第28話~闇の中で~
唐突に始まった命を賭けた戦い。
その序幕は、男のデッキケースが禍々しい光を発した事により始まった。
「ククッ! 私の先攻ですね。私のターン、ドロー!」
今の所、相手の実力は未知数。
どんなデッキを使ってくるか予想だにもしないが、必ず生きて帰って見せる!
「スタンドフェイズ及びムーブフェイズをスキップ!
そしてコールフェイズ、私はランク1《邪教の尖兵》を召喚!」
漆黒の霧の中、現れたのは全身を黒っぽい服で統一した若い男だ。
しかしその瞳に生気は無く、槍を握り、人形のような無機的な動きをしている。
「《邪教の尖兵》の効果発動! このカードを破壊することで手札、デッキから《邪教の尖兵》を二体効果召喚出来る! さぁ、生贄になりなさい!」
男の宣言と同時に《邪教の尖兵》が爆発四散し、辺りに大量の血や肉が飛び散る。
その一連の出来事は、あまりのグロさに喉元まで胃液が昇ってくるほどだ。
どうにか口元を抑え、吐くのをこらえるが、気持ち悪いのには変わりない。
そして、飛び散った血肉が奇妙に蠢き、水っぽい音と共に肉が増殖する。
暫くした後、そこには新たな《邪教の尖兵》二体形成されていた。
「ククッ! 私はこれでターンエンドです」
相手の最初の動きはただモンスターを増やしただけか。
ならばこっちも……
「俺のターン、ドロー!」
最初の手札はまずまずだ。さて、こっからどう動こうかねぇ……
「スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップし、コールフェイズ!
俺はランク3《龍騎士エルド》を召喚!」
闇の中、光を纏って現れたのは、緑色の鎧を着こんだ老齢の騎士だ。
だがその瞳には年齢を感じさせないような強い光が宿っている。
「《龍騎士エルド》の効果により、俺はこのターン、もう一度だけ種族がドラゴンのモンスターを召喚出来る! よって俺は《龍騎士バルザック》を召喚!」
《龍騎士エルド》が地面に剣を突き立てると、地面を突き破って、赤銅色の鎧の騎士が現れる。
これで俺は一ターンに二度の召喚と召喚するモンスターのランクを一つ下げることが出来るようになったわけだ。
「俺はこれでターンエンド!」
ここまでで互いのフィールドにはモンスターが二体ずつ。出だしは互角といったところか。
「私のターン。ドロー! スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップし、コールフェイズ。
私はランク3《邪教の呪術師》を召喚!」
闇から現れたのは、これまた黒ずくめの装束に身を包んだ年端もいかないような少女だ。
首から綿が飛び出ている人形と五寸釘を持ち、濁った瞳でこちらを見つめている。
「《邪教の呪術師》の効果発動! このカードの召喚時、自分フィールド上のモンスター一体を破壊することで、相手フィールド上に存在するこのカードよりランク以下のランクのモンスター一体を破壊出来る!
よって私は《邪教の尖兵》を破壊し、《龍騎士エルド》を破壊!」
《邪教の呪術師》がその手に持っている人形へ、釘を思いっきり差し込む。
その瞬間、人形が釘を差し込まれた所から弾け飛び、《龍騎士エルド》と《邪教の尖兵》も同時に弾け飛んだ。
それにしても、一々演出がグロすぎるんだが、どうにかならないものだろうか。
「更に、私は後衛の二体のモンスターを休息状態にし、ランク2《邪教の死霊使い》を追加召喚!」
現れたのは、黒いマントを見にまとった浅黒い肌の男。
その周りには衛星のようにドクロの形をした煙がケタケタ笑いながら回っている。
「《邪教の死霊使い》の効果発動! このモンスターの召喚時、自分フィールドのモンスターを破壊することで、相手の墓地に存在するランク3以下のモンスターを後衛に効果召喚することができる!
私は《邪教の尖兵》を破壊し、貴方の墓地にある《龍騎士エルド》を私のフィールドに効果召喚!」
三度《邪教の尖兵》が爆発四散し、その血肉をドクロの形をした煙が取り込む。
煙の中で、血肉が脈動し人の形が作られていき、やがて《龍騎士エルド》が男のフィールドに立っていた。
それと同時に俺の墓地にあった《龍騎士エルド》のカードがひとりでに男の元へと移動した。
「自分のモンスターを生贄に効果を発動するモンスターかよ。いい趣味してるぜ」
「お褒めに預かり光栄です。しかし、目的を達成するためには犠牲は必要なものです!」
俺の皮肉も男にとっては褒め言葉らしい。
ただ、口の端から涎を垂らしながら恍惚とした笑みを浮かべているだけだ。
俺はそんな男の光景にただただ胸糞が悪くなる一方だ。
「私はこれでターンエンドです」
そして回ってきた俺のターン。このターンから俺の攻撃が可能になる。
「俺のターン! ドロー!」
引いたカードは現代魔法。まだこのタイミングで使えるカードじゃない。
ここは……。
「スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップしコールフェイズ!
俺は《龍騎士バルザック》の効果により、ランクを一つ下げ、ランク4《拳闘龍ナックルドラグナー》をランク3扱いで召喚!」
空から降ってくるように現れたのは、拳にバンテージを巻き付けたボクサー風のトカゲ獣人だ。
現れたそばから男に向かって、威嚇するようにシャドーボクシングをしている。
「《拳闘龍ナックルドラグナー》の効果、速攻によりナックルドラグナーを前衛に!」
軽快なステップで前衛に躍り出たナックルドラグナーは相変わらずシャドーボクシングを繰り返している。
まずは先制ダメージと行きますか!
「アタックフェイズ! 《拳闘龍ナックルドラグナー》で攻撃!」
ナックルドラグナーの、目にもとまらぬ速さで突き出されるアッパーカットが男の顎を捕え、その体を浮かび上がらせる。
男は頭から地面に激突するが、平然とした様子で立ち上がり、服に付いた土を払っている。
「ククッ! 良い! 実に良い痛みです!」
ともあれ、これで奴の残りライフは九。先制打は決まった。
「俺はターンエンド!」
今の所、俺のフィールドにはモンスターが二体、奴のフィールドにはモンスターが三体だ。
だが、今の所はこっちが有利だといえるだろう。
「私のターン、ドロー!」
引いたカードを見た男の口尻が吊り上がる。
それと同時に空間内の闇が濃くなっていく。
何だ。何のカードを引いたんだ?
「ククッ! スタンドフェイズ、ムーブフェイズをスキップしコールフェイズ!
私は現代魔法《リザレクション》を発動! 自分の墓地のモンスター三体をデッキに戻し、デッキからカードを一枚ドローする!
よって墓地の《邪教の尖兵》三体をデッキに戻し、デッキから一枚ドロー!」
マズイ。これで奴が《邪教の尖兵》を引いたら、またモンスターを増やされてしまう。
「クククッ! 私はランク1《邪教の尖兵》を召喚し、効果発動! このカードを破壊し、デッキから新たに《邪教の尖兵》二体を効果召喚!」
嘘だろ! ピンポイントで引きやがった!
これで、奴のモンスターは四体、これは中々やばいぞ・・・。
「更に私は四体のモンスターを休息状態にし、ランク4《邪教の奇術師》を追加召喚!」
現れたのは、黒の燕尾服とシルクハットを着こなした麗人だ。
しかし、その表情は仮面に隠れていてわからない。
「《邪教の奇術師》の効果発動! 一度だけ、自分フィールド上のモンスター一体を破壊し、このカードのランク以下の相手モンスターのコントロールを得る!
私は《邪教の尖兵》を破壊し、《拳闘龍ナックルドラグナー》のコントロールを得ます!」
赤と黒の二つの奇妙な箱にナックルドラグナーと邪教の尖兵が入れられ、邪教の奇術師がその二つの箱に剣を突き刺しまくる。
やがて箱が開き、残っていたのはナックルドラグナーだけだった。
「これでナックルドラグナーは私の物ですね!」
「クソっ。……ほらよ」
そう呟いて、自棄になってナックルドラグナーのカードを男に投げ渡す。
水平に移動したカードは真っ直ぐ男の元へ向かった。
おおう。すげぇ、カード手裏剣が出来た。
「ククッ! 行きますよ、アタックフェイズ! 《拳闘龍ナックルドラグナー》で攻撃!」
「くっ!」
つき出される右ストレートを防御の構えで受け止める。しかし、勢いだけは殺しきれず、二、三メートルほど後ろに吹き飛ばされる。
ナックルドラグナーの拳を腕をクロスさせてどうにか持ちこたえたが、余りの衝撃に腕が痺れる。
「ククッ! 私はこれでターンエンドです!」
これで互いのライフは9。しかし、ボードアドバンテージ的にこっちが不利。だが、こちらが不利でも、まだチャンスはあるはずだ。
「行くぞ! 俺のターン! ドロー!」
第28話終了時のお互いのフィールド
翔
ライフ:9
手札:4枚
フィールド
前衛
なし
後衛
ランク3:龍騎士バルザック
デッキ:33枚
男
ライフ:9
手札:3枚
フィールド
前衛
無し
後衛
ランク1:邪教の尖兵×2
ランク2:邪教の死霊使い
ランク3:邪教の呪術師、龍騎士エルド
ランク4:邪教の奇術師、拳闘龍ナックルドラグナー