザック》を休息状態にし、ランク3《龍騎士シュナイダー》をランク1扱いで追加召喚!」
二体の龍騎士がその戦斧を地面に叩きつける。周辺の地面が割れ、年若い一人の騎士が地面から飛び出してきた。その手には身の丈に余る大楯を持っている。
これで、俺のフィールドには三体のモンスター。しかも、召喚、追加召喚できるランクを二つも下げることができる。出だしとしては順調だな。
「俺はカードを一枚セットしてターンエンドだ!」
「中々やるな。一ターン目から苦も無くモンスターを三体も展開するとはな」
「生憎、今回ばっかりは負けられないんでな」
「だが、俺を倒すにはまだ遠いな! 行くぞ俺のターン。ドロー!」
奴のフィールドにはモンスターが二体。だが、奴は恐らく攻撃してこないはずだ。
だって攻撃しなくても勝てるからな。
「スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップ。コールフェイズ!
俺はランク3《アイスチャリオッツ》を召喚!」
青い光りに包まれて現れるのは、氷で作られた馬を操る氷像の戦車乗り。
その効果は手札に戻った時、相手のデッキを二枚削るもの。
コイツには前回の戦いでも《冬将軍パンカ》とのコンボに苦しめられた。
つまり、コイツを召喚したってことは……。
「俺はフィールドに存在する三体のモンスターを手札に戻し、手札から《冬将軍パンカ》を効果召喚する!」
ディルのフィールドに居た三体のモンスターが手札に戻り、ロシア兵のような真っ白い軍服を羽織った長身の男が現れる。
やっぱりパンカが手札にあったか!
「《冬将軍パンカ》の効果発動! このカードを効果召喚するために手札に戻したモンスターの数だけ、相手のデッキの上からカードを墓地へ送る!
更に《アイスチャリオッツ》が手札に戻ったことでお前のデッキの上にあるカードを二枚墓地に送ってもらうぞ!」
このコンボが決まってしまえば、俺のデッキは五枚削られる。さっきのターンと合わせて九枚だ。
パンカの周りにある空気が渦巻き、その温度が下がって行った。
温度の下がった空気は吹雪となり、俺のフィールドへ、じわじわと浸食して来る。
しかし吹雪が俺の近くへ来た途端、俺の周囲を半透明のバリアが包み込み、吹雪を一切寄せ付けない。
「どういうことだ!」
「残念だったな! 俺は古代魔法《サモンナイト・フィールド》を発動していたのさ!
このカードは自分フィールドに存在するモンスターの数にプラス一した数のランク以下のモンスターの効果をこのターンの間だけ無効にする!」
俺のフィールドのモンスターは合計三体。つまりランク4以下の効果を無効にできる!
「ぐうッ……! このコンボを破ってくるとは!」
「一度見せたコンボが何回も通用すると思うなよ!」
しかも、奴のフィールドには《冬将軍パンカ》が後衛に居るだけだ。つまり次のターン、奴を守るモンスターはいない!
「くっ……俺はこのままターンエンドだ」
そして巡ってきた俺のターン。ここから攻撃が可能になる。
「俺のターン。ドロー! スタンドフェイズで全てのモンスターを活動状態に、ムーブフェイズで《龍騎士シュナイダー》を前衛に移動させるぜ!」
大楯をもった騎士が、鎧を鳴らしながら前へと進む。
俺の手札は二枚。やることは決まっている!
「コールフェイズ! 俺はランク5《龍騎士ハルペー》をランク3扱いで召喚!」
現れるのは、赤い重鎧を纏った騎士。その顔と彼の持つレイピアには歴戦の後が刻まれている。
「更に《龍騎士ハルペー》の効果、速攻により、ハルペーを前衛へ!」
これで俺のモンスターは合計四体。その内二体は前衛に居る。
しかも奴の前衛にモンスターはいない。チャンスだ!
「アタックフェイズ! ハルペーとシュナイダーで攻撃!」
俺の宣言を受けて、ハルペーが空を裂かんばかりのスピードでディルへレイピアを突き上げ、シュナイダーが大楯を地面へと軽々振り下ろす。
「クッ!?」
衝撃の余波でディルの体が少し浮かび、後ろへ投げ出された。
しかし奴は壁に激突する寸前、三角飛びの要領で壁を蹴り、音一つ立てずに着地する。
身体能力高すぎんだろ……と半ば呆れかえる俺だった。
まぁこれで奴のライフは七。ひとまずはこんな所だろうか。
「俺はこれでターンエンド!」
俺のデッキは残り二十六枚。序盤で削りすぎたか……。
まぁ、俺のデッキが無くなる前に削り切ればいいだけの話だ。
「俺のターン。ドロー!」
これでディルの手札は八枚。流石にここまで手札が多いのはあまり見たことが無い。
「スタンドフェイズをスキップ。ムーブフェイズで《冬将軍パンカ》を前衛に移動させる!
そしてコールフェイズ! 俺はランク3《アイス・スタチュー》を召喚!」
奴のフィールドに、人を模した巨大な氷柱が現れる。
「《アイス・スタチュー》の効果発動! このカードを召喚した時、手札にあるもう一体の《アイス・スタチュー》を後衛に効果召喚出来る! 現れろ、二体目の《アイス・スタチュー》!」
奴のフィールドに二体の氷柱が並び立つ。その姿は、神殿を守護する番人のようだった。
同名モンスターだけとはいえ、ノーコストでモンスターを効果召喚されたのは少し意外だったな。てっきりまたカリブーが来るかとおもったぜ。
「更に、俺は《冬将軍パンカ》と二体の《アイス・スタチュー》を休息状態にして、ランク3《ハンドジャグラー》を追加召喚!」
現れたのは、氷をお手玉している青い燕尾服とシルクハットの男。その手つきは熟練した技術を感じさせる。
「ハンドジャグラーの効果発動! 一ターンに一度俺の手札を全てデッキに戻し、その数だけドロー出来る!」
奴の手札にある五枚のカードがデッキに戻り、再び奴の手札に収まる。
ここで、手札交換のカードか。もしかして手札があまり芳しくなかったのか?
ディルがドローしたカードを一瞥し、不敵にほほ笑む。
「フッ、来たぞ。俺は世界魔法《コキュートスの都》を発動!」
発動の宣言と同時に夕日の赤は吹雪の白に、熱気渦巻く闘技場は絶対零度の都に、世界が塗り替えられていく。
ドローフェイズ以外でドローした時、その枚数だけデッキのカードを墓地に送るこのカードに、前回の俺は歯が立たなかった。今度こそ!
「更に現代魔法《アイシクルソング》を発動。このカードは自分フィールドに存在する水属性モンスターにつき一枚、相手のデッキのカードを墓地に送る!」
奴のフィールドのモンスターは四体。つまり俺のデッキが四枚削られることになる。
四体のモンスターから放たれる白銀のブレスに為す術もなく、俺のデッキからカードが無くなっていく。
「俺はカードを一枚セットしてターンエンドだ」
俺の残りデッキの枚数は二十二枚。まだ半分以上残ってはいるが、前回もこれくらいの枚数でやられたからな。油断はまだできない。




