第29話~降臨~
迎えた俺の第三ターン。引いたカードは赤縁のカード。
さて、どう出るか……。
「スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップ! そしてコールフェイズ!
俺はもう一体の《龍騎士バルザック》を召喚!
更に、手札から現代魔法《詠唱棄却》を発動! このカードの効果により次に召喚、追加召喚するモンスターのランクが一つ下がった状態で召喚できる!」
これで、俺が追加召喚できるモンスターの最大ランクは5だ。だが、もうひと押しかける!
「更に、現代魔法《種の同盟》を発動する! このカードは、次に追加召喚するモンスターのランクを自分フィールドに存在する、召喚するモンスターと同じ種族のモンスターの数だけ下げた扱いで召喚できる!」
俺のフィールドには、ドラゴンである《龍騎士バルザック》が二体いる。
このままではランク2のモンスターしか追加召喚できない。
だが、二体の《龍騎士バルザック》、《詠唱棄却》、《種の同盟》の効果で次に追加召喚できるモンスターのランクはマイナス五されている。
つまり、最大でランク7のモンスターを追加召喚できるというわけだ。
「俺は二体の《龍騎士バルザック》を休息状態にし、ランク7《光輪龍ドラグーンヘイロー》を追加召喚!」
空から闇を引き裂いて現れるのは、黄金に輝く二対の翼を持つ翼龍。
その背後には聖人の絵などで描かれる後光が差している。
だが、コイツは速攻を持っていないので攻撃できるのは次のターンからだ。
「俺はこれでターンエンド!」
そして男にターンが回る。
周囲の闇は一向に晴れないどころか、どんどんどす黒くなっている気がする。
「私のターン。ドロー!」
ドローしたカードを見て、男の表情が一変する。
元々狂気に歪んでいた顔が、骨格がおかしいのではないのかと言うくらいにメチャクチャな表情になる。
「ふっ。ふははははははははははははははははははははははははは!!」
突然男が壊れたように笑いを発する。
その笑いは、顔芸レベルの表情と相まってより狂気的に見える。
「何がおかしい? 絶望的なカードでも引いたのか?」
「それはどうでしょうねぇ? スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップし、コールフェイズ!
私は現代魔法《等価交換術》を発動!
このカードは、自分フィールドに存在するモンスター一体と同じランクの相手フィールドに存在するモンスターのコントロールを入れ替える!
私は《邪教の呪術師》を選択し、貴方の《龍騎士バルザック》のコントロールを《邪教の呪術師》と入れ替えます!」
男が《邪教の呪術師》のカードをこちらへ投げつけ、俺もバルザックのカードを男へと投げ返した。
俺のフィールドに現れた《邪教の呪術師》は相変わらず表情が無い。
「更にランク3《邪教の突撃兵》を召喚!」
現れたのは、黒いコートを着た、二刀流の男だ。
そして、闇がどんどん広がっていくのを感じる。
これは……恐れているのか? 俺が、奴に? そんなことはありえない。奴のはったりだ。
そんなことを考えている内に、男は天高く一枚のカードを掲げる。
「これですべての準備は整った! さぁ見るがいい! 私は現代魔法《邪神降臨》を発動!
私のフィールドに存在する、元々の持ち主が相手のモンスターを三体墓地に送ることで、デッキから《邪神エレジレフ・レプリカ》を効果召喚する!」
男のフィールドに居た俺のモンスター三体が、カードから噴出した闇に蝕まれ、やがてその姿を消す。
闇は俺のモンスターを消しただけでは飽き足らず、フィールドをさらに濃く、黒く染め上げる。
「何だ……これは……!」
「さぁ、現れ出でよ! 全ての光を塗りつぶす、偉大なる闇の化身よ! ランク10《邪神エレジレフ・レプリカ》!」
フィールドを覆う闇が一点に集まり、一つの姿を為す。
それは全長十メートルはあろうかという巨大な骸骨だ。
だがそれは一瞬の事で、闇が骸骨へと集まり、血肉を作っていく。
最終的には黒いマントに身を包んだ壮年の男の姿へと変わる。
「あ……あああああああ!」
その姿を瞳に焼き付けたしまった俺の体は、知らぬ間に細かく震え、体の軸がどこかぶれているように感じる。
呼吸すらままならない。脳に酸素が回らない。
だが、これだけは分かる。俺はあのモンスターに怯えているんじゃない。あのモンスターの『奥』に潜んでいる何かに怯えているんだ。
『どうだ? 真の絶望に遭遇する気分は?』
どこか低い、男の声。だが、その声はさきほど俺と戦ってきた男の声とは全く違う。
「……誰だ!」
頭に酸素が回らずに、赤く染まりかけた視界の中、声を振り絞って叫ぶ。
目の前の男はおどけたように肩をすくめ
『我は汝等が邪神と呼ぶ存在。この世に破壊と絶望をもたらす者だ』
「邪神……だと!」
コイツが! コイツが電波神の言っていた邪神なのか。
信じたくないが、今俺の体に起こっている異常がコイツによるものだとしたら納得がいく。
だとしたら、コイツの姿を直接見たらどうなるんだ俺? 発狂するんじゃないのか?
『さぁ勝負を続けようではないか、炎獄覇龍を持つものよ』
……そうだった。俺は今コントラクトモンスターズで戦っている。
だとしたら、こんな所でビビッている場合じゃない。
そう考えると、少しずつ考えが纏まってきた。
乱れていた呼吸は元に戻り、震えも少しづつであるが収まってきてる。
さぁ、行こう!
頬を強く叩き、目の前の邪神に乗っ取られた男を見つめる。
先ほどまで、狂気に満ちていた男の表情から一変してその顔は落ち着きを払っている。
『我は《邪神エレジレフ・レプリカ》の効果発動! このカードの効果召喚に成功した時、このカード以外の我のフィールドに存在モンスター全てを破壊する!』
エレジレフ・レプリカが手を空へと掲げる。
すると、奴のフィールドのモンスター四体全てが闇に飲まれ消失した。
召喚するための条件が厳しい上に、フィールドのモンスターの破壊というデメリットの上にどんな効果があるんだ?
『そして、破壊したモンスターの数に一を加えた数だけ、このモンスターは相手ライフを削ることが出来、BPの合計数値分このモンスターのBPを上昇させる!
破壊したモンスターの数は四体、合計BPは12000。よって《邪神エレジレフ・レプリカ》は一度の攻撃で汝のライフを五つ削り、BPは元々のBP10000に加え、22000となる!』
「何ィ!」
嘘だろ! 一撃でライフを半分持っていく上に、BP21000というえげつないモンスターだったのかよ。
『幸いだったな。《邪神エレジレフ・レプリカ》は速攻を持ち合わせていない。故に攻撃できるのは次のターンからだ。
我はこれでターンエンドだ。さぁ見せてみろ、汝の力を!』
ヤバいな。このままエレジレフ・レプリカが前衛に来たら、かなり絶望的な状況になる。
だから、早急にケリを付ける!
「俺のターン。ドロー!
スタンドフェイズをスキップし、ムーブフェイズで《光輪龍ドラグーンヘイロー》と《邪教の呪術師》を前衛に!
コールフェイズ! 俺は現代魔法を発動し、デッキからカードを二枚ドローする!
さらに、三体目の《龍騎士バルザック》を召喚!」
デッキに入れることのできる限界である三枚しか入れていないこのカードだが、ありがたいことに良く手札に来てくれるな。
「ドラゴンが三体以上自分フィールドに存在する時、ランク1《龍騎士ケール》を手札から効果召喚する! 来い! 《龍騎士ケール》!」
現れたのは、弓を手に持ち、動きやすい布の服を着た狩人の少女だ。
これで、俺の後衛にはモンスターが三体。行くぞ!
「俺は後衛に存在する三体のモンスターを休息状態にし、ランク5《紅龍イグニス》を追加召喚!」
地面を割って現れるのは、赤い鱗を持つ、巨大なコブラだ。
これで畳みかける!
「《紅龍イグニス》の効果、速攻により、イグニスを前衛へ!
アタックフェイズ! 《光輪龍ドラグーンヘイロー》で攻撃する!」
ドラグーンヘイローが光り輝く翼を広げ、男に向かって突撃する。
コイツはツインブレイクを持っている。これでライフを七まで削らせてもらおうか!
ドラグーンヘイローの直撃を受けた男は、数メートルにもわたって吹き飛び、ようやく止まる。
全身から血を垂れ流しているが、その表情には何の変化もない。
『それで終わりか?』
「まだだ! 《紅龍イグニス》で攻撃!
更にイグニスの効果により、デッキの上から一枚めくり、それがドラゴンなら効果を無効にして効果召喚出来る!」
イグニスが前回戦った時とは打って変わり、しっぽを全力で男に叩きつける。
直撃すれば大怪我は免れない一撃だったが
『ふん。他愛ない』
轟音もしないまま少しの時が流れる。
何事かと思い、よく見てみると、男がイグニスのしっぽを片手で受け止めていた。
マジかよ、ありえねぇ……。
だが、まだイグニスの効果が残っている。
デッキからカードを一枚めくり、公開する。そのカードは
「よし! 《ツイン・ガトリングドラゴン》を効果を無効にして効果召喚!」
イグニスが吐き出した卵から生まれたのは、二門のガトリングを装着した、隻眼のドラゴン。
本当なら普通に出したかったがしょうがない。
「行け! 《ツイン・ガトリングドラゴン》! ガトリングファイア!」
ツイン・ガトリングドラゴンの両腕に移植されているガトリングが回転し、死の鉄をばらまく。
だが、男には弾丸が避けるように弾丸が逸れ、男の周囲をハチの巣に変えていく。
これで奴のライフは五。半分だ。
ここから《邪教の呪術師》で追撃できるんだが、何が起こるか分からないからな。一応活動状態にしておこう。
「俺はターンエンドだ!」
次のターン、邪神が動き出す。
だが、ドラグーンヘイローの効果で、相手の召喚したモンスターは召喚された時から二回自分のターンにならないと移動できなくなる効果を持っているから、多分大丈夫だろう。
まだ希望はある。